資生堂におけるグローバル人材育成の現状

株式会社資生堂
人事部 人材開発室長兼キャリアデザインセンター長
深澤 晶久

1. 当社の現状


当社は、明治5年(1872年)に東京・銀座で創業しました。創業時は、洋風調剤薬局として事業をスタートしましたが、その後化粧品を中心としたビジネスを展開し、2012年に創業140年を迎えます。社名の由来は、中国の四書五経の『易経』の中にある「至哉坤元 万物資生(いたれるかなこんげん ばんぶつとりてしょうず)」から生まれており、新しい価値づくりを生業とする創業者の思いが込められています。文明開化から間もなくの日本にあって、西洋と東洋の文化の融合を目指しており、創業時からグローバルな企業を夢に描いていたことがうかがわれます。
初の海外進出は1938年に中国と台湾へと歴史に刻まれていますが、第2次世界大戦後の本格的な海外展開は1957年の台湾での事業開始です。既に50年以上の歳月が流れたことになります。現在では、全世界85ヵ国でビジネスが展開されており、2010年の資生堂グループ全体に占める海外売上比率は43%となっており、近い将来には、グループ売り上げの50%を超えるものと考えています。
2008年に示された「10年後に輝く資生堂の姿とこれに向けてのロードマップ」では、その柱は言うまでもなくグローバル化であり、2011年度からは、グローバル化の第2フェーズ「成長軌道に乗る」ことを目指し(図1)、末川新社長の下、「4つの成長戦略」を構築し(図2)、リージョンごとに「グローバルメガブランド戦略」「アジアブレイクスルー戦略」「ニューフロンティア戦略」「カスタマーファースト戦略」の実行段階に入っています。




2. 人材育成の基本理念


一方、弊社は創業時より社員教育に熱心であり、社員も勉強熱心であったことが歴史に残されています。当時は、「書生堂」というニックネームが付けられたというエピソードもあり、社員全員が簿記の勉強をしたり、また当時としては珍しいエスペラント語の勉強に取り組んだといわれています。また、本格的な海外事業の先駆けとなった台湾進出の当時、販売のトップであった吉田恒臣は、「化粧品は、ただ売るだけのものではない。消費者の要望と肌の状態をきちんとつかみ、それに合った化粧品と使用法を提示できなければならない。そのために美容法を正しくつかんでもらいたい。化粧品を売るのではなく、美を売る」と言っており、こうした考え方が当社の遺伝子として受け継がれており、「おもてなしの心」を大切に「100%お客さま志向の会社を目指し」、今、「日本をオリジンとし、アジアを代表するグローバルプレーヤー」に向けた事業展開に脈々とつながっていると考えています。


2006年には、前田前社長(現会長)が、3つの夢を発表し、その柱として「魅力ある人で組織を埋め尽くすこと」を掲げ(図3)、21世紀に通用する人づくりを目指し、「資生堂『共育』宣言」を策定しました(図4)。そして、2007年には企業内大学「エコール資生堂」を設立し、現在の人材育成への取り組みがスタートしたわけです(図5)。現在では、階層別、分野別に年間100講座以上の社員研修が行われており、社員は7つの分野のいずれかに認定され、プロフェッショナルな人材への育成に向け、各学部の学部長(各事業の役員)は、それぞれの分野に所属する社員の育成にオーナーシップを発揮し、人づくりが加速しています。




3. グローバル人材育成の取り組み


現在グローバルレベルでの人材育成や人材マネジメントを進めるための体系を整え、具体的な取り組みを加速させていますが、ここでお伝えする現地法人社員を中心とする社員の育成については、まずは、これらの実現のための人材基盤としてグローバル共通の資生堂グレードの導入を進めています。資生堂グレードの導入後は、現地法人のマネジメント層を大きく2つに分け、タレントマネジメントを推進します。現地法人トップクラスは、グローバルコア人材として、日本本社の人材審議の場において、育成プログラムの対象としてフォローをしてまいります。現法副社長やダイレクタークラスについては、各地域に設立するリージョナルコミッティー(地域人材育成審議会)にて、育成計画を策定し、研修などのプログラムを実施してまいります。研修の体系は以下の図表の通りですが(図6 〜 8)、SGLP(資生堂グローバルリーダーシッププログラム)は2011年で4回目となっており、基本的には日本本社にて2回のプログラム、そして毎年5月にはスイスのIMDにて学ぶというもので、毎回現地法人の外国人に加え、日本人社員(現地法人のトップクラスおよび国内の幹部候補社員など)とを合わせた編成で推進しています。




このSGLPには、社長をはじめ多くの経営トップが自ら参画し、グローバル視点での経営観、自らのリーダーシップ論など、経営視点からの示唆を教示していますが、2011年の開講時には、当研修のゴールとして次の3つが示されています。1つは、資生堂のこれまでの歴史の共有です。当社が長年にわたり育んできた、バリュー、フィロソフィー、カルチャーを共有しようとするものです。2つ目は、資生堂グループのこれからの拡大です。グローバル化に向けて、日本本社ならびにそれぞれの現地法人の抱えている課題を共有するとともに、最終セッションでは、受講者が自らの言葉で、自らの事業へのコミットメントをお願いしたいということです。そして3つ目は、参加者同士のネットワークの構築です。
また、2011年からは、SRLP(資生堂リージョナルリーダーシッププログラム)がスタートしました。これは、現地法人のダイレクタークラス社員を対象に行うもので、リーダーシップ力の形成に重きを置いた研修となっています。
これ以外にも、日本人のグローバル化に向けては、グローバルビジネス研修や、ジョブチャレンジ(社内公募)式で行う若手社員対象の「グローバルキャリア開発プログラム」などが推進されています。


4.まとめ


以上の通り、弊社におけるグローバル人材育成について述べてまいりました。そして、2011年4月には、新企業理念体系としてMVW(Our Mission Our Values Our Way)が発表されました。また、現在、大月人事部長の下、タレントマネジメントを進化させた「資生堂タレントレビュー」の策定に向けてのワークロードを描き始めています。人材育成を担当する者として、全世界で活躍できる「新しい資生堂人づくり」にまい進したいと考えています。

資生堂におけるグローバル人材育成の現状 誌面のダウンロードはこちら