三井物産/北京大学冠講座-中国におけるイノベーションへの貢献

三井物産株式会社 環境・社会貢献部 社会貢献室 室長補佐
吉川 里香

1. 三井物産の中国における体制

三井物産(以下、当社)は、中国では1980年12月に北京に初めて事務所を設立して以来、上海、大連、天津、青島、広州等に拠点を開設してきた。現在は、北京、上海、広州、香港にそれぞれ独立した現地法人を設立。中国内を4ユニット体制とし、分公司、事務所、出張所も各ユニットに属す構成をとり、これらの4ユニットを総括する中国総代表の下、中国ブロックとして運営している。

本体制の下、日本と中国間のビジネスはもちろん、当社が世界に展開する拠点とも連携して、中国発のグローバルビジネスの創造や、総合力を発揮した多面的な事業展開を行っている。また、中国ブロックと連携した社会貢献活動にも取り組み、主に国際的な視野を持った人材の育成や民間交流を通じて、日中の相互理解を深め、地域社会の課題解決から国造りへの貢献に取り組んでいる。

2. 北京大学冠講座

「北京大学三井創造・革新フォーラム」(以下、冠講座)は、中国経済が大きく成長していた2006年に設立された。2006年は国務院が「国家中長期科学技術発展計画綱要(2006-20年)」を発表した年であり、イノベーション型国家の実現を目指して中国のビジネス界、学術界と世界の一流企業との交流を促進すること、また大学教育制度の充実化によるイノベーション人材育成の強化が望まれていた。

こうした当時の中国における社会課題を踏まえ、冠講座は北京大学の学生がイノベーションの理論と実践に関する新たな知識や考えを吸収し、時代の脈動を捉え、将来のイノベーション型国家における役割を発揮することを目指して設計された。講師にはグローバル企業の経営者、国家の部門・委員会の副部長級以上の指導者、および国内外の著名な学者や専門家を招き、同大学の光華管理学院(ビジネススクール)において、イノベーションをテーマとする年間4-6回の講座を10年間にわたり開催する取り組みとして合意され、北京大学国家ハイテク区発展戦略研究院、および三井物産(中国)有限公司により共同で運営している。

中国と日本は産業の発展段階が異なり、直面している課題は必ずしも同じではない。10年前、中国経済は大きく成長を始めていたが、日本の経済力やイノベーション能力との間にはまだ開きがあり、日本から技術やビジネスモデルのイノベーションの面で学ぶべき経験が多くあった。冠講座の開講は、当社にとっても事業を展開する中国との経済協調や友好関係を育み、冠講座を通じた民間レベルの交流は事業基盤の強化につながる時宜にかなった取り組みと判断された。

2016年には開講10周年を迎えたが、こうした社会と企業の共通価値を創造し、持続可能な社会に貢献する取り組み意義について、過去10年間の成果を踏まえ北京大学と協議した結果、2021年までの延長を決定した。北京大学は、当社が派遣した日本企業の経営トップを中心とする特別講師(表)、およびその講義内容を高く評価し、10年後の今日も、中国にとって日本企業にはなお学ぶべき事があることを認識。また、当社にとっても中国は最重要市場の一つであり、日中両国の経済発展における相互補完性はなお継続するという理解の下、継続合意に至ったものである。これまでに累計57人(うち、日本人講師18人)が講演し、聴講生は延べ1万5,000人に及ぶ。



左から北京大学・武常岐教授、当社・安永社長

北京大学と当社は、両者の幹部レベルが定期的に交流し、緊密な関係を維持してきた。当社の過去10年の歴代3社長も講師として登壇している(写真)。年1回の理事会(冠講座の運営に関する助言を行う任意組織)では双方の期待値を擦り合わせ、質の高い講座の実施に努めている。

近年はWeChat等のSNS活用を通じて冠講座の開催を広く告知し、北京大学の学生以外の市民にも参加機会が開かれた。当社も、講師や講座の内容に関係の深いパートナー企業、および関係会社の社員等、企業関係者を聘するなど、日中のイノベーション交流の場としての役割に重点を置いている。

将来の中国の発展に貢献するリーダー人材育成という社会的意義の下、当社の新中期経営計画における最重要国の一つである中国での当社ブランドの浸透、および中国事業への理解を深め、企業価値向上に貢献する取り組みとして引き続き推進していきたい。

三井物産/北京大学冠講座-中国におけるイノベーションへの貢献 誌面のダウンロードはこちら