パクセー・ジャパン日系中小企業専用経済特区の開発計画と今後の展望

西松建設株式会社 国際事業本部 商務部長
望月 敏洋

1.西松建設のラオス進出の背景

当社は1962年に香港、続いて1963年に日系ゼネコンとして最初にタイに進出した経緯があり、以来、半世紀以上にわたり東南アジア諸国で建設工事に従事してきました。ラオスでは、2000年に完成した首都ビエンチャンにある「パークビューホテル」、2010年に完成したカムアン県の「ナムトゥン2ダム」の建設実績があります。

その後、タイにおける人件費の高騰を受け、日系企業が一部工程を移転させる機運が高まり、当社としてもタイ周辺国であるラオスでのビジネスを探ってきました。こうした中で、日本にも留学経験があるラオス人の現地パートナーとの合弁により、2015年3月に日系建設会社としてはラオスで初めての現地法人「ラオ西松建設」を設立し、ラオスにおける日系製造業向けの工場建設のニーズを踏まえたビジネスを開始しました。

2015年8月には、ラオス政府が同国南部のパクセーに「日系中小企業専用経済特区」の設置を認可し、このときラオ西松建設が、経済特区の測量、事業化調査を委託されました。この時点では、当社は経済特区の開発・運営には参画していませんでしたが、ラオス側からの強い要望もあり、また、テナントとして日系企業を念頭に置いていたことも考慮に入れ、2015年12月に当社の開発・運営事業への参画を決め、ラオス政府国家経済特区委員会、地元有力企業のサイサナグループ、サワン TVSコンサルタントと共に、合弁会社「パクセー・ジャパン SME SEZ開発株式会社」を設立しました。

2.パクセー・ジャパン日系中小企業専用経済特区の特徴とその優位性

パクセー市は、ラオス南部のチャンパサック県(人口約 60万人)にあり、ラオス第 3の都市です。近くに世界遺産にも指定された「ワット・プー」(クメール人が建設したヒンドゥー寺院)、コーヒーの産地として知られるボロベン高原、メコン川を阻むコーンパペンの大滝等があり、風光明めい媚びな観光都市としても知られています。

そのパクセー市内から車で15分程度の地に計画された「パクセー・ジャパン日系中小企業専用経済特区」は、全体で195haの敷地を計画しており、進出する日系中小企業には30年間の土地使用権を販売します。数期に分けて開発・販売を手掛ける予定で、最初の第1期開発は約66haです。

現在、第1期の開発計画のうち、経済特区の敷地から国道13号線にアクセスするための取り付け道路の整備と、第1期における第1フェーズに当たる2.5haの造成を終了しています。2017年には造成・インフラ整備を約11haまで拡張させ、販売の状況によってはインフラ整備をさらに進めていく予定です。開発地域付近には既に5社の日系企業が進出しており、経済特区の開発によって、さらに日系中小企業の進出が期待できます。


メコンおよびパクセー拡大地図


ラオスで操業するメリットには、安価な人件費と手先が器用な労働者を確保しやすいこと、「東南アジアのバッテリー」ともいわれる水力発電による安定した電力供給と安価な料金、親日的な国民性などを挙げることができます。パクセー・ジャパン日系中小企業専用経済特区は、これらのメリットに加えて、過去 50年間、洪水に見舞われたことがない高台に位置していること、周辺国へ出荷する際の物流アクセスが良く、企業登録・投資許可、輸出入の許可といったワンストップサービスも受けることもできるといった優位性を備えています。また、利益を生み出してから最長 10年間(業種によって免税期間は異なる)の利潤税(法人税)の免除、外国人の場合には個人所得税を5%に抑えられるといったメリットも享受できます。

この経済特区を「日系の中小企業専用」としているのは、日系企業を特に誘致したいラオス政府の意向の表れですが、大手企業の工場が建設されると従業員の奪い合いが発生し、賃金の急激な上昇が懸念されるため、安価な人件費を享受できなくなる状況を未然に防ぐ狙いもあります。そのため、日系中小企業の条件として「日本国内において設立された日本企業が、直接的または間接的に出資し、当該日本企業が実質的な意思決定を行っている企業であり、安定的な労働力を確保するため、工場内で雇用する想定労働者数が約300人以下の企業」としています。

これまでラオスへの外国からの投資は周辺国に比べて少なく、会社や工場勤務を経験したことのある若者が必ずしも多くないため、労務管理上の教育的指導が必要であること、日本語、英語が話せる人が少ないこと(ただし、タイ語は理解できるため、タイ人の協力が得られる)、物流量が十分ではないことから輸送コストが割高になる点も指摘されます。ただ、こうしたネガティブな要素は、今後のインフラの拡充と進出企業の増加によって、次第に克服されるのではないかと思います。

既にパクセー市とバンコクにつながる陸路は比較的よく整備されており、メコン地域全体の流通網が発展し、陸路の整備がさらに進めば、パクセーの多くの企業が輸出入に利用するタイのレムチャバン港向けの製造拠点としてだけでなく、ベトナムのダナン、ハノイ、ホーチミン向けの製造拠点としても、パクセー・ジャパン日系中小企業専用経済特区に対するニーズが高まることが期待できます。


第1期完成予想図


3. 今後の事業拡大に向けて

当社としては、近い将来、パクセー・ジャパン日系中小企業専用経済特区が、メコン地域における日系企業の拠点になることを目指しており、今後、日系中小企業の誘致を本格化させる予定です。まずは海外展開を検討されている多くの日系中小企業の方々に現地を訪れていただき、パクセーの魅力を知っていただきたいと思います。また、増加しつつある東南アジア諸国におけるさまざまな建設ニーズへの対応とともに、パクセー以外の地域においても、不動産開発および運営事業に引き続き参画してまいりたいと思います。
(聞き手:広報・調査グループ 石塚哲也)

パクセー・ジャパン日系中小企業専用経済特区の開発計画と今後の展望 誌面のダウンロードはこちら