三菱商事の豪州における水事業展開について

三菱商事株式会社 地球環境・インフラ事業開発部門
環境・インフラ事業 本部長
小形 明誠

三菱商事と水ビジネス


経済産業省の試算によると水ビジネス市場は、2007年の約36兆円規模から2025年には約87兆円に成長すると予想されている。世界の水マーケットが急速なスピードで拡大する中、当社は、2010年7月に発表した中期経営計画において、インフラ・地球環境事業を全社戦略分野と位置付け、水事業を積極的に推進している。
当社の水ビジネスは水処理関連機器や設備のトレーディングビジネスを起源とするが、1990年代後半以降は、上下水道施設の整備から運転管理、海水淡水化や再利用水・再生水等を含めた水事業を展開してきている。1997年のフィリピンのマニラウォーター設立を皮切りに、2010年の水ing社(旧荏原エンジニアリングサービス)への資本参加、TRILITY社(旧 United Utilities Australia)の買収等、国内外での幅広い取り組みを通じ、実績とノウハウを積み重ねてきた。本稿では、その取り組みの一例として、当社子会社である豪州TRILITY社を紹介する。


豪州の水事情


豪州は、近年の資源需要の高まり等を追い風に、堅調な経済成長を続けている。また、豪州の人口は、現在2,200万人だが、2035年には2,700万人に増加すると予想されている。一方、同国では、気候変動により、ある地域では集中豪雨に苦しめられ、ある地域では干ばつが深刻化するといった水の偏在が懸念されている。鉱山開発やエネルギー資源開発など資源産業向け水需要も高まりを示しており、新たな水源確保として、国土を囲む豊富な海水を有効活用する海水淡水化や、高度処理による排水の再利用などの「水のリサイクル」が進められており、水問題解決の重要な一手として期待されている。さらに、早くから普及が進んだ上下水道では、老朽化した施設の更新ニーズも高まりつつある。


TRILITY社の概要


TRILITY社(注1)は、3つの分野(水供給/排水処理/再生水)において、3つの機能(運転維持管理/資金調達/設計・建設)を活用し、3つのマーケット(自治体/産業/資源)向けに、安全で、安心な、環境に優しい水マネジメントのソリューションを提供することを使命としている。
同社は、豪州の東部、南部、西部にわたって各地域で個別プロジェクトを通じて、約60ヵ所の浄水、排水処理、再生水および海水淡水化の施設を建設・運営しており、その契約形態はO&M(注2)、DBOM(注3)やDBFO(注4)等多岐にわたる。また、TRILITY社が運営しているプラントの大多数は自社によって設計・建設されたものであり、300万人に、地域に密着した質の高いサービスの提供に取り組んでいる(図1、2)。

(注)
1 1991年に設立された英大手水道事業会社であるUnited Utilities子会社を2010年10月、三菱商事、産業革新機構、日揮およびマニラウォーターが全株式を取得し、経営に参画している
2 Operation & Maintenance =施設の運転および維持管理に係る業務
3 Design, Build, Operate and Maintain =請け負った側(民間企業など)が、一定期間にわたり施設の設計・施工・運営・保守に責任を負う契約形態
4 Design, Build, Finance and Operate = DBOMに加え、投資およびファイナンスアレンジを含めて包括的に長期に発注する契約形態


(図1)ヤンイーン上水道施設


(図2)マッカーサー上水道施設


TRILITY社の事業展開


TRILITY社は、2011年、西豪州政府が水事業分野で初めて手掛けるPPP水事業案件を受注した。本案件は、パース近郊に新しく浄水場、ポンプ場、送水管を建設し、その後、35年間にわたり、それら施設の運営維持管理を行う。本案件の建設費用は約250億円であり、事業資金の一部をプロジェクトファイナンスにより調達する。これら個別プロジェクトの受注に加え、既存投資プロジェクトの持ち分買い増し等により事業規模をさらに拡大し、また、M&Aを通じて水処理設備販売/保守点検会社を傘下におき、官需のみならず、同社が強みを持つ民需においてもシナジー効果を発揮し、新たな市場・顧客を開拓していく。


TRILITY社の戦略


前述の通り豪州の水ビジネス市場は、人口増加と経済成長、既存施設の更新需要等を背景に引き続き拡大が見込まれている。
TRILITY社としては、お客さまの水に関する問題やニーズに対して、同社が提供できるサービス(設計、建設、オペレーション、メンテナンス、アセットマネジメント、資金調達等)を最適に組み合わせた水マネジメントの提案を行い、中長期的にお客さまと共に水問題の解決に貢献を目指す。当社としても、これまでさまざまな分野での事業を通じて培ってきたネットワークやノウハウと、とりわけ、豪州では、同国での資源分野で培った当社の強みを、非資源分野である水・インフラ事業にも活かしながら、TRILITY社を通じて地域社会への貢献を目指していきたい。

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