住友商事の海外工業団地ビジネス「ご契約いただいた時が、お付き合いの始まり」

住友商事株式会社 新事業・機能推進事業部門
物流保険事業本部 海外工業団地部 部長
福田 康

1985年のプラザ合意以降の急激な円高を背景として、日系企業が積極的に海外進出を開始しました。これを受け、住友商事は日系企業の先陣をきって海外での工業団地ビジネスに参入しました。工業団地ビジネスとは、まず土地を確保し、そこに電力や上下水道など入居企業の操業に必要なインフラを整備した上で、主に日系企業に工業団地内の土地の所有権(または使用権)を販売するというビジネスモデルになります。
1980年代後半、タイやマレーシアでは既に現地資本が工業団地を整備し、積極的に日系企業を誘致していましたが、それ以外のアジア諸国では操業に必要なインフラが整っておらず、日系企業が満足できる工業団地が存在しませんでした。その代表的な国が、東南アジアで最大の人口を抱えるインドネシアであり、その当時、外国資本の民間企業による工業団地開発は規制されていました。そこでインドネシア政府に対して規制緩和を粘り強く働き掛けた結果、1989年に規制緩和の実現に至りました。その翌年に、インドネシアで初となる外資民間企業による工業団地「イーストジャカルタインダストリアルパーク(East Jakarta Industrial Park:EJIP)」を設立しました。その後、ベトナムとフィリピンでも工業団地を開発し、現在では3ヵ国で合計4ヵ所の工業団地を運営しています。この4ヵ所の工業団地の合計開発面積は1,200ha、東京ディズニーランド約24個分の敷地に今では約300社の企業が入居し、約13万人の雇用を創出しています。こうした自社で開発・販売・運営する工業団地に加え、インドネシアやタイで、現地企業が開発した合計4ヵ所の工業団地の販売のお手伝いも行っています。


タンロン工業団地(ベトナム)の入り口。
6万人を超える従業員が、日々この門をくぐる

海外工業団地ビジネスは開発から販売、そして完売後の運営に至るまで、非常に息の長いビジネスです。まずは進出企業の方にご満足いただけるような立地を選定し、その土地の確保を図るとともに工業団地開発の許認可を取得していきます。この段階では、まだ入居企業との契約はもちろん、予約も何もない状況で取り進めていきます。その後、環境問題や洪水対策などに配慮したインフラ整備を行い、これらの工事が完成するといよいよ入居企業の誘致となります。しかし、短期間に引き合いが殺到することもあれば、長い時間 をかけて販売することもあります。そして完売 してもそこで役割が終わるわけではありません。なぜなら、企業にとって工業団地への入居は「ゴール」ではなく、新たなビジネスの「スタート」だからです。そのため住友商事は「ご契約いただいた時が、お付き合いの始まり」をモットーに、土地の販売のみを目的とせず、入居企業の操業支援に重点を置いています。電力や工業用水の供給などハード面の安定供給は当然のことながら、例えば現地法人設立の手伝いや労働者の雇用支援、労務管理のノウハウ提供や、頻繁に起こる法律改定の告知など、総合商社のネットワークを生かしていち早く情報を入手し、入居企業への情報提供を行っています。また、入居企業の要望を吸い上げ、日系企業を代表して法令の改善要求など政府機関との折衝を行うこともあります。

総合商社である住友商事ならではの強みを挙げるとすれば「総合力」です。海外工業団地部は建設不動産本部ではなく、「物流保険事業本部」に属しています。自社で開発する工業団地に物流センターを設置・運営し、入居企業の工場建設に伴う設備輸送はもちろん、工場の稼働開始後は原材料や部品の調達、製品の出荷など物流支援ができる体制を整えています。またこうした物流機能の提供に加え、例えばベトナムのタンロン工業団地では金属事業部門のコアビジネスの1つである金属加工事業(スチール・サービスセンター)を、インドネシアでは電子材部品の簡易加工・組立事業などを展開する事業会社を工業団地内に配置するなどして、入居企業に総合的なサービスを提供しています。いわば工業団地が触媒となり、住友商事のさまざまな事業を通して入居企業の操業を支援することこそが、住友商事の工業団地の大きな強みとなっています。


タンロン工業団地(ベトナム)遠景。ベトナムの年間
輸出総額の約 3%強が、ここで生み出される

最近の円高や少子高齢化により国内市場が頭打ちになり、日系製造業は成長著しい新興国に活路を求めて海外進出の動きをさらに活発化させつつあります。工業団地の新規開発は、複雑な法律への対応や土地確保など超えるべきハードルは生易しいものではありませんが、これまで培ってきた知見を活かし、東南アジアを中心として、新規工業団地の開発や既存工業団地の拡張などの検討を進めていく予定です。

工業団地事業は進出する日系企業のみならず、雇用の創出や高度な製造技術の導入、そして外貨の獲得などにより、その国とWin-Winの関係を築くことができます。住友商事は「ご契約いただいた時が、お付き合いの始まり」をモットーに、これからも入居企業や、その国の経済発展、およびそこに暮らす人々の「豊かさと夢の実現」に貢献します。

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