三井物産の豪州塩田事業について

三井物産株式会社 基礎化学品本部 クロールアルカリ事業部 部長本庄 一成
三井物産株式会社 基礎化学品本部 クロールアルカリ事業部 塩事業室 室長高橋 裕之

1. 塩田事業の変遷


右から本庄氏、高橋氏

当社は、西豪州のシャークベイとオンズローに100%出資の塩田を保有し、両塩田を合わせた生産能力は380万t規模に達する。塩田事業の歴史は1973年、シャークベイの塩田事業へ49%出資参画したことから始まり、2005年にシャークベイの100%子会社化、2006年にオンズローの塩田事業権益を取得するなど、ビジネス形態を「物流主体」から「事業者」へと変化させてきた。シャークベイ塩田への出資参画を開始した1973年当時、日本ではソーダ工業が勃興するなど塩の需要は高まっていたが、塩業整備の法律改正(注1)により国内の塩田用地の利用が制限されるようになっていた。商社各社は、塩の安定供給を実現すべく、国外での生産に乗り出し、当社は塩の生産に適した温暖で風が強く、湿度が低い豪州に着目し進出を果たす。現在、西豪州で生産している塩は、日本をはじめ韓国、台湾などの極東地域や東南アジア向けに輸出されており、今後はさらなる市場成長が見込まれる中国向けの輸出強化を視野に入れている。

(注1)昭和46年法律第47号 塩業の整備及び近代化の促進に関する臨時措置法


2. 西豪州の塩田概要


―シャークベイ塩田


年間生産量130万tのうち7割が食用として輸出されているシャークベイ塩田は、西豪州パース市の北約800㎞に位置し、1991年には世界遺産にも登録されるなど、清浄で塩分右から本庄氏、高橋氏の多い海水からは、高品質の天日塩がとれる。近隣の街まで300㎞ほど離れており、操業当初からシャークベイの住民は塩田関係者のみ。当社が100%出資するようになってからは、従業員宿舎の整備や、子弟の教育施設・福利厚生の完備にさらに力を入れ、離職率も低くなり、高品質・高生産性に結び付いている。今後も、安定操業を維持するため、出荷設備の更新や洗浄機の入れ替えなどを計画している。


―オンズロー塩田


シャークベイ塩田空撮

パース市の北約1,300㎞に位置するオンズロー塩田では、年間250万tの電解工業用の原料塩が生産されている。オランダのアクゾノーベル社から買収し100%出資となってからは、シャークベイと同様に従業員の居住環境の整備、福利厚生などに力を入れる一方、生産体制を増強するためにもできるだけ早い段階でボトルネックを解消し、生産能力を20%程度増す予定。


3. 塩田事業のオペレーションとリスク


―塩田のオペレーション


工業塩貯塩

もともと、当社は一次問屋として塩の販売を行っていたが、商売が大きく飛躍するきっかけとなったのが、シャークベイ塩田への出資参画であった。通常、商社が製造業に進出する場合、高い技術力を持ったパートナーを選定した上で、ビジネスを共同で行うケースが大半だが、塩田事業は他の製造業と比べ技術的な難易度が低く、オペレーション自体も比較的単純であることから、当社でも事業主となることができた。製造業に進出することでマーケットでの存在感を高め、物流商売も強化しながら、投資先の生産効率を高め、塩田事業を円滑に運営することで事業益の拡大ももくろむ「投資と物流の両輪」で稼ぐビジネスモデルへ移行していった。


―塩田運営のリスク


海水を日光や風の力で蒸発させる天日塩を生産しているため、サイクロンなどの天候災害が最大のリスク要因となる。2008年には、サイクロンによる暴風雨で堤防が決壊し、濃縮した塩のため池に海水が流れ込むなどの被害を受けた。浸水した水が引くのに約1ヵ月、生産が復旧するまでに約半年を要するなど被害は甚大であった。塩田運営は、自然災害というコントロール不可能なリスクにさらされ、通常の製造業のように設備増設で不足分を補うなどの施策が打てない。リスク分散としては、災害による生産停止に備え、供給側・需要側で、一定の在庫を保有するなどの対策を行っているが、限界があるため、最悪の場合はフォース・マジュール(注2)を宣言するケースもある。

(注2)売買契約における不可抗力


4. 塩市場の現状と今後の展望


現在、世界の塩需要量は2.6億tで、そのうち工業用の需要が65%を占める。用途は、カセイソーダ・EDC・ソーダ灰・PVC・凍結防止剤など多岐にわたり、アジアで2,000万t、世界全体で3,000万tもの取引量で、今後も需要拡大が見込まれる。また近年、中国におけるソーダ工業が勃興する中、中国国内の塩田建設が規制されるなど、さらに需要が拡大することも予想される。アジア域内に流通する塩は、豪州・メキシコ・インド産など供給先が限られており、需給バランスがタイト化するとの見方もある。
このような世界的な需要の高まりに対して、当社のシャークベイ塩田では、港湾設備の増設などでボトルネックを解消し出荷能力を増やし、付加価値の高い食品加工向けの塩の輸出を拡大する。オンズロー塩田では、洗浄機の更新などにより生産能力を増やし、工業用に特化した塩の生産を強化する。特に、電解工業分野では中国での急速な需要拡大が見込まれているため、中国をはじめアジア諸国へ向けた電解工業需要家への販売を強化し、今後も総合的な原料塩サプライヤーとして積極的な事業展開を目指していきたい。

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