丸紅の再生可能エネルギーへの取り組み ―欧州洋上風力発電事業を中心に

丸紅株式会社 電力・インフラ部門
海外電力プロジェクト第三部 副部長
栗原 聖之

1. 丸紅の電力事業の変遷


丸紅の電力事業への関わりは、1960年代、日本重電メーカーが製造した発電・送変電システム設備の海外輸出から始まり、80年代には発電設備の建設請負(EPC(注1))案件に参画、90年代に入るとEPC案件のみならず、IPP(注2)事業者として発電事業にも参画するなど進化を遂げた。そして2000年代には、電力卸売事業や再生可能エネルギーへと事業を拡大、2010年以降は、送電線事業・電力小売事業にも参画するなど、電力ビジネス全体のインテグレーターとして、事業を拡大・進化させている。

(注1) Engineering, Procurement and Constructionの略。発電設備の一括納入請負
(注2) 発電事業を行う独立発電事業者


2. 海外発電事業


―電力事業案件
丸紅は2011年12月現在、事業会社持分発電容量(ネット発電容量)として約8.7GWを保有している。この発電容量は、日本の中堅電力会社とほぼ同じ規模であり、日系商社の保有発電容量としては最大であると同時に、全世界のIPP事業者の中でも5-7位程度のポジションに位置する規模である。丸紅では、今後数年以内に発電容量を現在の8.7GWより、11GWまで増やし、再生可能エネルギー発電の比率を全体の10%程度にまで引き上げることを目指している。従い、洋上風力発電のような大型の再生可能エネルギービジネスに力を入れている。

―再生可能エネルギーの展開
世界の再生可能エネルギー電源の割合とその推移予測を見ると、風力発電の比率は限定的であるが、地域別に見ると、欧州、米国、大洋州に加え、中国、インドの伸びが目立っている。昨今、原子力発電の代替電源の1つとして、再生可能エネルギーを積極的に導入しようとする動きが、特に欧州で活発化しており、洋上風力発電のような大型再生可能エネルギー案件についてさらなる拡大が期待されている。


3. 洋上風力発電事業


―事業開発のポイント
洋上風力発電事業は、再生可能エネルギー発電事業の中では、発電・変電・送電設備等の大型設備を洋上に設置することから設備費用が大きい。このため、洋上風力発電の導入・推進国では、インセンティブ・補助金等を通じて、 発電事業者がこれらの設備費用を回収できるよう、電力価格制度を設計・見直ししている。この電力価格制度が事業採算性やキャッシュフローに大きな影響を与えるといった「制度リスク」が存在する。従い、どの市場(国)で、洋上風力発電事業を手掛けるかが重要となる。
一方、洋上風力発電設備の設置・建設は、全てを1社でとりまとめる、いわゆるフル・ターンキーコントラクターが存在しない。このため、設備の設計、風車を含む設備の選定、設備の据え付け工事・各設備のシステム統合といった「総合技術リスク」をデベロッパーが統括している。従い、デベロッパーのノウハウが極めて 重要で、「制度リスク」と「総合技術リスク」を 踏まえながら、事業を進めることがポイントで ある。
例えば、丸紅のパートナーであるデンマーク ドン・エナジー社は、事業開発に関わる洋上風車の調達、設置のための海洋エンジニアリング、洋上風車設置に使用するために不可欠な特殊船の保有、電力会社への売電といった、全ての分野でノウハウを有している総合エネルギー会社である。また、風車メーカーでいうと、2011年の送電線つなぎ込み済みの洋上風力発電機の風車設置数では、独シーメンス社は世界全体の85%のシェアを誇っており、同社は保守体制が充実している点、特殊船主であるという点において、優れている。同社からの風車調達は融資を行う金融機関に対しても安心感を与えている。丸紅としては、両社の実績を鑑み、総合エネルギー会社のドン・エナジー社、風車メーカーのシーメンス社をパートナーとすることが、最良との判断となった。


英ガンフリート・サンズ全景

―英国ガンフリート・サンズ洋上風力発電事業丸
紅が、ドン・エナジー社と出資・参画している英国ガンフリート・サンズ洋上風力発電事業では、南東部エセックス州の沖合7㎞の位置に、シーメンス社製の風車48基を設置し、2010年春より英国の約12万5,000世帯分の発電を行っている。風車羽根の直径は、107mで、羽根を含めた最高地点は129mと、葛西臨海公園にある大観覧車とほぼ同じ大きさである。英国では、2007-09年までの洋上風力発電設備容量が年平均成長率40%で拡大している。英国政府は2020年には洋上風力電力設備容量において欧州全体の75%とすること、またEU 全体でも、2020年までに 40GW、2030年までに150GWまで洋上風力の割合を引き上げていくという目標を掲げており、電力の安定供給の観点から、英国は自国だけではなく、海底送電線網によるEU域内の送電線網整備も進めている。


4. 洋上風力発電事業における商社の役割


こうした洋上風力発電事業において、商社が関与する意義は、発電事業への単純な参画で はなく、洋上風力発電のEPCサプライ・チェーン(図1)にまで絡む中で、電力事業全体のシナジー効果を生みながらパートナーや電力の最終顧客に付加価値を提供できることが挙げられる。
例えば、英国での洋上風力発電事業では、発電だけではなく電気の最終消費者にまで関与することで電力価格制度を正しく理解できると同時に電力ビジネス全体の構造が見えてきた。また、EPCサプライ・チェーンでは、風車基礎部の高品質鋼材・海底ケーブルの供給・調達、特殊船確保等により、より高品位の洋上風力発電設備建設に貢献できる。英国での洋上風力発電事業でも、事業とEPC両面のインテグレーターとして商社の特色を活かしているといえる。


風車基礎部分・ケーブル敷設船



5. 今後の洋上風力発電事業の展開


―米国での展開
今後の洋上風力発電事業を考えるときに、欧州以外の地域で最も洋上風力発電が期待できる市場の1つが米国である。発電所の老朽化問題や、昨今の環境規制の観点から、今後、米国も再生可能エネルギーへの取り組みが継続拡大され、洋上風力発電導入が加速されることが期待される。米国東海岸では洋上風力発電が発展する可能性がある大西洋沖での海底ケーブル事業(AWC(注3))も進めている。他方、米国ではシェールガス開発を推進していることから、今後ガス発電が増えていくことも予想され、再生可能エネルギー発電をどのように推進・共存させていくかという課題もある。
このような環境下、透明性の最も高い電力価格制度をもつ米国で、法整備・制度改革を通じて洋上風力発電が拡大していくことを期待している。

―福島復興・浮体式洋上ウィンドファーム実証研究事業と今後の日本での発展
福島県沖での実証研究事業では、丸紅は三菱商事、東京大学、IHI、新日本製鐵、清水建設など11社のコンソーシアムのリーダーとして世界初の浮体式洋上ウィンドファームの実証実験に参加する。これにより、福島県小名浜港を日本およびアジアにおける洋上風力の産業集積地に育て福島復興へ積極的に寄与していきたい。また現在、世界的に見てもプレーヤーが限定されている海底ケーブルの分野についても、今後の発展に伴う需要増加によって、日本ケーブルメーカーが進出する可能性もあるため、EUで主流の着床式洋上風力発電のノウハウを活かしながら、浮体式風力発電の開発ともども、スピード感を持って取り組んでいきたいと考えている。

(注3) Atlantic Wind Connection米国中部大西洋沖の風力発電所と米国本土を結ぶ大規模な海底送電網建設プロジェクト

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