総合商社ビジネスの変遷

SMBC日興証券株式会社
株式調査部 シニアアナリスト
村上 貴史

総合商社とは


総合商社担当の証券アナリストとして、海外や国内の投資家との面談を長年行ってきた。新規に総合商社を調査し始めた投資家と面談することもある。当然「総合商社とは」と基本的な質問を受ける。ほとんどの場合、こうした新規担当者の理解は、総合商社の「総合」とはさまざまな事業を行い、いろいろなモノを取り扱うという意味で理解している。総合電気、総合機械などその分野でいろいろな製品を製造するという意味だ。ラーメンからミサイルまでといわれた時代の総合商社のイメージと変わらない。
私は間違いではないが、十分な解答ではないと反論する。「総合」の本来の意味は別々のものを1つにまとめることである。そこで最も簡単に答えるときは、総合商社の「総合」は「機能」の総合、つまり機能が1つにまとまったワン・ストップ・ショップの意味であると説明する。その上で機能を容易に理解しやすいように大きく3つ挙げる。
第1に金融である。金融機能は与信、融資、事業投資と幅広い。第2に伝統的なビジネスといえるトレーディング、すなわち仲介物流ビジネスである。第3に情報力である。さまざまな産業に関わり、世界に広がる拠点から情報を収集できる立場にある。こうした機能を複合的に組み合わせることが総合の意味であると説明する。投資家は理解に苦しむようであるが、過去10年以上このような説明をしている。


モデルの変遷に機能の高度化


1980年代後半のバブル期以降で見ても、バブル崩壊、アジア通貨危機、ITバブル、資源バブル、リーマン・ショックなど、総合商社を取り巻く環境が変化する中で、総合商社はその業態を柔軟に変化させてきた。ビジネスモデルはトレード重視から事業投資へ変わった。また地理的なエクスポージャーや注力分野も変化した。さらには産業の川上から川下までを網羅するバリューチェーンの構築もあった。同時にビジネスリスクの管理手法も高度化した。時代の変化が総合商社の業態変化を促した側面もあるが、事業転換は総合商社自身が比較的スピーディーに行ったと考えられる。こうした結果、総合商社各社の当期純利益は過去10年で5倍以上に膨らんだ。


これは総合商社の機能があったため


この業態変革の過程で3つの機能も進化を遂げたといえる。トレーディングにおいては単なる仲介物流だけではなく、付加価値を追求し、製造加工へ参入した。参入には事業会社へ投資、合弁会社の設立など、金融機能が活きた。また、日本国内だけでなく海外にも投資は拡大した。各国の経済成長段階や法制度などを考慮しつつ、投資を行ってきた。すなわちグローバルな情報を活かしながら、金融機能の1つである投資を行うことで、トレードビジネスを強固なものにし、ビジネスを拡大してきたということである。3つの機能を複合的に活用したことで成長してきたといえる。


今後の課題


上記のように総合商社の利益成長は目を見張るものがある。ただ、2000年代前半までの利益成長は赤字事業の処理を行うことで、利益を確保してきた側面がある。一方、2000年代後半は積極的な投資を通じた黒字事業の積み上げへと奇麗な成長カーブを描くことができた。ただ、利益水準が日本企業の中でトップクラスとなった今日、さらなる成長を遂げるには、次への進化を遂げなければならない。

リスク管理の進化に期待

最近では資源関連の投資はもちろんのこと、非資源関連の投資においても、1回の投資額が膨らんできた。もちろん総合商社自身の自己資本や期間利益の額に見合った投資であるが、リスク量は大きくなったといえる。また、世界経済の行方が不透明であり、事業リスクやカントリーリスクも高くなりつつある。
過去においては1つ1つの事業規模が小さかったこと、合弁などで持ち分比率が小さかったことなどを理由に、事業からの撤退が容易であった。しかし、投資規模が大きくなれば、撤退時の経営判断が鈍る可能性が指摘できる。さらに、経営権を握り、事業のオペレーションを担う投資は、経営判断ができるため、事業リスクコントロールが容易になる。半面、工場や人員を抱えるため、マイノリティー投資に比べ、撤退に伴う労力を要するだろう。投資リターン、キャッシュ・フロー 管理、付加価値などの投資リスク管理の手法は2000年代前半から大きな進歩を遂げておらず、ビジネスモデルの進化だけでなく、リスク管理の進化が必要になるだろう。

日本の活力向上のサポートに期待したい

最後に総合商社には、日本のあらゆる産業に活力を注ぐことを期待したい。日本の高い技術力はまだ活躍の余地は十分にある。ハイテク分野、エネルギー分野(省エネ)、水質浄化などのインフラや環境、医療分野、質の高い農業など多くの分野で世界をリードできる。昨今、総合商社はこうしたビジネスに注目しているが、既存の3つの機能強化とリスク管理の高度化を図り、日本の産業と共に発展することを期待したい。

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