蝶理中国総代表に聞く

蝶理株式会社 取締役兼執行役員
中国総代表
井上 邦久

2011年に創業150年、中国友好商社指定50年の節目の年を迎え、2012年より新たなスタートを切った蝶理。新たに2拠点を展開し、さらに体制を強化しながら、中国内販と併せ、東南アジアへの展開も進めている。長年中国ビジネスに携わられてきた井上中国総代表に、中国ビジネスの現状と今後の事業展開、経営課題、日中関係に対する思いなどについてお話を伺った。


1. 中国における歩みと現在の拠点展開について


当社の創業は 1861年であり、その100年後に当たる日中国交正常化前の1961年に中国から友好商社の指定を受け、さらにその20年後の1981年に上海での開業に至ったということで、2011年はそれぞれ150年、50年、30年を迎え、記念すべき年であった。
現在の拠点は、上海の蝶理(中国)商業有限公司を核として、大連、天津、上海、広州、香港に現地法人を6社、そして台北に支店を置き、その他11ヵ所に事務所を置いている。そのうち、武漢と貴陽はこの1年以内に開設した事務所である。
武漢では、ホンダや日産等が進出し自動車産業が大きく発展していることから、自動車部品、カーシートやその原材料を供給するための拠点として設置した。原料となる化学品は取り扱いの規制が厳しいため、その地でしっかりとした倉庫、ロジスティクスの体制を整える必要があり、また、自動車メーカーが求めるカンバン方式への対応ができれば信頼を獲得できるとの期待もあった。武漢は、地理的にも北京と広州を結ぶ線と、上海と成都、重慶を結ぶ線が交差する位置にあり、今後地理的要所としての活用にも期待している。
貴陽事務所は、2012年3月に日本人スタッフが着任して本格的に活動を開始したところである。貴陽を省都とする貴州省には豊富な鉱産物資源があり、それを活用した商品を従来から日本、世界へ販売しており、当社の非常に重要なエリアでもあった(上記写真参照)。これまでも出張所扱いで現地スタッフを配置していたが、今後は西南地区(雲南省、四川省、重慶市等)の拠点にしたいと考えている。

今後注目する成長地域としては、まず廈門(アモイ)を核とする福建省が挙げられる。これまで台湾との関係に鑑みて、中国政府も投資を控えてきたが、近年発展が目覚ましく、大きなのびしろが見込まれる。東南アジアに多くいる華僑の故郷でもあるので、特にインドネシアとの交易の発展に注目している。
さらに、重慶、成都においても活動を積極的に展開していきたいと考えている。香港、深圳、広州から貴陽、重慶、成都を結ぶ西南ライン、また上海から南京、武漢をたどって重慶、成都に至る長江流域のラインにおいて、プロジェクト展開を考えており、その要所としたい。
近年中に以上の展開を達成したいと考えているが、その次には環渤海湾地区での面展開、台湾ゾーン商品の開発、さらには新疆地域を視野に入れている。この地域は電力調達やアルミ加工の立地に優れており、これから大きく増加が見込まれる電池やコンデンサーの需要への対応のための重要拠点と捉えている。


2. 主力の取扱商品(重点分野)と最近の動き


本社と同じく、繊維、化学品・機械を2本柱としており、最近は中国内販の拡大と中国から東南アジアへのシフトに最も注力している。近年中国では、内陸部でも地場産業が発展し豊かになったこともあり、農村からの労働者が以前ほど都市部、特に沿岸地域に来なくなった。そのため、低賃金労働者の獲得が難しくなり、繊維産業を中心に大きな混乱が生じた。それを受けて、チャイナプラス1やディープチャイナといった発想が生まれ、東南アジアや中国奥地への進出の動きが出てきた。その潮流を見ながら、独自の視点から現地法人として機能できるよう、東南アジア展開と内販拡大に注力している。
内販は近年大きく伸長しており、特にアパレルの分野では、当社はコーディネーターとしての機能で存在感を発揮している。中国の新興企業は、工場管理やデザイン制作等のノウハウ、ベースが弱いため、当社は製品ごとに適した工場、企画の提案など、これまで培った経験を活かした機能を担っている。また、当社は現地企業との合弁会社を多く有しており、それらのノウハウ、経験を活かすことも内販の拡大につながっている。繊維事業では、中国国内での原料の調達から製品までをつなぐ、製造・物流・販売の一貫した事業運営を行っており、当社の大きな強みとなっている。
一方、化学品・機械事業においても、サプライチェーンの構築により東南アジアへの展開と内販の拡充に努めている。
具体的な取り組みとしては、まず苛性ソーダプラント用イオン交換膜事業が挙げられる。これにより、従来中国で行われていた環境負荷の大きい水銀法・エネルギー負荷の大きい隔膜法からの製法転換に寄与している。また、環境商材の1 つとして太陽光発電事業や二次電池関連の資材や原料の供給や製品・半製品の販売に注力している。また従来から取扱量の大きいウレタン原料も拡大が続き、その関連商品の取り扱いや東南アジアへの輸出が増進中である。上海のナショナルスタッフをタイ蝶理に長期派遣して、中国品の東南アジア市場展開の強化と多様化を図っている。


3. 中国のビジネス環境に対する認識、取り組み


中国経済の成長は減速局面にあるが、このまま大きく落ち込むことも、逆に以前のような2桁成長まで上ブレすることもなく、軟着陸を目指すであろうとみている。6月7日、7月6日に金利が各0.25 ポイント引き下げられた。これが再度のインフレ、過剰流動性につながるのではないかとの懸念の向きもあるが、中長期的には徐々にブレを減らしていく形で成熟していくのではないかとみている。
労働賃金の上昇が著しく、中国政府は最低賃金を今後とも引き上げる方針である。コストとしての人件費は増加し、われわれも生産性の向上に迫られている。ただ、所得増は社会の安定、購買力の増加にもつながり、これによって内需=内販が拡大するものとみている。

4. 今後の事業展開について

最近では、北京での活動により一層注力しつつある。2011年11月から、北京の所長を兼務しており、同事務所での執務の時間を増やしている。エネルギーや通信、交通などの基幹産業の多くは国有企業が担っている。北京を中心に情報や資金の集約が進むいわゆる『国進民退』の傾向が顕在化する中で新たなトレンドをつかむためには政府や国有企業の動向を注視しておく必要がある。
また、現地での意思決定、業務の迅速化を図れるように、本社機能の一部を現地法人に移管する取り組みを本社と連携しながら進めている。
なお、本社のチャイナプラス1への展開の取り組みとして、東南アジア事業統括役員を現地法人である蝶理インドネシアに常駐派遣し、東南アジア事業を再生強化する体制を整えた。われわれ蝶理(中国)の化学品、繊維共にこの動きに対応して中国での経験を東南アジア市場で応用するとともに、連携を高めていきたいと考えている。


5. 経営課題


従業員に対しては、「健康第一」ということを言い続けており、健康な身体、精神、(透明性の高い)商売が重要だと説いている。特に、上海のようなストレス要因が多い社会では、精神的な疲れが実務に影響してくるので、リフレッシュのための社内旅行などを実施し、日常業務の中でも「溝通(コミュニケーション)」に気を配っている。
人材マネジメントの取り組みについては、現在、経理(部長級)へ登用した現地スタッフが 2 名おり、幹部会議にも参加している。現地スタッフの登用を可能にする全社的な育成教育態勢の整備と駐在員の『中国力』や統率力の強化のために地道な努力を続けている。

6. 総代表の抱負、日中関係の深化に向けて

常にアウェーでの市場開拓であるという認識を念頭に置き、まず自社の実力を正確に把握理解し、強みを発揮できる市場、商品、客先の見極めを意識している。
私は、商のつながりは国のつながりの基本だと信じている。商のつながりが太くなればなるほど草の根の段階から、ヒト、モノ、カネの交流につながっていく。それが結果的には政治にも影響し、良好な関係になるのではないかと考えている。良好な商の関係が続く限りは平和な時代が続くのではないかという観点から、日本と中国との関係強化に貢献していきたいと楽観的に考えている。

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