稲畑インディア社長に聞く―日本からインドへ、インドから世界へ

Inabata India Private Ltd.
社長
北村 直也

1. 稲畑インディアの現況


【現地法人設立の経緯】


当社のインド事業は、もともとは稲畑シンガポールの新興国開発プログラムから始まった。シンガポールからインドへの進出、輸出ビジネスを始めたのが2004年くらいであった。
その後、インド経済の急速な発展を背景に、シンガポールを通じた3国間貿易での輸出が増えたことから、リエゾンオフィスを設置しようということになり、2007年に稲畑シンガポールのインド・ニューデリー営業所として、当社初のインド拠点となる駐在員事務所を開設した。そして、2008年に将来の事業拡大を見込んで現地法人化し、2010年には客先が集中するハリヤーナー州グルガオンに本社を移転した。


【陣容と拠点】


陣容は、駐在員5名、ナショナルスタッフ 11名の計16名。拠点は、ここグルガオンオフィスが本社で、グルガオンと同様に自動車産業の発展が著しい南部タミルナド州チェンナイと、西部マハラシュトラ州プネーにホームオフィスがあり、現在は3拠点体制となっている。生産拠点は、樹脂に色を付ける生産工場をつくるか否かを検討中である。


【取扱商品】


取扱商品は、合成樹脂、電子材料、化学品の3分野に関連する商材で、メーンはインドで生産されていない樹脂原料の輸入販売である。販売先としては、現地部品メーカーが多く、自動車向けが半分、住設関連が半分くらいであるが、住設関連が目に見えて増えてきている。
ただ、この国で、われわれ稲畑インディアが輸入して販売するとなると、どうしてもコスト高になってしまう。インドの客先は、コスト・コンシャスが非常に高いことから、稲畑シンガポールから直接客先に販売するという形を取っており、合成樹脂の9割以上がそのような形でのビジネスになっている。また、必ずしも日本で生産されたものだけではなく、日本の化学品メーカーがタイやマレーシア、シンガポール等で生産したものも取り扱っている。


【移転価格税制の問題】


この国には、他の新興国同様にさまざまなビジネス上の障壁があるが、中でも税制に関する対応が厄介である。今、インド税務当局はかなりアグレッシブに税金を取ろうとして動き、大手商社には実際に税務調査が入っている。当社も税務調査に備えて、いつでも対応、説明できるように移転価格の文書化を進めている。当社は、どちらかというと問屋のような形態で事業を行っており、インドにも問屋はたくさんあることから、当局に当社業容の理解は得やすいかと思われる。しかし、今後さまざまな投資を行っていくとなると難しい面も出てくるであろう。その他にも、この国特有の税の難しさがあり、日本のように単純ではない。州税は州によって全く異なり、州の中でのVAT(付加価値税)の率もモノによって全く異なる。非常に複雑であり、初めてインドに来られた方がすぐに理解することは大変難しいと思う。


2. 今後の事業展開と抱負


ロジスティクスセンター内に積まれた樹脂原料

この国には、優秀な素晴らしい人材がたくさんいる。ただし、雇うには日本人以上の給料を出さなければならない。一方、単調な仕事しかしたことのない、逆にしようとしない人もたくさんいる。
現時点でインドでは、品質の良い、高機能の材料を求めるというよりは、コスト面が顧客に重視されるように感じる。従って、足で稼ぐ、ネットワークを張りながらの商売が多くなる。そういうことから、日本人よりも、ナショナルスタッフに現地企業とのネットワークを築いてもらえるように、トレーニングすることが重要となる。トレーニングで育てたナショナルスタッフをたくさん増やしていくことが、商圏の拡大につながる。
一方、駐在員の役割であるが、日本からあるいは海外から特殊な技術、特殊な市場をインドに持ち込み、インドと共に価値創造をしていく。もしくは逆に、インドにある特殊な技術や市場といったものを、日本だけではなく、われわれの世界中のネットワークに乗せて売り込んでいく。日本からインドという1つのベクトルだけでなく、インドから世界へとさまざまな方向にビジネスを展開させていきたい。
今後、この国も品質への要求が高まってくるであろう。所得が上がるにつれ、より良いものが求められるようになる。それがいつになるか。まだ時間はかかるかと思うが、いつかそうなったとき、日系企業の品質管理や差別化されたものが売れるときが来るかもしれない。そのときに、しっかりと投資できるだけの体力を確保しておかなければならないというのが持論である。
この国にマスコミが言うほどのスピード感は感じられないが、確かに徐々にではあるが変化している。問題となった労働争議にしても、この国の成長、進化の過程で大なり小なり必ず起こるものである。今、インド経済は少し足踏みしだした感はあるが、一進一退で発展していき、いずれ世界最大の消費市場を形成するだろうとみている。
(2012年9月14日、稲畑産業インディア(グルガオン)にて、山中通崇)

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