2012年日印国交樹立60周年を迎えて

駐インド日本国特命全権大使
八木 毅

1951年、インド独立運動の指導者でもある当時のネルー初代首相の下、インドはサンフランシスコ講和会議への参加を見送り、その翌年の 1952年、日本と単独の平和条約を締結して正式な外交関係をスタートさせます。
2011年の3月、日本は東日本大震災という未曾有の国難に直面しました。その際、インド政府からは物資の供与や行方不明者捜索チームの派遣という形で多大なる支援を頂くとともに、インド国民からも物心両面で日本国民への支援が寄せられました。多くの日本国民が、60年の時を越えて、インドとの歴史的・精神的なつながりを実感したことでしょう。
そして、両国の国交樹立から60年目の2012年、「復興する日本と躍動するインド:新たな発見、新たな交流」とのテーマで、百数十件にも上るさまざまな文化知的交流行事、日本の最先端技術紹介行事が実施されています。これらを通じて、さまざまな人的交流が一段と活発化し、両国民間の相互理解が一層深まることを期待しています。

わが国にとってのインドの重要性は枚挙にいとまがありません。民主主義、法の支配、市場経済、言論の自由といった基本的価値を共有していることはもちろん、アジア第3位のGDP、豊富な若年労働力など日本との経済交流拡大に向けた大きな可能性を有しています。また、中東へのシーレーンに沿って長大な海外線を有するインドとの関係強化は、エネルギー安全保障の観点からも不可欠です。さらに、東アジアの戦略バランスや国連安全保障理事会の改革等の地域的あるいは国際的課題について共通の利益を追求しています。そして、何より喜ばしいことに、世論調査では常に「好きな国」の上位に日本が挙げられており、インドは親日国として知られています。このようなインドとの関係の強化は日本の国益に合致するものであり、それは恐らくインドにとっても同じであるといえるでしょう。

国交樹立以来、冷戦期の東西対立あるいは1998年にインドが行った核実験などのために、両国の政治・経済関係が停滞する時代もありましたが、両国は千年単位の歴史的・精神的交流を基盤として友好関係を維持してきました。近年、日印関係の強化の流れが加速し、2000年には「日印グローバル・パートナーシップ」、2006年には「日印戦略的グローバル・パートナーシップ」が謳われるに至っています。
要人の往来も年々活発化しています。首脳会談については、2005年以降毎年交互に開催されており、2011年12月には野田総理が訪印し、2012 年11月にはシン首相が訪日します。インドが毎年首脳会談を開催する相手国は、日本を含めて2ヵ国のみです。さらに2007年以降は外相間戦略対話も毎年実施されてきましたが、2012年からは閣僚級の経済対話も開催され、今後、原則毎年交互に開催される予定です。安全保障分野でも、外務・防衛次官級「2+2」対話、海賊対処への協力や海上自衛隊とインド海軍による共同訓練を実施するなど、緊密な協力関係が構築されています。このように多くの対話・協議が重層的に行われることにより、日印関係はより深化しています。

経済面に目を転じますと、近年インドに進出する日系企業数は急速に増加しており、2012年10月には926社、拠点数については1,803拠点と直近4年間で倍増しています。投資額についても、2002年の187億円から2011年には1,814億円と約10倍に拡大を見せた結果、日本は4番目に大きいインドへの投資国となりました。2011年8月には日印包括的経済連携協定(CEPA)が発効し、今後、二国間の貿易投資関係はますます緊密化することが期待されます。
一方で、国内産業の発展や投資の足かせになっているのが脆弱(ぜいじゃく)なインフラです。わが国はインドのインフラ構築に資する円借款供与を続けており、インドは2011年まで7年連続で最大の供与相手国になっています。2006年から開始された円借款による貨物専用鉄道建設計画(DFC)を背骨として、デリー・ムンバイ間に製造業拠点、工業団地、物流施設、住宅地、港湾、発電所等を整備し、周辺地域の産業振興を図ろうとする広域経済開発計画であるデリー・ムンバイ間産業大動脈構想(DMIC)は、今や日印戦略的グローバル・パートナーシップの旗艦プロジェクトとして知られるまでになりました。
引き続き、国内産業の発展や投資の足かせになっている脆弱なインフラ強化、製造業の発展の遅れを支援するために、製造業の急速な発展によって高度経済成長を実現した日本として、資金、経験および技術を提供していきます。

近年の経済関係の拡大が著しい一方で、2011年の日印の貿易総額は、日中貿易の約20分の1、 日ASEAN貿易の約17分の1(ASEAN の中で最大のパートナーであるタイとの貿易の約3分の1)にとどまっており、まだまだ低い水準にあることも確かです。これは「伸びしろ」が大きく、将来にわたって非常に魅力ある市場であると同時に、非常に難しい市場であることを示しているといえます。そうした中で、比類なき知見と人材を有する商社には、多くの日本企業が進出するための先兵としての役割を期待したいと考えています。今、日本経済はデフレから脱出できず苦闘しております。他方で、日本には多くの世界的な技術やノウハウの蓄積があります。それらとインドの資源・資産との提携は大きな価値を生み、日本とインドの双方に新たな成長と飛躍をもたらすことでしょう。こうした際に、インドにおける最適なパートナーを発掘し、そして共に事業をつくり上げていく商社の役割が今まで以上に求められています。日印経済関係をさらに発展・拡大させるため、大使館においても引き続き全力でサポートさせていただく所存ですので、商社の引き続きの多大なるご支援をお願い申し上げます。

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