旭化成が取り組むメディカルビジネスと今後の展望

旭化成メディカル株式会社
経営統括部 経営企画部 総務グループ長
小寺 常夫

1. 旭化成の医薬・医療事業


旭化成の2011年度連結売上高は約1.6兆円であり、ケミカル事業が約7,000億円で4割を占め、「ヘーベルハウス」などの住宅事業が約4,500億円と続く。こうした売上構成の中で、医療・医薬事業は約1,200億円(約7.5%)とやや規模は小さいのが現状であるが、旭化成の中期経営計画「For Tomorrow 2015」では、「環境・エネルギー」関連事業、「住・くらし」関連事業と共に、「医療」関連事業を今後の旭化成の成長を支える事業の1つの柱として位置付けている。その一環として、2012年4月には、旭化成として過去最大規模のM&Aとなる、米国の救急救命医療器具の大手メーカー「ZOLL Medical Corporation」を買収し、100%連結子会社化した。
こうした中期経営計画や大型投資を通じて、旭化成は2020年を目標に、既存の医薬事業、医療機器事業を軸としたヘルスケア事業領域において売上高5,000億円の達成を目指している。医薬事業については、「旭化成ファーマ」が国内を中心に事業を展開しているが、ここでは旭化成が得意とする膜技術を応用した医療機器事業を手掛けている、「旭化成メディカル」のビジネスについてご紹介したい。


2. 旭化成の膜技術を応用した医療機器事業の展開


旭化成メディカルの製品群

旭化成が医療機器事業を推進してきた背景には、老いと病をコントロールすることへの挑戦、医療分野の産業化を重視する政策の後押しがあったことに加え、当社がケミカル・繊維分野で培った「膜分離・吸着技術」の応用にたけている点が挙げられる。
旭化成メディカルが扱う製品もこの膜技術を応用したものである。日本国内では、医療機器の出荷額のうち約6割が輸入品であるが、膜技術を応用した血液循環関連製品は約8割を、また血液浄化関連製品では約9割を日本企業が占め、当社も高い市場シェアを確保している。この膜技術を応用した当社の医療機器は、次の4事業に分類できる。

⑴ 血液浄化(血液透析)事業
腎臓は血液中の老廃物や水分などを除去する機能を備えた臓器であるが、糖尿病等により、この機能が低下した場合、定期的に体内から老廃物を除去する人工透析が欠かせない。当社の人工腎臓(ダイアライザー) は、血液ポンプで体内から取り出した血液をフィルター壁面の微孔を通じて老廃物や水分を廃液として除去させ、赤血球や白血球、タンパク質などは体内に戻して循環させるための機能を果たしている。現在では国内はもとより世界70ヵ国に輸出されている。


血液浄化(アフェシレス)操作研修風景

⑵ 血液浄化(アフェレシス)事業
疾患に対しては医薬品を投与して治療するという発想が一般的であるが、当社が提唱する「二重濾過血漿交換療法」では、炎症を生み出す有害物質やウイルス等を血液中からフィルターで除去し、炎症を抑制・沈静化させるとともに、体内の免疫力を高めることを狙いとしている。医薬品投与による治療を「足し算の治療」と呼ぶならば、当社が提唱する治療法は「引き算の治療」と位置付けられる。日本国内ではこの「引き算の治療法」が進んでおり、既に慢性C型ウイルス肝炎、膠原病(リウマチ)、潰瘍性大腸炎、家族性高コレステロール血症等が保険適用疾患として認められている。

⑶ 輸血フィルター事業
献血された血液を輸血に用いるためには血液中の白血球を除去する必要があるが、これは白血球が混在した血液では、発熱や頭痛などの副作用を引き起こすことがあるためである。現在、日本赤十字社では献血の過程で、この白血球除去を同時に行っている。このときにも当社の「セパセル」と呼ばれるフィルターによって、白血球を吸着除去させ、安全な血液の確保に貢献している。

⑷ バイオプロセス事業
バイオ医薬品等の生物学的製剤の製造工程においてもウイルス除去が求められるが、当社が開発した世界初のウイルス除去フィルター「プラノバ」は世界各地で活用されている。これは「中空糸微多孔膜」と呼ばれるストロー状の筒の表面に開けられた微孔から、不純物の粒子の大きさによって分離・除去するものである。ちなみにこの素材は背広の裏地等にも用いられているキュプラ繊維(ベンベルグ)と同じ材質である。


3. 海外事業拡大のポテンシャルと商社への期待


人工透析が必要になる腎臓機能の低下は、生活習慣病を原因とする場合が多く、近年は糖尿病がその主因である。人工透析は週3回程度、定期的に行う必要があるが、日本国内では人工透析施設が駅前周辺に見られるなど、透析しやすい環境が整えられている。 他方、経済成長が進む中国や東南アジア地 域においても食習慣や生活習慣の変化によって、今後、糖尿病患者の増加も予想され、人工透析等のニーズの高まりも見込まれる。日本のように国民皆保険制度が十分に確立されていないこれらの地域では、人工透析を定期的に受けられる医療保険制度の整備がまずは必要となるが、こうした国々においても、当社の膜技術を通じて医療現場に貢献する機会は今後ますます増加するのではないかと考えている。商社は率先して、諸外国の市場に出向き、ビジネスの可能性を見いだす術にたけているが、メーカーである当社としても、各国の現地ニーズ・情報を商社より提供していただけるとありがたく、また、血液浄化による難病治療法の認知度を高める「啓蒙活動」についても、商社機能に期待したい。

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