三井物産が取り組むメディカル・ライフケアビジネス

三井物産株式会社
コンシューマーサービス事業本部
メディカル・ヘルスケア事業第一部
部長
山村 俊夫
三井物産株式会社
コンシューマーサービス事業本部
メディカル・ヘルスケア事業第一部
医療サービス事業室 室長
横山 賀一

1. 当社のメディカル・ライフケアビジネスの組織体制


左から横山氏、山村氏

日本が高齢社会を迎え、アジアでもその到来が予想される中で、当社では2008年ごろからこうした環境変化に対応したビジネスをつくるため、社内に分散していたメディカル・ライフケア関連の部署をコンシューマーサービス事業本部に統合させ、組織体制を整えてきた。そして、現在は「ヘルスケアサービス」と「医薬バリューチェーン」を事業の大きな柱に位置付けている。


ヘルスケアサービスでは、病院を中核として、その周りに医療関連支援(治験支援、薬局、臨床検査ラボ、健診センター、専門クリニック等)のビジネスを位置付け、さらに病院・医療関連施設の経営を支えるための周辺事業(医療情報提供、医療施設向けフードサービス、調達サービス等)によって付加価値を高めることを狙いとしている。こうした病院と医療関連支援や周辺事業の連携を生み出すコーディネーションやネットワークづくりといった「商社らしい仕事」を通じ、ヘルスケア業界におけるエコシステムの創造を目指している。もう1つの医薬バリューチェーンでは、医療の発展に不可欠な医療用医薬品を、川上の医薬品製造から川下の販売まで、一貫して取り組む体制を整えている。以下では主にヘルスケアサービスについてご紹介したい。


2. IHH社への出資を通じたメディカル・ライフケアビジネスの海外展開


IHH社が運営する病院(シンガポール)

当社は2011年5月、マレーシアの国営投資会社カザナ・ナショナル社が保有していた、アジア最大手の病院グループ持株会社「IHH Healthcare Bhd.」(以下、IHH社)の株式30%を取得した。また、2012年1月にはそのIHH社が、トルコ最大規模の民間病院グループ「アジバデム」の株式60%を取得した。
当社がIHH社に出資した背景には、アジアを中心とする新興国において主に高度先進医療を提供する民間資本による医療機関の経営が台頭しつつあり、国民所得の増加、人口増・高齢化などの人口動態の変化、またライフスタイルの変化から、中長期的に高度医療の需要が増加傾向にある点が挙げられる。
IHH社は、シンガポールや、マレーシア、トルコの他、中国、インド、ブルネイ、UAE、ベトナム等で合計30病院4,900ベッドの他に約70のメディカルセンターやクリニック事業を展開しており、当社のIHH社への出資は、医療サービス、医療関連支援や周辺事業の他、医薬品や介護関連サービスも含め、メディカル・ライフケア関連のビジネスを一体化させ、病院を中核としたヘルスケアエコシステム全体の価値を向上させる「パッケージ型ビジネス」として育成するための布石と位置付けている。
加えて、医薬や医療機器の分野では、日本はアジアの中で圧倒的に先進国でもある。日本はアジア唯一の「創薬国」であり、内視鏡などの先端医療技術の分野でもリードしている。人口動態的にも国内で高齢化が進んでいることから、日本で創造された先進的なビジネスモデルをアジアに持ち込むことで、将来的なビジネスニーズにも応えることができる。その意味で、IHH社への投資は、アジアでのメディカル・ライフケアビジネスの先行投資と捉えている。


3. メディカル・ライフケアビジネスの海外展開の課題と産業化に向けて


ところで、メディカル・ライフケアビジネスは、「地域密着型」という特色がある。各国・ 地域によって経済・社会状況が大きく異なるのに加え、制度的な違いもあることから、ビジネスの方法や対応を柔軟に変える必要がある。例えば、日本では、財政的課題を抱えつつも国民皆保険制度が機能しているが、多くの新興国では、社会構造が階層化されており、国民皆保険制度のような均一な仕組みを設けたとしても、全ての階層のニーズに応えることが難しい場合も多い。そのため階層ごとのニーズに対応した展開など、現実に即した取り組みが必要である。
メディカル・ライフケアビジネスの成長が見込める国の1つである中国では、同国の第12次5ヵ年計画において「医療の高度化」を政策目標として掲げている。しかし、中央政府の方針に基づいた各省政府による政策の施行については、法整備の進捗も含めて、注意深く見ていく必要がある段階と認識する。また、アジアには、病院・医療関連施設の他、医療従事者を育成する教育機関はあるものの、日本の大学病院のように、医療機関であるとともに教育機関、研究機関として機能する機関は少ない。さらに、アジアでは依然として欧米の医療機器メーカーが高い市場占有率を持つといった現実も見られる。
今後、メディカル・ライフケアビジネスのグローバル化を図るに当たっては、例えば、アジアから日本の大学に留学生を多数招くことによって、留学生の医療・研究の技術向上に貢献するだけでなく、研修を通じて実際に日本製の医療機器を使用する機会を設け、ソフトとハードを一体化させる形で、メディカル・ライフケアビジネスを拡大させることができるのではないか。メディカル・ライフケアビジネスの海外展開においても、産官学が一体となって「パッケージ型産業」としてビジネスを拡大させることが必要であると考えている。


4. メディカル・ライフケアビジネスに取り組む意義と今後の抱負


メディカル・ライフケアビジネスは、国内外において最も成長が期待される分野の1つである。同時に、ビジネスを通じて人々の健康増進、社会の発展、近代化に貢献するという社会的意義も大きい。今後も商社のネットワークを活かしながら、日本国内だけではなく、アジアを中心とした海外において事業を着実に展開していきたい。

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