双日のメディカル・ライフケアビジネスと今後の展望

双日株式会社 化学部門
ライフサイエンス事業開発室
室長
泉谷 幸児
双日株式会社 化学部門
ライフサイエンス事業開発室
副室長 兼 開発第二課 課長
濱中 通陽

1. 化学部門の再編とライフサイエンス事業開発室の発足


左から泉谷氏、濱中氏

当社の化学部門は、これまで化学品・機能素材部門と呼ばれていたが、従来の「商品のトレードを中心としたビジネス」から、化学分野の知財を生かし、権益や事業参画を拡充させる「事業創造型のビジネス」への転換を意図して、2012年4月、部門の名称が変更された。現在は部門内に化学品本部、環境資材本部の両本部を中核としポスト中期計画を見据えて第三の柱の育成を狙いとしたライフサイエンス事業開発室を設けている。
化学品本部では、いわゆる「ベースケミカ ル」をKEY WORDに石油化学製品、中間財、樹脂(ポリマー)、化合品を一括して取り扱うことによるサプライチェーンを形成している。また、環境資材本部では、「希少資源」をKEY WORDに得意のレアアース、リチウム、バライト等の事業で、サプライチェーン確立を推進している。
そして、ライフイノベーション、グリーンイノベーションという波の中で、ライフサイエンスビジネスを加速させるための組織再編が行われ、ライフサイエンス事業開発室が設置されている。同室が設置されてからまだ間もないこともあるため、本稿では、当社が手掛けるライフサイエンス関連の既存事業の現状とともに、ライフサイエンス事業開発室としての事業の方向性やビジョン・展望についてご紹介したい。


2. 双日が手掛けるメディカル・ヘルスケアビジネスの現状


ライフサイエンス事業開発室の開発第一課は、農薬やその中間体等を扱うチームと、アジアで農薬の販売会社網を構築していくアグロプロジェクト・チーム、そして植物由来の原料による化学品を扱うグリーンケミカル・チームの3チームにより構成される。農薬は中国、インドを含むアジア地域を中心に米作市場が拡大傾向にあることから、急速にその需要が増加しており、日本の生産効率の高い散布方法というソフトを含めて農薬拡販を進めている。また、グリーンケミカルは、米国ベンチャー企業等からの技術導入を進め、PBS樹脂(生分解性樹脂)などの原料となる「バイオコハク酸」の生産・販売開始に向け着々と準備を進めている。
一方、開発第二課のメディカル・ヘルスケアチームが取り組む主たる事業の1つに海外における医薬品製造に係る受託ビジネスがあり、主にジェネリック医薬品製造のための原料供給と製剤調達を行っている。生活習慣病関連の薬剤(高血圧対策等)に対するニーズの高まりが見られる中で、調達コストの削減が競争力の鍵となっている。現在では、医薬分野の産業化が進みつつある中国、ベトナム、インド等からの調達を積極的に進めているところである。


3. メディカル・ヘルスケア分野の国際的なニーズの高まり


日本国内では高齢化社会が進行し、医療制度に対してもさまざまな改革のニーズが見られる。ライフサイエンスが進歩し、高度医療に対する技術革新も進む中で、今後医療分野におけるビジネス機会は、遠隔医療サービスなども含め、国際的な広がりをもって急速に拡大すると考えられる。とりわけ、東南アジア地域の新興諸国では、人口増加と生活レベルの向上に合わせて社会保障インフラに対するニーズが高まってくると予想される。
メディカル・ヘルスケア分野は、単に医療サービスが提供されるだけではなく、その周りには医療関連の資材、器具や医薬品等々、さまざまな財・サービスが周辺産業として存在しているため、モノからソフトに至るさまざまな事業領域を抱えている商社にとってふさわしい、やりがいのあるビジネスであると同時に、各国の社会保障を支える事業という社会貢献としての意義も大きい。


4.「日本式医療の国際化」に向けて


こうした中、メディカル・ヘルスケアチームが現在力を注いでいるのが、「日本式医療の国際化」である。これは、日本の国民皆保険制度の下で確立された病院運営に対する高い効率性、安心な医療サービス、高度な医療技術や保険制度と、それらを補完する高水準の医療器具・医薬品・マルチ対応型人材ノウハウ等、ソフト・ハード双方を1つにして諸外国にパッケージ輸出しようという発想である。
例えば、東南アジア諸国の中で、タイ、マレーシア、シンガポールではメディカルツーリズムも受け入れる高度医療に対する体制が見られる一方で、他のアジアの多くの国々では生活レベルが向上してきているものの、社会保障インフラがまだまだ未整備な状態である。できるだけ質の高い医療サービスの導入により、現在の生産人口と次代を担う若年層の健康度の向上を国策として挙げている国もある。このような状況に対し、例えば、商社が手掛ける海外での都市開発事業やショッピングモール建設に加えて、日本式の医療サービス体制を同時に整備・提供するという仕組みを設けるといった発想も出てくるのではないかと考えている。
医療サービスも、各国固有の社会・経済状況や医療・医師法制度等によって対応が異なってくるため、日本式医療を海外に根付かせるためには、現地政府や現地パートナーとの関係強化を通じた取り組みが必要不可欠である。一方日本側では、官民連携によるメディカル・ヘルスケアビジネスの産業化への取り組みを加速させるとともに、日本政府による支援にも期待をしたい。

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