住友商事の医薬ビジネスへの取り組み

住友商事株式会社
メディカルサイエンス部長
堀本 泰三
住友商事株式会社
メディカルサイエンス部
企画&統括 チームリーダー
李 建川

1.拡大する世界の医薬品市場


左から堀本氏、李氏

医薬品市場は世界的に拡大傾向にあり、市場規模は、2010年の8,564億ドル(約70兆円)から、2020年には1兆3,000億ドル(約100兆円)にまで拡大すると予測されている。地域別に見ると北米、欧州で市場全体の約半分を占めているが、2020年までには北米、欧州市場の拡大とともに、中国市場が世界全体の10%を占めるまで拡大すると予測されている。なお、2011年の世界製薬企業売上高ランキングを見ると、上位11社までを欧米企業が独占しており、日本企業は13位に武田薬品工業がランクインするという状況であり、製薬業界では欧米企業の存在感が大きいという特徴が見られる。


2.住友商事が取り組む医薬ビジネスの概要


⑴ グローバルネットワークを活かした医薬品原料・製品の輸出入
当社は国内外の医薬品市場におけるニーズに対応するため、当社のグローバルネットワーク(米国住友商事、インド住友商事、欧州医薬事業会社、中国医薬事業会社等)を通じ、製薬企業向けに医薬品原料および製品の輸出、三国間取引に携わっている。


分析器

⑵ 「住商ファーマインターナショナル」での創薬・製薬支援
また、住友商事の100%出資会社である住商ファーマインターナショナル㈱は、主に日本国内の製薬企業等向けに医薬品原料・製品の輸入、原薬分析等、創薬・製薬関連サービスを提供している。
同社の創薬本部は、研究機器・研究材料の提供、研究提携・共同研究等、日本の大学、公的研究機関、製薬企業研究所等を顧客とした仲介業務に携わっている。例えば、研究材料の提供では、世界最大の生物資源センターであるATCC(American Type Culture Collection)の基礎研究用細胞株(がん細胞など)を分譲・販売しており、2012年からは、再生医療への応用も期待されているiPS細胞の販売を開始したところである。また、特許化された医薬品候補を海外から日本へ導入、あるいは、逆に日本から海外へ導出するといったライセンス仲介業務も行っている。
製薬本部では、薬の製造に関わる原材料・中間体・原薬の供給の他、同社内に設けた原薬分析センターにおいて、輸入・販売する原薬の出荷判定試験など、専門的な分析ニーズにも応える体制を整えている。


⑶ 新薬開発を支える「コンシェルジェサービス」
さらに、当社の医薬ビジネスの特徴の1つは、新薬開発の支援である。これは当社のネットワークを通じた創薬ベンチャーに対して融資、原料の供給、ライセンス仲介、必要に応じてベンチャー企業に投資を実施し、総合的な支援をしていくことから、新薬開発における「コンシェルジェサービス」と呼んでいる。一般に新薬開発は、基礎研究の段階から最終的に政府機関より医薬品販売認可が得られるまで、10年以上の時間を必要とする場合があり、巨額の研究開発費用も必要である。将来の医薬品需要とこうした販売認可の可能性等を勘案しながら、新薬開発に取り組む必要がある中で、当社ではライフサイエンス分野では全米第2位の融資企業Oxford Finance社を傘下に置き、ライフサイエンス分野のベンチャー企業等への融資・投資活動を行っている。Oxford Finance社の融資先は約100社に上り、2002年以降の累積融資額は16億ドル(約1,300億円)に達する。


3.今後の医薬ビジネスの展望


⑴ ジェネリック医薬品(後発医薬品)向け原料供給体制の強化
ジェネリック医薬品は、特許保護期間が切れたものについて、オリジナルの医薬品と同じ有効成分、同じ効能・効果を備えた代替製品として製造・販売されており、欧米諸国の病院等では、すでに処方箋により出される医薬品(数量ベース)の60%がジェネリック医薬品であるといわれる。日本国内ではまだ23%程度にとどまるといわれるが、国内医療費削減の要請が高まる中で、今後、安価なジェ ネリック医薬品の普及・拡大にも追い風が吹くと思われ、原料供給体制を強化したい。

⑵ 新興国向け医薬ビジネスの展開
世界的に医薬品市場が拡大すると予測される中で、特に中国等の新興国需要が拡大すると考えられている。こうした中で、当社は2010年12月に、中国で製薬事業を展開している製薬会社C&O Pharmaceutical Technology社へ29%の出資を行った。その後、塩野義製薬が同社に66%出資しており、共同で経営に取り組んでいる。同社は中国全土に約900名もの販売員を配置しており、30万以上の病院、薬局向けに医薬品販売を行っている。
中国以外にも韓国、ブラジル、メキシコ、インド、ロシア、トルコで医薬市場の拡大が予測され、今後も新興諸国での医薬ビジネスの検討を進めていきたい。

⑶ 新薬開発に向けた多面的アプローチ
創薬ベンチャーが新薬開発の中心を占めている傾向の中、今後も上述の「コンシェルジェサービス」を強化し、新薬開発を支えていきたい。

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