米国経済と今後の日米関係の展望

在米国日本国大使館 公使
赤星 康

大統領選後の米国から展望する2013年世界の政治経済動向」座談会終了後、日米間の経済外交を担当されている赤星公使より、最近の米国経済の動向と今後の日米関係の展望についてお話を伺った。


1. 米 国経済の現状と大統領選後の経済政策の方向性


リーマン・ショック後の米国経済は「緩やかな回復」という状態が続いていると思う。失業率や雇用者数、住宅などいろいろな数字が出て、回復基調を裏付ける指標もあるが、現時点で必ずしも力強い回復軌道に乗っているというわけではなく、本格的な回復にはまだ時間を要するだろう。
金融危機以降、「米国経済回復・再投資法」などの景気刺激策や、金融機関および自動車産業のベイルアウト(救済措置)、FRBによる金融緩和等を通じて、経済の立て直しを進めてきており、これらの政策について大統領選でもさまざまな議論があったが、現在の、緩やかながらではあるものの回復している経済状況につながっていると思う。
直近の課題としては、減税が失効するのと同時に、財政支出が削減され、景気にも大きな影響を与えることが懸念される「財政の崖」(Fiscal Cliff)への対処がある。これは実際に発生すれば米国のみならず世界経済にとって大きなダウンサイドリスクになるもので、現時点(2012年11月)で予断を許さない状況であるが、オバマ政権も米国連邦議会も問題の重要性を認識しており、課題の解決に向けた取り組みを期待する。
米国は、依然として人口増加が続き、さまざまな分野で市場拡大が今後も期待できる他、シェールガス等のエネルギー資源や食料も豊富であり、表面上はさまざまな問題があるが、底堅さもあると思う。また、常にイノベーションを生み出す社会、輸出より内需の寄与度が大きく世界経済の動向の影響を受けにくいなどなど、ポテンシャルの高い国であると考えられる。今後、インフラや教育分野など将来につながる分野への投資拡大などの政策運営が行われれば、中長期的にさらなる発展の余地があると思う。


2. 米国のアジア太平洋戦略について


選挙戦では、オバマ政権の中東関係での成果が強調される一方で、米国の雇用への脅威という観点から中国の不公平貿易慣行等に焦点が当たったのみだったが、2011年に表明したアジアへのリバランス政策、あるいはアジアに軸足を移すという、オバマ政権第1期のアジア重視戦略は、2期目においても、世界の成長センターであるアジアとの関係を強化することの重要性は変わらず、継続されるものと見込まれる。
実際に早速、来週オバマ大統領は東アジアサミット(EAS)に参加するためカンボジアを訪問するのみならず、タイ、さらに米国の大統領として初めてミャンマーを訪問する予定であり、たまたま予定されていた国際会議の機会にとはいえ、再選後初の海外訪問がミャンマーを含めたこれらの国々で行われるのはエポックメーキングだと思う。
このような政策の中でわが国が果たし得る役割は米国内でも十分認識されており、日米同盟重視の姿勢は引き続き変わらないと思われる。
ただし、米国のこのような姿勢を当然のもののように受け止め、それを待っているだけという姿勢は日本にとって適切でないであろう。日本は今なおいろいろな面で大きなプレゼンスを持っており、積極的に地域の枠組みづくりに関与していく姿勢が必要であり、逆にそうでないと、どのような形であるかは予断できないが、取り残される恐れもあろう。


3. 最近の日米経済関係と今後の関係強化に向けた取り組み


日米関係については、マルチラテラル、リージョナル、バイラテラルという3層構造で考えていく必要があると従来から思ってきた。マルチにおいて、ドーハラウンドは停滞しているが WTOというソフトなインフラは引き続き重要である。リージョナルは APECに加え、最近米国もEAS に加わり、さらにTPPという地域経済連携の交渉が11ヵ国により行われている。バイではクリーンエネルギーやイノベーション・アントレプレナーシップなど各種の経済協力が行われている。
これらの取り組みは相互に排他的なものではなく、もちろん重複は避けなければならないが、並行的に追求されていくことが地域の活性化につながると信じている。東アジアだけでなく、例えば米欧の経済連携というような話もある。
このような状況の中での商社の役割は大きいものと考えており、例えばエネルギー協力をビジネスとして実際に進めていく、イノベーションにつながるような日米企業間連携を進めていくなど、さまざまな活動が期待される。また、独自のネットワークも活用し、マルチやリージョナルな各種の動きに対するインプットなどもぜひお願いしたいと考えている。実際のビジネスネットワークはもはやアジア太平洋にとどまらず中南米やアフリカなども取り込んだグローバルなものになっている。そのようなことを、日々身をもって感じておられる皆さまの見方をぜひ政策に反映していきたい。