大統領選後の米国から展望する2013年世界の政治経済動向 ―1

伊藤忠インターナショナル会社
ワシントン事務所長
秋山 勇
双日米国会社
ワシントン支店長
栗林 顕
米国住友商事会社
ワシントン事務所長
堂ノ脇 伸
米国三菱商事会社
ワシントン事務所長
柳原 恒彦
米国三井物産株式会社
ワシントン出張所長
米山 伸郎
丸紅米国会社
ワシントン事務所長
今村 卓(司会)

1. 2012年米国大統領選をどう見るか


丸紅米国会社
ワシントン事務所長
今村 卓氏

今村(司会) 
まず今回の大統領選挙結果の事実関係を確認すると、オバマ大統領が再選され、選挙人獲得数ではオバマ大統領332人に対して、ロムニー氏206人。前回2008年と比べると、オバマ大統領はインディアナ州とノースカロライナ2州を落としただけで、大勝したといえる。ところが一般投票の総得票率で見ると、差が僅差であった。結局、国民の半分近くがオバマ不支持に回っている。支持率や得票率が高い政治家は「ポリティカルキャピタルに非常に恵まれた」といわれるが、オバマ2期目は、そのポリティカルキャピタルが乏しい状態でスタートすることになる。一方、上院では、民主党は改選議席が23議席もあったため、過半数を共和党に取られるとの見方があったが、独立派議員も含めると、民主55議席、共和45議席となり、むしろ差が広がった。下院では、共和党が目減りはしながら過半数を押さえたものの、総得票数で見ると民主党の方が上であった。結果として、大統領選も、議会選も共に混沌(こんとん)とした結果となった。この結果をどのように評価しているかから議論を始めたい。

米山(三井物産) 
1期目のオバマ大統領の当選は、30-40年に一度あるといわれる政潮流の変わっていく「ポリティカル・リアライメント(Political Realignment)」、つまり「政治再編」のきっかけを生み出し、大きなトレンドの変換点になるのではないかという見方があった。今回の再選でその大きな変化点を迎えている可能性が増したが、大きなトレンドになっていくかどうかは、オバマ大統領が2期務め終え、次の政権でもそのトレンドが続いていたのか後世の政治学者が振り返って判断することになろう。従来の自由市場主義、金融中心、小さい政府・自由放任的の構造から、グローバル化の中である程度政府の役割や規律を重んじ、製造・生産を中心とした質実剛健な米国の成長を築けるのかどうか。この大統領選は、今後の「ポリティカル・リアライメント」を占うための1つのスタートを切ったのではないか。


米国住友商事会社
ワシントン事務所長
堂ノ脇 伸氏

堂ノ脇(住友商事) 
今回の選挙は、オバマ大統領が勝ったというよりは「ロムニー氏あるいは共和党が負けた選挙」といえるのではないか。共和党自身が今まで訴えてきた政策が、もはや米国の多数派の意見ではなくなりつつあり、党内でも意見の多様化がある中で、それがまとまりきれなかった。また、マイノリティー(少数派)といわれる人々の取り込みができなかった点では、共和党自身が今後の選挙に向けて、変わっていかなければならないことを強く示唆しているのではないか。

栗林(双日) 
私も同様の意見で、9月に赴任した時には、どこを回っても「オバマ再選」という声しか聞こえなかったのが、1回目のディベートから何か急に勢いが均衡し、結果的には一般投票ではあまり差がつかなかった。しかし、今、堂ノ脇さんが言われたように、人種の問題がここで見えてきているのではないか。また上下両院の「ねじれの問題」のため、オバマ大統領のかじ取りも難しくなるであろう。

秋山(伊藤忠商事)
皆さんご指摘の通りで、共和党的な価値観の陳腐化や金属疲労もあり、結果的にオバマ大統領と民主党の大勝で終わったが、民主党が積極的かつ圧倒的な国民の支持を得ている状況でもない。何かのきっかけやリーダーの斬新なメッセージなどで一気に流れが変わりかねない。米国民が米国の未来を方向付ける新しい価値観を模索して揺れている様子を感じた。

柳原(三菱商事) 
今回の選挙は、米国の政治の将来の方向を占う選挙であったと思う。米国の政治は分裂化が進み、協調的な民主主義から対峙(たいじ)する硬直政治になりつつある。その視点から見ると、米国の分裂は進行しているのではないか。例えば、女性層の得票率はオバマ55%対ロムニー 44%であり、人種においても、オバマは非白人層の圧倒的な支持を得た。特にオバマが支持を伸ばしたのがヒスパニック系やアジア系である。年齢層でも、オバマ大統領が若年層の支持を得た他、年収5万ドル以下の低所得者層の票を多く獲得している。将来的に経済が大きく回復しない限り、ますますこのトレンドが米国で進行し、共和党が現在持っている基盤、すなわち年齢層の高い白人の男性層と、そうではない層に分かれ、政治的な分裂が進んでいく。

米山(三井物産) 
前回2008年に比べ今回、オバマ大統領が得票シェアを伸ばしたのはヒスパニック系とアジア系だけで、それ以外の人種や年代層のカテゴリーでは全て票を失い、ロムニー氏の方が、前回のマケイン氏よりも得票のシェアを増やしている。また、選挙直前の『TIME』誌が行ったアンケート調査では、米国民の政治的な重心は「センターライト」(中道右派)という潜在的には、共和党の価値観を反映している。しかし、それを共有するメッセージが白人男性中心に偏り、マイノリティーや女性に届かなかったと思う。

堂ノ脇(住友商事) 
ロムニー氏を支持していた人たちは、「Angry old white men」(憤った年配の白人男性たち)といわれるが、そういう言葉に象徴されていたのかもしれない。

今村(司会) 
特に人種構成比で見ると、共和党にはかなり衝撃的な結果であった。今回も投票率で見れば72%は白人である。その白人の6割近くを共和党は得ながら、選挙に勝てなかった。一方で、センサス局の人口予測によれば、2043年には白人の比率が5割を切るという。今回の結果は、共和党が米国社会の多数派である白人に集中し過ぎた政策を続けるようなら、これからの大統領選では勝てなくなることを示しているのではないか。ただ、共和党内部では、議会の「ディスファンクション」(機能不全)を引き起こした同党の平気で瀬戸際戦術を行使する異常な姿勢が間違っていたといった反省がある一方、保守化の徹底が足りなかったとの声もあり、意見が真っ二つに割れている。共和党が本当に変わるか否かは、これからの5週間でフィスカル・クリフ(財政の崖)の回避に向けて、同党が妥協して民主党と協調する方向に進められるかどうかが1つの試金石になると思う。


2.米国の経済問題について


今村(司会) 
今回は有権者に選挙の最大の関心事や争点は何かと聞くと、「雇用と経済」であった。しかし、終わってみればオバマ大統領は、失業率8%が選挙期間中にやや低下したものの、それでも10月時点で7.9%という数字はルーズベルト大統領以来の高さである。過去のカーター大統領や前大統領の父親のブッシュ大統領のときのように、再選に失敗した大統領は、高失業率など経済に問題を抱えていたが、オバマ大統領はこの記録を更新してしまった。一方で、ロムニー候補の得票率である48%はオバマ大統領に対する不信任が多かった表れでもあり、その背景にはやはり経済問題があるという見方もある。このあたりをどのように評価するか。

堂ノ脇(住友商事) 
現下の経済状況を立て直すと言って、さまざまな数値目標を掲げながら、オバマ大統領は過去4年間それを実現できていない。その不信感というものは、どうしても払拭(ふっしょく)できなかったように思う。一方でロムニー氏は「企業経営者としての成功体験もあり、雇用も1,200万人生み出せる」と訴えたものの、具体策まで言及することはできなかった。構造的に両候補とも、明解な処方箋を指し示さないまま、大統領選を迎えてしまったという印象がある。

栗林(双日) 
もし私が一有権者としてどちらに投票しようかと思うときに、今の停滞した経済を司る候補者で、もう少し停滞していくのか、それとも変わるぞと言っているが本当に変わるのか疑問のある候補者との間で、とても悩むであろうと感じた。ロムニー氏の発言には振れがあり、それが「賭け」の不安材料であった。


米国三井物産株式会社
ワシントン出張所長
米山 伸郎氏

米山(三井物産) 
よく聞かれたパーセプションギャップの比喩として、コップの中に水は半分あるけれども、これを「半分しかない」と見るのか、「半分まで増えてきた」と見るのかという話があった。見方によっては全然異なり、個人の感じ方も全然違ったと思う。また別の言葉ではやったのが、「ファクトチェッカー」で、パーセプションに影響を与えやすい統計データを候補者が語った後にメディア等第三者がその信憑性を検証するもの。実感としては、個人消費は少し改善してきたという感じがある。そういう意味でも0か1 ではもちろんないが、トレンドとしては、「コップの水が半分まで増えた」(グラス・ハーフ・フル)という感じはあると思う。

堂ノ脇(住友商事) 
一般の人の中には、ロムニー氏の実力は未知数ながらも、オバマ大統領については過去4年間の実績を見ているから、ある程度の予測がつくという異なった意味での安心感があったのかもしれない。

秋山(伊藤忠商事) 
9月の民主党全国党大会で応援演説に立ったビル・クリントン元大統領は「リーマン・ショック以降の困難に立ち向かいながら現政権はかくも実績を残した」という具体的で心に響くメッセージを発信した。これで結構潮目が変わった。選挙期間を通じテレビCFで両候補の誹謗中傷合戦ばかりを目にしてきた国民の中に、「確かにオバマ大統領はよくやっている」という思いを抱く人が一気に増えた。


米国三菱商事会社
ワシントン事務所長
柳原 恒彦氏

柳原(三菱商事) 
共和党の選挙戦略として、経済が今回の選挙の最重要課題であるとの認識が定まってきたのが、おそらく夏以降であった。その時点で、オバマ陣営はうまくロムニーのネガティブキャンペーンを行い、9月の段階ではロムニーは完璧にオバマ陣営に圧倒される状況となった。確かに経済指標や肌感覚的には、有権者は以前に比べれば景気は良くなるという認識を持ったと思うが、その認識だけで今回の選挙は決まっていないと思う。やはり民主党が主張したロムニー氏の過去の経歴、具体的には特定の人が大金持ちになれるようなプライベートエクイティ等の閉鎖された仕組みの中で彼が活躍したと民主党は主張し、その主張に有権者は引っ張られたと思う。

今村(司会) 
確かに、経済を本当に良くするには何が必要かという議論を戦って政策を磨き合うという展開には至らなかった。米国経済の金融危機からの回復の過程はひどいものではあるが、過去の金融危機を経験した他の国に比べればかなり速い回復であり、金融政策を中心に果敢な政策対応が効いて、ここまで立ち直ったという肯定的な見方もある。しかし共和党は、現状を普通の景気後退の後であるかのように語って、回復の遅れをオバマ大統領の失政と攻めるだけだった。ただ、その戦術に一定の効果があったことも確かである。初回の討論会ではロムニー氏がオバマ大統領に面と向かって語った「何でこんなにひどい雇用状況なのか」という発言は、説得力があった。しかも、それに対してオバマ大統領がうまく反論できず、討論会の惨敗につながったところもあった。


3.オバマ政権の米財政再建


今村(司会) 
オバマ大統領の2期目の大きな課題は財政赤字と公的債務の削減である。今回の選挙戦でも、この課題をめぐり活発な論争はあったが、結局、妙案が出ることなく終わってしまった。2期目のオバマ政権はこの重要課題にどう対応していくと考えるか。

米山(三井物産) 
ビジネス界が期待しているのはまず税制改革。これは法人税率低減だけでなく、複雑な税体系の簡素化を通じ投資環境を改善。他方、財政的にも支出削減にめりはりを付け、大統領の「ポリティカルキャピタル」のあるうちに民主・共和両党が妥結をして、歳入と歳出の抜本的な改革を図ることで、米国投資環境の求心力を相当に強化できるのではないか。もともと潜在力を持っている米国がそういう透明性を増して一体改革ができれば、大きな力をまた発揮できるのではないかと期待している。

今村(司会) 
今、米国の税収はGDP比の15-16%と新興国並みであり、税収に限れば非常に小さい政府である。一方で歳出は20数%に達しているため、毎年10%近い財政赤字が生まれる構図になっている。この規模の財政赤字を毎年出し続ければ、いずれは市場からもしっぺ返しを食らう恐れがある。その財政赤字の上限は国内で資金調達できる水準であり、経常収支が黒字である日本よりもおそらく天井は低い。さすがにギリシャのような危機的状況に陥ることはしばらくないとしても、残された時間は決して長くないという見方もある。

堂ノ脇(住友商事) 
結局、上下院でのねじれの状態が今後も継続する以上、双方の歩み寄りが鍵であろう。昨今の共和党を見ていると、保守層、あるいは茶会運動絡みの強硬な意見が党全体に影響力を及ぼしており、斯様状況の中で、改革に向けた合意形成ができるのか、少し懸念もある。

米山(三井物産) 
ただ前回と違うのは、もし共和党の抵抗で妥協ができないとすれば、次の中間選挙で上院共和党のマコーネル院内総務等指導層が「洗礼」を受けることになる。ティーパーティーだけでなく、オバマ再選を防ぐことを党是のように主張していた人たちまでが洗礼を受けることになり、オバマ大統領がどこまで譲歩の姿勢を示すかにもよるが、意外と現実的な話になるのではないか。

柳原(三菱商事) 
今回の選挙は先ほど述べた通り、米国の分裂を進めるのではないかと思う点があって、これは現在の米国の有権者が直面しているジレンマであると思う。緊急時には政府主導で民間企業を支援をしても、米国は基本的には個人がさまざまなビジネスを創出して、社会が進歩すると信じる人は多い。それが先ほどの「中道右派」という意識にも表れていると思う。一方で政府は財政赤字を削減すべく、いろいろな国民への補助政策を削減するとしながらも、米国の社会的な変化や医療保険などへの対応は必要である。そう考えると、2年後の中間選挙というのは、また激しく右に振れるのではないか。民主党は2010年の中間選挙で大負けし、次回の選挙の行方を決して楽観視していない。するとまた新たな分裂が始まり、政治の振り子は絶えず揺れる。

今村(司会) 
確かに景気が悪くなったため、国に頼る人たちが増えてしまっていることは確かである。他方、福祉を削減すればその人たちが働き始めるかのような認識も現実的ではない。本当に雇用機会が足りないという現実を踏まえた議論を両党ができるかどうかが鍵である。ここ2年間で共和党は「1銭たりとも増税は認められない」「財政再建は大幅な歳出削減で行うべき」という主張に傾いてしまった。その意味で再び「財政の崖」(フィスカル・クリフ)への両党の対応試金石になると思う。

柳原(三菱商事) 
米国史上、ビジネスに対して、組合が強く出る機会は、過去にも幾度かあったが、今回の選挙で、有権者の55%は「米国経済の仕組みは富のある裕福な人に対して非常に優位である」という見方をしている。この層は、大半がオバマ大統領を支持した。過去4年間、そして今後4年間は、下手をするとビジネスに対して非常に「アンフレンドリー」な環境となり、本来であれば「個人の頑張りに報いる」のが米国社会の前提であるのに、そうではないと思っている人の声が高まった、危険な兆候が見られる。


双日米国会社
ワシントン支店長
栗林 顕氏

秋山(伊藤忠商事) 
財政赤字問題解決の一番の鍵は景気が良くなることだと思うが、経済活性化に向けた具体策がまだ見えない。オバマ1 期目は再生可能エネルギー等の産業育成に注力したが、期待する効果は出なかった。次期政権では将来の中核となり得る産業・業種を戦略的に伸ばす支援をしてほしい。

栗林(双日)  
2011年の米国は、世界の全地域に対して7,200億ドル程度の輸入超過となっている。この辺のところに手を付けていかないと、米国は常に買ってばかりいることになり、財政は厳しくなる。そこのところを本当にオバマ大統領がどこまで改善できるのかどうかである。


4. 米国の対外経済政策:米中関係の今後


今村(司会) 
外交、対外経済政策に話を移したい。まずは商社業界にとっても非常に重要な米中関係について。選挙戦ではロムニー候補が中国に対する厳しい姿勢をアピールし、オバマ大統領自身もアンチダンピング等、特に中国に対しては厳しく対応している。一方でこれから数年先を視野に入れると、中国の経済規模で米国を追い抜く可能性も高い。このような状況にある米中関係の今後をどう考えるか。

堂ノ脇(住友商事) 
現在の世界経済において、米中関係は既に切っても切れない次元に達している。オバマ政権は当初、中国と「G2」という構想の中で、いろいろな対話・協力関係をつくろうとしたが、中国側の反応はいまひとつであった。ここに来て台頭してきているのが、「中国は異質な国」という見方である。オバマ大統領も最近、「中国が必ずしも同じルール、同じ土俵の上で競争していない」という見方をしている。中国も指導層の交代時期にあり、新しい指導層の下で、今後、通商政策にどういう出方をしてくるのかを見極めながら、対応せざるを得ないのだろう。

米山(三井物産) 
これは米ソ冷戦時の「相互確証破壊」に当たる。大量の大陸間弾道ミサイル(ICBM)が互いを標的に向き合う中で、お互いに過剰には攻められないというある意味の安定機構をつくっていた。今は中国が、米国の市場に依存しており、米国が、国債を買ってくれる中国の外貨準備に依存するという状況にあり、新しい「相互確証破壊」の関係にある。中国は農産物を米国から最も輸入していて、食料安全保障という意味では、中国は米国に大きく依存している。オバマ政権による製造業回帰は、共和党的な市場主義から見れば「特定の産業保護はおかしい」となるかもしれないが、雇用の乗数効果という意味において合理的であり、貿易赤字の面からも、その改善が期待されることになる。

堂ノ脇(住友商事) 
米国の製造業が競争力を取り戻せるのかという部分については、懐疑的な意見も多いが、シェールガス革命等による安価なエネルギーコストが長い目で見て実現していけば、再度製造業が回帰してくることが期待できるのではないか。


伊藤忠インターナショナル会社
ワシントン事務所長
秋山 勇氏

秋山(伊藤忠商事) 
11月の中国共産党大会で最初に胡錦濤(フージンタオ)氏が、今後の国家運営方針として「外圧に負けない強い国」と宣言し先制パンチを米国に突き付けた。米中は、基本的価値観や安全保障のように相いれない点も多々ある一方、経済では互いに必要な重要パートナーという関係。米中間では表面的な応酬はあっても、必要以上の対立は回避し、双方が経済メリットを享受できるよう上手に付き合うと思う。それにしても米国3億人対中国13億人、経済や外交では数が力となる側面もあり、米国にとってのアジア諸国との関係強化は必須。

柳原(三菱商事) 
米中関係がさまざまな形で相互依存が高まり、中国に進出した製造業が、一部米国に戻ることは当然あるとは思うが、そのときに中国は対米直接投資をさらに増やすと考えられる。しかし、安全保障の理由において、「米国外国投資委員会」(Committee on Foreign Investment in the United States)は、中国企業による米国での通信と風力発電案件を排除、停止するよう提言したというケースが出てきた。このように安全保障を理由に、米国は中国の経済行為に関してもけん制する場面が増える可能性がある。

今村(司会) 
米中という経済大国の間で報復合戦が起これば、米中だけではなく日本を含めた周辺国にも、甚大な被害を与える恐れがある。その意味では、これまで実際に中国と向き合って同国をある程度理解しているオバマ政権の方が、ロムニー政権となっていた場合よりも実務的な対応が期待できる。ただ、それに対して中国が応えてくるかという問題もある。また、中国の海洋権益への野心もオバマ政権にとって懸念材料であり続けよう。

栗林(双日) 
アジアの中では、日本が一番古い民主主義国家で、インドが最大の民主主義国ということである。中東原油の輸入の際、マラッカ海峡を通るが、インドはそこにアンダマン・ニコバル諸島を持っており、中東原油に頼っている日本としては、あの地域での安全保障の1つの根っこを押さえてくれるという意味でも重要な国である。インドはカシミール地方で中国との領土問題を抱えており、尖閣や南沙諸島にふれるときにも、アジアにはこの2つの主要国があることを、中国にメッセージを出せるかどうか。そこに米国が加わり、3国でどうやって中国を扱っていくかというところを、しっかりと対応することが重要である。

米山(三井物産) 
南シナ海ではやはりASEANの存在が大きい。ASEANの外に依存する割合よりも域内の相互依存の方が高まり、非常に安定的な成長を遂げている。先日、マレーシアの元駐米大使がお話ししていたが、「基本的にオバマの再選を、ASEANは歓迎」で、 ASEAN統合に資するような形で、米国が貿易・投資に関与していくということは「歓迎」ということである。アジアには今、いろいろな状況が見られる。経済連携ではASEAN (10)+3、RCEP(アールセップ:10+6)、 TPPなどの話が進み、安保面では東アジアサミットがあり、ASEAN諸国は総じて米国には対中バランサーとして身近にいてほしいという希望があり、ASEANの動向にも注目したい。

秋山(伊藤忠商事) 
今後、中国が輸出偏重型から国内消費主導型に変わっていく流れの中、米国にとっての中国も消費市場としての重要さがますます高まっていこう。局所的な摩擦や課題はあるが、米国は中国との距離感の取り方を工夫しながら付き合っていくしかない。

(大統領選後の米国から展望する2013年世界の政治経済動向 ―2 へつづく)

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