インドシナ域内における物流インフラ整備の課題と展望

日通総合研究所シニアコンサルタント
伊津野 範博

1.インドシナ半島の経済回廊

1992年よりアジア開発銀行主導の下、タイ、カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナムと中国、雲南省と広西チワン族自治区を含めたGMS(Greater Mekong Subregions:大メコン圏)への経済協力プログラムが開始された。交通分野では、インフラ整備や開発、手続きの簡素化の取り組みが進んでいる。インフラにおいては、東西経済回廊(ダナン~モーラミャイン)、南部経済回廊(バンコク~ホーチミン、ブンタウ港)、南北経済回廊(バンコク~昆明)と呼ばれる三つの経済回廊を中心に整備されている。それに伴い、従来、GMS域内の貿易の主たる輸送手段であった海上輸送が陸路にシフトしつつある。またアセアン共同体の発足によりインドシナ域内の貿易が活性化する中で、この経済回廊を利用したクロスボーダー輸送が注目されている。

2.物流インフラの課題

物流関連においては、道路インフラの整備、越境手続きの円滑化、国境の貨物積み替え等といった課題が残されている。もともとインドシナ半島の経済はタイがけん引しており、タイを中心に越境貿易が活発化している。いわゆるタイプラスワンである。特にバンコクを中心とした水平分業がラオスやカンボジアまで延長されている。ただし、タイ以外は道路インフラが完璧に整備されたと言い難い。国際道路とはいえ、そのほとんどが片側 1車線、家畜が横断するといった生活道路であり、しかも過積載の横行による路面損傷等、高速走行ができず、また街灯の未整備が多く、夜間走行ができない状況である。


図 インドシナ半島の主要道路ネットワーク

むろん道路インフラが整備されても、国境を通過する際、国ごとに定められた通関手続き等、さまざまな越境手続きが必要となる。主な輸送手段であるトラックも国境を越える輸送を行う際、国境付近で他の国のトラックに貨物を積み替える必要がある。その場合、時間のロスだけでなく、貨物の盗難や破損を発生させる恐れもある。

そこで円滑な越境移動を促進すべく、CBTA(Cross Border TransportAgreement:越境交通協定)が GMS経済協力プログラムに含まれ、事前に決めたルートを相互に共通する一つの書類でトラックが行き来できる取り組みがある。2015年に全ての国が批准したものの、いまだ発行には至っておらず、トラックを相互乗り入れする場合は 2国間協定にて運用、それ以外は基本的に国境での積み替えが発生する。仮に複数国を 1台のトラックで輸送できたとしても、タイは左側通行であり、それ以外は右側通行となるなど、内輪差も異なり、かつ事故にあった際の言語対応等、安全上、トラックおよびドライバーの変更をしなければならない。


3.今後の展望


経済回廊の整備により、インドシナ半島の道路交通ネットワークは格段に前進した。しかし将来を見据えると、それ以外のルート整備も考慮する必要がある。代表例として、ハノイとビエンチャンを結ぶ高速道路計画、バンコクとヤンゴンを結ぶスリーパゴタパス・ルートを挙げたい。

前者は、2020年から 2025年までの開通を予定しており、ハノイからホーチミンまでの既存高速道路を有効活用し、ビエンチャンから東へおよそ一直線でその高速道路までを結ぶ計画である。完成すればハノイからビエンチャンまで半日、ビエンチャンからバンコクまで半日で輸送可能となる。ベトナムやタイの車両が積み替えなく移動することも可能である。ただし車線の違いや言語の問題により、ビエンチャンに積み替え施設としてのハブ機能を持つことが期待される。
域内の貿易は不均衡であり、輸送の大部分を片荷運行が占め、物流コストを増加させる要因となっている。ベトナムとタイの貨物をビエンチャンに集中させることで、片荷の軽減につながると認識する。日本では、圏央道の整備により内陸地に倉庫が集積し始めたのは周知の通りである。

後者では、現在、タイとミャンマーの陸路輸送はメソート(タイ)、ミャワディ(ミャンマー)を経由するルートしか存在しない。国境付近は高地であり、タイからミャンマーへの道路は登坂車線や道路拡幅の整備を行っているものの、コンテナトレーラーは時速20㎞ほどしか速度を出せず、渋滞が日常茶飯事となる。山間道路に見られる急カーブも多数存在し、線形が良いとはいえない。また第三国に開放されたタイとミャンマーの国境が 1ヵ所のみであることも問題である。代替ルートは必須であり、旧日本軍が敷設したバンコクからヤンゴンまでの泰麺鉄道ルートに期待したい。

線路は国境を中心に撤去されているが道路は存在しており、かつ高低差もほとんどなく、バンコクからヤンゴンまでのショートカットルートとして有望視される。このルートが利用できた場合、ハノイからは上述の高速道路と既存ルートの併用が可能となる。

インドシナ半島の域内貿易は増加傾向にあり、都市間輸送はますます道路にシフトしていくであろう。先述した課題の解消、および上記の新たなルートの整備による輸送リードタイムの短縮は、域内の活性化だけでなく、さらなる外国資本の誘致につながり、経済発展に寄与するものと認識する。

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