アフリカを「遠い」と言わない企業、アフリカを恐れない企業

日本貿易振興機構アジア経済研究所
上席主任調査研究員
平野 克己

アルジェリア人質事件での尊い犠牲。その記憶も生々しい3月に、今度は中央アフリカでクーデターが起こった。2007年に1,000人以上の死者を出したケニアの大統領選挙は先般なんとか無事終了したが、住友商事が奮闘しているアンバトビープロジェクトの現場マダガスカルでは、クーデター後初の選挙に向けていまだ調整が続いている。30年以上アフリカと付き合ってきたが、これだけ多くの国があると、アフリカ情勢はいつも波乱含みで「常在戦場」だ。
それでも、アフリカは高い経済成長率を維持している。その原動力は資源開発だが、民生部門においても消費爆発が起こっていて、それは衣食住関連のみならず通信、金融、医療などさまざまな分野に及ぶ。そこをめがけて中国製品が大量に流入しており、いまや中国はアフリカに対する最大の輸出国になった。中国の対アフリカ輸出額は、長く首位にいたフランスを倍以上引き離している。
また、アフリカの投資リスクを苦にしない南アフリカ企業は、アフリカ市場を開拓しながら多大な利益を上げている。アフリカ最大の携帯電話プロバイダー、銀行、医療会社、小売流通チェーンなど軒並み南アフリカの企業で占められている。アフリカ大陸をホームグラウンドとする彼らの経営手法はすごい。

とはいえ、2003年から続いた資源ブームにもどうやら終わりが見えてきた。年率30%や40%といった、赤道ギニアやアンゴラなど新興産油国の異常なまでの高成長も、そろそろ落ち着いてきている。シェールガス革命の影響で米国はアフリカからの原油輸入を減らしはじめた。その結果、対アフリカ輸入額でも中国が首位に立った。その中国も、経済成長の踊り場を迎えようとしている。
資源価格の先行きを見通すのは難しい。アフリカでの探鉱投資は底堅いが、今後見直される案件も出てくるだろう。だが、日本経済が直面している資源安全保障の要請は、ポスト・フクシマの電力エネルギー対策の帰趨を含め、その深刻さにおいてなんら変わるところはない。安倍政権成立後の円安傾向は日本経済の基調に明るさを取り戻してくれるかもしれないが、化石燃料の急増で赤字化した貿易収支にとってはさらなる悪化要因だ。
適正で安定した資源エネルギー価格を実現するためには継続的な資源開発が要る。米国のシェールガス開発や海底資源開発といった、いま日本の前にあるいくつかの可能性の中に、東アフリカ沖で発見が続いている巨大な天然ガス田も含まれていよう。これらは東アジア市場を目指して開発されるはずだ。しかし、どこであっても新規開発が進んで世界の供給量が増え、資源エネルギー価格が安定する時代を迎えることができれば、経済的にも政治的にも国際環境は日本にとって有利なものになる。価格動向はさておいても、21世紀は、前世紀を大きく上回る量の資源と共存しなければならない時代になることは間違いない。
日本製造業が復活を果たすためには、日本の中に効率的な資源ビジネスが構築されていなくてはならない。その観点から世界戦略図を描いている企業の目には、アフリカが入っていなくてはならないはずだ。同じ東アジアにある中国がアフリカ最大の貿易相手国であるという現実は、われわれ日本人に「アフリカは遠い」という物言いを許してはくれない。現代の世界に「遠い」といえるところなどない。どのような関係を望むかという尺度しかないのである。

ここ数年の日本のアフリカ投資は大型M&Aが主軸だ。現下最大の投資はNTTによる南アフリカのIT企業ディメンションデータの買収である(2010年)。ディメンションデータは南アフリカのみならずアジアに強い基盤を持つ企業で、NTTの世界戦略上貴重な戦力になるだろう。関西ペイントも南アフリカ最大手の塗料・塗装会社フリーワールド・コーティングスを買収した(2011年)。MBOに向けて動いていた同社に敵対的買収を仕掛けて成功したものだが、積極的な国外進出を株主に約束し、その経営戦略でもって勝利した。グローバル企業化を目標に掲げる関西ペイントの「天下取り」にとって、これは欠かせない戦力になるだろう。
積極果敢なM&Aでアフリカに根を張ったJTインターナショナルにしても、現地で働いているのは外国人の部隊である。外国人戦力をうまく統合して活かせる企業は、グローバル企業としてのコーポレートアイデンティティーを確立しているといえる。人口ボーナスの喪失に見舞われた社会では外国人との協働が必要になる。いまの中国企業にそれは難しいだろうが、日本企業には可能なはずである。

日本の国内市場が縮小していく中で、生き残りを懸け、むしろ世界に打って出ようとしている企業の視野には、アフリカを含め世界市場の隅々が見えているはずだ。そういう視野を持つ企業はリスク対応も違ってくるだろう。世界はもともと危ないところだ。リスクを回避していると行く当てを失い、老いた先進国に逼塞することになる。日本の貿易依存度は30%程度で世界平均の半分以下、いまや世界の下位6番目だ。日本は、世界で最も閉じた経済の一つになってしまっている。アフリカ経済の好調もそう長くは続かな いだろう。それを説明するだけの誌面はないが、アフリカの成長構図には大きな落とし穴がある。一方で、アフリカ投資の収益率はアジアのそれより高いといわれつづけてきた。日本企業の例を挙げると、味の素株式会社のアフリカビジネスがアフリカ市場のこの両面にうまく対応している。そのときどきの成長率にかかわらず収益がとれるビジネスになっているということだ。要するに、常在戦場にあってなおかつ長期世界戦略を持てる企業だけが勝てる市場なのであり、そういう意味で企業体力が勝負である。アフリカで勝てる企業は世界で勝てるだろう。そういう日本企業に続々と登場 していただきたいと思う。

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