アフリカ開発における日本への期待

アフリカ開発銀行
アジア代表事務所長
玉川 雅之

アフリカ開発銀行のアジア代表、東京事務所長に就任いたしました玉川です。

アフリカ開発銀行グループは、アフリカの開発に専門的に携わる国際開発金融機関です。1964年の創設以来、アフリカに住む人々の生活水準の向上と貧困削減の実現を目指して、インフラ整備をはじめとする開発効果の高いプロジェクトの創出、実施に携わっています。債券発行を原資とする政府への融資および民間事業体への投融資とともに、日本をはじめとする域外国からのアフリカ開発基金への出資をもとに、低所得国に対しては、無償あるいは無金利による資金提供も行っており、さらに各国への技術協力や政策的助言の提供、アフリカ全体の経済動向の調査・分析やアフリカ開発に関する長期ビジョンの提示など、アフリカの開発を多面的に支援しております。

アフリカ開発銀行の本部は、コートジボワールの首都アビジャンにありますが、2003年以来暫定的にチュニジアに本部を置いています。アビジャンへの帰還も近く予定されているところです。アフリカ域内32ヵ所に事業事務所を設けており、アフリカ各国が主導して設立された地域開発金融機関として、職員も大半はアフリカ各国の出身者が占めており、アフリカ開発における各国のホームドクターとして、各国の実際のニーズに即した支援を柔軟に提供していくことが業務運営の主たる特徴となっています。
アフリカ開発銀行は2012年10月に、東京にアジア代表事務所を設けました。域外事務所を設けるのは初めてのことであり、アジア諸国、特に域外加盟国である日本、中国、韓国、インドとのパートナーシップの強化を図ることを今後の優先課題としたことを反映しております。特に日本は域外国では米国に次ぐ、2番目の出資国(出資比率 5.5% ちなみに中国は1.1%。韓国は0.5%、インドは0.2%です)であり、またアフリカ開発基金への出資額も累計では第2位であり、アフリカ開発銀行にとっては最重要の域外パートナー国の1つであります。
このため東京事務所では、本部とも緊密に連絡を取りながら、アフリカ開銀の活動や各種プロジェクトの実施状況などについて日本語による情報提供に努めるとともに、アフリカ開発においても重要な役割を果たしているJICA(有償資金、無償資金、技術協力)や国際協力銀行の投融資業務とも連携を深め、さらに開発に関わる日本の企業、コンサルタントなどの方々が、アフリカ開発銀行の関わるプロジェクトや技術協力にもより積極的に参加していただき、また日本人の方にアフリカ開発銀行の職員にもより応募していただく(現在日本人職員は10名前後ですが、出資比率からすると何倍にも増えてもいいのでないしょうようかと考えております)ための慫慂等を実施していきたいと考えており、日本貿易会の会員企業、関係者の方々とはぜひ緊密に連絡を取らせていただきたく、どうぞよろしくお願い申し上げます。

ところで、アフリカ大陸は21世紀に入って、特にこの数年において、著しい変貌を遂げつつあり、新たな経済発展が大陸の各地において広範囲で起こりつつあることを示すさまざまなデータや事例が日本においても数多く紹介されつつあります。

カベルカ総裁は、1月にインドにおける講演で、「同じ10億人の人口を抱えるインドで1990年代に起こったことと同様な変化が、21世紀のアフリカにも起こりつつある」と述べ、インドとアフリカのさまざまな比較を行いました。アフリカは埋蔵される資源ではより恵まれ、その新たな発見や需要の増大が成長の大きな起爆になっているだけでなく、①(債務削減によってもたらされた)マクロ経済の健全化、②政府のガバナンスの向上、③都市化の進展、④中間層の創出、⑤人口ボーナスの顕在化などにより経済社会が変化しつつあり、特に携帯やITの普及などにより企業活動を行うコストや技術的な制約が大幅に低下したことにより、民間セクターが急速に興隆しつつあること、などがインドから10年遅れてアフリカで起こりつつある潮流ではないかというのが、総裁およびわれわれのアフリカの変貌に関する見方です。日本企業にとってもインドへの投資の活発化は、東南アジアや中国からはずっと遅れてから始まり、最近急速に本格化しつつあると思いますが、インドの向こうに、さらに巨大で可能性にあふれるアフリカが、ビジネスを行い成功させることが可能な場所として、急速に認識されつつあるのではないでしょうか。

2013年のTICAD Vは、「よりダイナミックなアフリカと手を携え、持続的(sustainable) 包容的(inclusive)で環境にも優しい(green)な成長をアフリカにもたらす」ことを主要テーマとし、日本にとっても今後5年間のアフリカ支援戦略となっていくことが想定されます。これアフリカ開発銀行の長期戦略とも全く一致するものでありますが、そのためには民間セクター(アフリカの有望分野でもある農業も含む)の発展、インフラの整備、 官民の人材育成などに、資金的にも人的にもより多くのリソースの投入が必要となります。中でも日本の民間企業のアフリカ投資やビジネスの活発化やより多くの日本人の本分野への参入が、アフリカの開発、質の高い成長にとってもより大きな力となってくれることが期待されます。

アフリカ開発銀行も、民間セクター開発や官民連携によるインフラ整備のための、民間事業体への投融資や技術協力などをより活発化させていくことを目指しており、日本政府はこの分野においても、EPSA(アフリカの民間開発のための共同イニシアチブ)やFAPA(アフリカ民間セクター向け支援基金)への資金提供やJICA円借款との協調融資等により、アフリカ開発銀行の活動を強く支援してくれています。

今後の5年において、日本人、日本企業が、アフリカの変貌をビジネスチャンスとしても捉えていただき、アフリカ開銀の各種制度、活動とも関わっていただきながら、アフリカ人と共に働き、アフリカの興隆に力を貸していただけるようになることを祈念しています。どうぞよろしくお願いします。

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