アフリカの持続的成長に向けてわが国官民がとるべき方策

一般社団法人日本経済団体連合会 サブサハラ地域委員長
双日株式会社 会長
加瀬 豊

TICAD Ⅴに向けた経団連の取り組み


わが国政府が、5年に1度アフリカの開発戦略を内外に打ち出す国際会議であるアフリカ開発会議の第5回会議(TICAD Ⅴ)が、2013年6月に横浜で開催されます。同会議では、テーマの1つにアフリカの持続的成長に貢献する民間の役割を取り上げる予定であり、経団連としてもこれを積極的に支援することとしております。その一環として、2012年8月には日本政府の要請に応じて、官民共同の「TICAD Ⅴ推進官民連携協議会(共同座長:坂根経団連副会長、岸田外務大臣)」を発足させており、私も同協議会の共同座長代理を拝命いたしました。
また、同協議会での議論に経済界の意見を反映させるため、経団連では、この1月に提言「サブサハラ・アフリカの持続可能な成長に貢献するために ~TICAD Ⅴに向けた経済界のアフリカ戦略~」をとりまとめ、政府および関係方面に建議したところです。この経済界のアフリカ開発戦略について、アフリカ各国政府代表ならびに国際機関の皆さんに広く知っていただくために、3月には、エチオピアでのTICAD Ⅴ閣僚級準備会合に出席して、民間代表としてスピーチを行いました。出席者からは、アフリカの経済成長への民間の貢献に対する高い期待が数多く寄せられました。
そこで、本稿では、経団連がTICAD Ⅴに向けて実現を強力に働き掛けております提言の概要をご紹介し、皆さまのご参考に供するとともに、ご理解とご支援をあらためてお願いしたいと存じます。


アフリカの持続的成長への貢献


アフリカは、過去10年間(2001-11年)に名目GDPを約3.3倍に伸ばしました。また、人口は2010年の約10億人から2050年までに約22億人に増加すると見込まれております。このようなアフリカの成長の潜在力を着実に顕在化させていくために、経団連では、(1)基幹インフラの整備、(2)良好なビジネス環境の構築、(3)産業人材の育成の3つの視点に立って、開発戦略を提案しております。

⑴ 基幹インフラの整備
アフリカでは、 道路、 鉄道、 港湾、 電力、 通信等の基幹インフラの他、 住宅、 上下水道をはじめとする都市インフラが不足している国が多く、 これが経済成長のボトルネックとなっております。 特に、基幹インフラについては、内陸国と沿岸国の経済的な結び付きを念頭に、 複数国への広がりを持つ広域インフラの整備に力を入れ、 資源・ エネルギー開発プロジェクトや直接投資を誘致して産業基盤を形成していくことが重要です。
また、 これらインフラ整備を官民連携で円滑に進めるために、 日本政府に対しては、日本企業がすでに進出している国・ 地域を中心に戦略的マスタープランを策定することを求めております。そして、これを着実に実施 するための政策対話を当該国・地域との間で行うことや、特別の予算枠を設け、 無償資金協力、 円借款の規模を拡大したり、 国際協力機構(JICA)の海外投融資、 国際協力銀行(JBIC)の投融資、 投資保険等を活用して民間のインフラ・プロジェクトを支援することを求めております。

⑵ 良好なビジネス環境の構築
日本企業が現地で貢献するためには、良好なビジネス環境が必要であり、アフリカ各国の法制度整備やその適切な執行が急務です。 例えば、日本企業の技術力の強みを活かしたパッケージによるインフラ展開には、 品質や技術力を正当に評価する入札制度や土地収用 等を円滑かつ着実に実施する制度がホスト国 側に求められることから、その実現をアフリカ 各国に提案しているところです。
また、アフリカ各国には、 高関税品目が多数存在する他、 不透明な税関手続きをはじめとする非関税障壁が少なくありません。 加えて、 投資・サービス分野では、 外資制限、 過度なローカルコンテンツ要求、ロイヤルティーの送金規制等の障害があります。 日本企業が雇用創出や技術移転を通じて現地経済に貢献していくためには、 これらの問題の解消が重要であることを指摘し、関係国の理解を求めているところです。 例えば、現在、 わが国が進めているモザンビークやアンゴラとの投資協定交渉では、これらの課題を解消する内容 を盛り込んで早期に締結するとともに、それ を他国にも横展開していくことを日本政府に 求めております。また、将来的には、 東アフリカ共同体(EAC)や南部アフリカ開発共同体(SADC)等との間のEPA締結を検討するとともに、それまでの間、日本企業が多く進出している国との間でビジネス環境整備に関する官民政策対話の場を設置し、 制度や税制の不備に起因する問題を機動的に解決して いくことを提案しております。
なお、アルジェリアでの事件を引くまでもなく、企業が海外進出する上で、治安と安全の確保が大前提となります。そこで、日本政府には、アフリカ各国と連携した邦人保護のための適切な体制の構築と措置とともに、円滑な貿易を実現する上でのシーレーンの安全確保およびアフリカ沿岸の海上保安対策への一層の尽力を求めております。

⑶ 産業人材の育成
最後に、アフリカの持続可能な成長のための基盤をつくる上で、即戦力となる産業人材を育成し、就職に直結させる仕組みづくりが何よりも重要となります。これを支援するために、JICAや長年の実績のある海外産業人材育成協会(HIDA)の企業研修生受け入れ プログラムを拡大する財政措置を求めております。
加えて、アフリカ諸国では、 産業政策に精通した行政官を育成することが急務となっております。 そこで、 わが国政府には、わが国産業政策の経験を共有する観点からも、 政府間の活発な人事交流を求めております。
なお、経済界としては、現地での人材育成は自らの課題として捉えており、かねてよりビジネスを通じてさまざまに現地の人材育成を推進してきております。今後ともホスト国側のニーズを考慮し、取り組みを一層強化してまいる所存です。
これらの3分野における取り組みは、アフリカ諸国における貿易と投資を拡大し、雇用創出と所得の向上をもたらし、結果として貧困の撲滅に貢献するものと信じております。
また、このアフリカ開発戦略が、アフリカの経済成長と貧困の撲滅を通じて、わが国の成長を促進することを説明しながら、引き続 き、財務当局をはじめ日本政府関係機関にその実現を働き掛けてまいることとしております。
貿易会の会員の皆さまにもぜひともご支援のほどお願い申し上げます。

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