伊藤忠商事の再生可能エネルギーへの取り組み

伊藤忠商事株式会社
電力プロジェクト部 部長
油屋 真一

当社の再生可能エネルギー分野の紹介


当社が取り組む再生可能エネルギー関連ビジネスは、IPP(Independent Power Producer) 事業、発電設備の設計・調達から建設を請け負うEPC(Engineering, Procurement and Construction)ビジネス、さらに関連製品の販売を手掛ける代理店業務やサプライチェーンへの参入等がある。当社は、2012年末現在開発中の案件も含め約2,820MW の持ち分容量のIPP事業を行っているが、そのうち再生可能エネルギーの占める割合は約17%で、ガス火力が45%、石油火力15%、そして石炭火力が23%を占める。再生可能エネルギーのうち、10%が風力発電事業、3%が地熱発電事業、そして4%が太陽熱/光発電事業である。以下では、国内における展開とIPP事業を中心に当社が取り組む再生可能エネルギー分野におけるビジネスについて説明する。


国内での再生可能エネルギービジネスの展開


国内での再生可能エネルギービジネスとして、風力発電事業と地熱発電システム販売代理店業務を紹介する。1990年代後半から風力発電事業に着目し、幾つかの案件開発を行ってきた。幌延風力発電(21MW)は、1999年に募集された北海道電力の風力発電プロジェクトを落札したもので、2002年から運転を開始し、当社は計画当初から参画している。本事業は、幌延町・JFE エンジニアリング・当社を中心に運営管理を行い、地元企業からの協力も得て進めてきたもので、国内での本格的な風力発電事業の草分け的な事業である。安定的で良好な風況に恵まれており、今後も、円滑な事業継続を通じて再生可能エネルギーの供給に寄与したい。
地熱分野では、全世界の地熱発電市場の約14%、地熱バイナリー発電設備で9割以上のシェアを持つOrmat社と深いつながりがある。1990年代初頭より、当社は提携関係を構築し東南アジアでバイナリー発電設備導入の協力を行ってきた。フィリピン・レイテ島でのOrmat社地熱バイナリー発電事業(50MW)では、一部資本参加を行い、2007年契約期間終了とともに現地企業に発電所を移管した。Ormat社のバイナリーシステムは、国内では九州電力の八丁原地熱発電所に1台、そして群馬県水上の奥利根アメニティパークにRDFボイラーからの余剰蒸気を利用したバイナリー設備が1台導入された。当社は、2003年より日本国内におけるOrmat社の販売総代理店業務を行っている。2010年には、JFEエンジニアリングがOrmat社と提携関係を結び、国内での地熱バイナリー発電設備の全体設計・建設・据え付け・引き渡しを一貫して提供することが可能となった。地熱バイナリー発電は、比較的低温の熱源でも発電可能なことから温泉発電技術としても最近注目を集めている。Ormat社は、製造だけでなく、地熱資源の探鉱・開発、そして自社で地熱発電設備を保有し、運転・管理も行っている。つまり地熱資源の上流開発から、中流の設備供給、下流の発電事業の各ビジネスセグメントを垂直統合した非常にユニークな企業である。地熱資源の特質を熟知した上で、一つ一つ異なる資源の特性に合わせて最も効率が高く、最適な発電システムを提案できるのが最大の特徴である。


海外での再生可能エネルギービジネスの展開


当社は2010年6月、GEと再生可能エネルギー分野での共同投資案件に関して包括的な業務提携を締結した。具体的案件として、米国オクラホマ州でのCPV Keenan-II 風力発電事業(152MW)と世界最大規模を誇る米国オレゴン州でのShepherds Flat風力発電所(845MW)への事業参画を行い、現在両発電所とも順調に稼働している。Keenan-IIの運転と保守は、当社の米国子会社NAES Corporationがサービスを提供している。NAESは、発電所の運転・保守分野における独立したサービスプロバイダーで、この分野では最大手である。全米を中心に全世界で117ヵ所(総計33,500MW)の発電所で運転・保守業務を提供している。そのうち、風力・バイオマス等の再生可能エネルギーは1,280MW を占めている。Shepherds Flatは、約80㎢(山手線内側面積の1.3倍)の広大なエリアに計338基の風車が設置され、GEに加えIPPディベロッパーであるCaithness社、米国住友商事、グーグルと共に事業への投資を行っている。
当社の北米IPP事業会社であるティア・エナジー社は、米国の他パートナー企業2社と共に木質バイオマス発電事業の開発を手掛けるAmerican Renewables社を2008年に設立し、世界最大規模となる100MWの発電事業開発を2件行った。うち1件(テキサス州)は運転を開始し、もう1件(フロリダ州)も順調に建設が進んでいる。なお、ティア・エナジーは、当社の出資する発電資産の事業管理も行っている。
当社は、インドネシア・スマトラ島でSarulla地熱発電事業(350MW)の開発を九州電力・Medco(インドネシア大手エネルギー企業)・Ormat 社のコンソーシアムで行っており、2013年後半から2014年前半のファイナンスクローズを目指して、現在インドネシア政府関係者と協議を継続中で、並行して現地での建設着工に向けた準備も行っている。インドネシアは、旺盛な国内需要に支えられ高い経済成長率を遂げているが、経済発展を持続的に推進するには安定的なエネルギー供給が不可欠である。国内での石油・天然ガスの消費急増に伴い、石油の純輸入国となったインドネシアは、国内に豊富に賦存する石炭や地熱・水力といった再生可能エネルギーによる電源開発を積極的に推し進めている。地熱資源ポテンシャルでは、世界第1位であり、資源の枯渇や価格高騰の懸念が少ない地熱は、温暖化ガス排出削減に加えて経済効率やエネルギー安全保障面でも望ましいことから、Sarulla地熱発電事業の早期履行が期待されている。また、インドネシアのような資源保有国との間で安定的な経済関係を築くとともに、これらの国々におけるインフラプロジェクトや資源開発プロジェクトを通じて積極的な協力関係を築くことにより、間接的ではあるが、日本のエネルギー安全保障にも寄与するものと考えている。
最後に、当社はソーラーエネルギー分野においては、金属カンパニーのソーラービジネス部が川上の原料、川中の中間製品、川下のシステムインテグレーション事業やソーラー発電事業を有機的に結び付けることで、競争力のあるビジネスバリューチェーンの構築を目指している。発電事業では、スペインでアベンゴア・ソーラー社と太陽熱発電事業(50MW 2基)を2012年から行っている。また関係会社であるスカテックソーラー社を通じて、南アフリカにて太陽光発電事業を積極的に推進しており、現在75MWの発電所を建設中である。

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