双日 豪州ミネルバ炭鉱プロジェクト

双日株式会社
石炭部長
尾藤 雅彰

ミネルバ精炭貯炭場-高品位炭を主に日本、韓国向けに販売

双日は今から19年前の1994年、豪州クィーンズランド州に位置するミネルバ炭鉱の権益を30%取得した。2005年11月に高品位の燃料用一般炭の生産を開始。2006年8月に権益を45%に増加し、2010年12月にはさらに51%を追加取得した。


自然災害を乗り越えて


ミネルバ炭鉱採炭風景-異物対策に細心の注意が払われている

双日は 2010年12月の権益追加取得により、豪州ミネルバ炭鉱の持ち分権益が96%になった。これにより日本の商社では唯一、炭鉱経営・操業機能を直接保有することとなった。
これまで商社は、石炭サプライヤーとパートナーシップを組んで少数権益参画者の立場で、主にマーケティングを担当することが主流であった。しかし、今後は商社が少数権益参画者として参画する意味合いが徐々に薄くなっていくと予想され、石炭サプライヤーと同じように自ら炭鉱を経営・操業し、今後の成長へのかじを自ら取っていきたいと、プロジェクト開発を進めていた当社は考えるようになっていた。
その場合、商社にいる人間だけで炭鉱のマネジメントとマーケティングを行うことは難しい。操業するに当たっての一番のキーポイントは「どういう人材を集めるか」であり、豪州在住の炭鉱経営経験者をスカウトすることになった。
ミネルバ炭鉱の操業・経営管理を行う双日コールマイニング社(SCM)のキャメロン・ヴォリアス社長は、そのうちの一人だった。
2010年12月、権益を取得した日の3日後に、クィーンズランド州東部で集中豪雨による洪水が発生。この影響で石炭の輸送に使う鉄道の一部が被害を受け、積み出し港までの輸送ルートが完全に閉ざされてしまった。炭鉱内にも水がたまり、その排水対策などいきなり苦境に立たされた。ミネルバ炭鉱が位置する地域は元来干ばつ地帯。突然そこを襲った洪水に「線路の復旧には3ヵ月、いや半年はかかるだろう」という情報が流れた。
当時、現地に詰めていたヴォリアス社長は、従業員の安全確保および従業員家族の生活を第一優先にし、災害からの復旧後、いかに滞っている生産量をキャッチアップするか、政府と排水規制緩和に関する協議を行うとともに、輸送の遅れを挽回するための計画を綿密に練ってくれた。
鉄道会社のクィーンズランドレールに出向き、ミネルバ炭鉱から石炭を運ぶ貨車を線路が復旧次第増加してほしいと談判。その後も1ヵ月半は出荷ができない状況が続いたが、素早い交渉が功を奏し、2月に入って輸送が再開。しかも洪水前よりも多くの数量の輸送が可能となり、2011年度の出荷量は、予定していた280万tに対して実質10ヵ月で285万tを達成することができた。


双日グループとしてのブランディング戦略


ミネルバ炭鉱のスタッフ一同-双日ロゴを付けたユニフォームを着用

炭鉱オペレーションで一番の要となるのは、そこで働く従業員である。元は別会社の従業員であった者が、その会社からの権益買い取りを境に双日のグループ社員となる。
そこで注力したことは「双日ブランディング戦略」だった。
現場の総従業員数は250名。もともと少数株主として炭鉱事業に参入していたため、双日がまったくの無名ということはなかったが、今度は大株主となって経営・操業を開始することに対して、「本当にできるのか」という不安の声が従業員から少なからず聞こえてきた。また、ミネルバ炭鉱の従業員にとって、双日は3社目のオーナー。炭鉱従業員が一丸となるためにも、彼らに双日を身近に感じてもらう必要があった。
ヴォリアス社長は、デイタイム、ナイトタイムの時間帯で働く従業員それぞれの業務終了後に、操業会社の変更について、双日の事業について、そして、現場の安全と家族に配慮した経営を行う会社であることを説明。また、従業員が着るT シャツ、車、文具類、名刺など炭鉱内の至るところに双日ロゴを記載した。
SCM社のオープニングセレモニーでは、加瀬社長(当時)をはじめ日本側の経営陣が現地を訪れ、SCM社、双日コールリソーシズ社(SCR)の従業員との夕食会に参加。時には炭鉱現場で一緒にバーベキューパーティーを行った。
次第に現地のスタッフの間から「双日にとって、この炭鉱開発事業の優先順位が高いことが実感でき、自分たちの頑張りが認められていると感じる」との声が聞こえるようになった。彼らは双日グループの一員という意識を持ち、モチベーションを高く保ってくれている。現場のさらなるモチベーション向上のためにも、東京側で支援できることは積極的にやっていくつもりだ。


次なる飛躍へ向けて


炭鉱経営・操業機能を獲得したことにより、双日の石炭ビジネスは次の展開へ向けて大きな一歩を踏み出した。従来の少数権益参画者の立場と比較すると、入ってくる情報量、技術的知見、販売ネットワーク、案件の目利き力には格段の差がある。
今後はミネルバ炭鉱で培った知見・機能を活用し、新規案件の獲得を図っていく。ターゲットは、もちろんmajorityシェアを握っての自社操業案件である。双日は豪州以外にインドネシアでも複数の炭鉱プロジェクトに参画しているが、SCM社の持つノウハウを世界各地でのプロジェクトに応用し、総合力を高めていきたい。

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