住友商事の資源ビジネスへの取り組み-サンクリストバル鉱山事業を通じて

住友商事株式会社
鉛・亜鉛事業部

1. 世界の資源マーケット概観


中国・インド等新興国の経済成長に伴い、原油・鉄鉱石・銅・亜鉛といった経済活動の根幹をなす資源の需要は年々高まってきている。かかる状況下、こうした資源の安定確保は、資源輸入国である日本はもちろんのこと、世界各国の急務となっており、資源の安定供給に向けた日本の総合商社による資源ビジネスの展開が担う役割は大きい。


2.サンクリストバル鉱山事業概要


⑴ 事業概要


サンクリストバル鉱山

当社が南米の内陸国・ボリビアにて操業しているサンクリストバル鉱山は、標高約4,000mに位置する露天掘り鉱山で、亜鉛精鉱・鉛精鉱を日本・アジア・欧州を中心とする全世界の製錬会社に販売している。亜鉛の生産量は世界第6位、副産物の銀の生産量は世界第3位、さらには日本向け亜鉛精鉱の最大の供給元でもある。
鉱山事業では、まず鉱山で掘った鉱石(金属含有量が1-2%程度)をサイトの敷地内に建設した選鉱工場で細かく砕き、金属分を抽出し、57-58%程度にまで濃縮する。これが鉱山での最終製品、亜鉛精鉱・鉛精鉱であり、これをチリの港から日本・アジア・欧州の製錬所に販売している。製錬会社は精鉱からさらに地金を作り、加工メーカーに販売している。
亜鉛地金の主要用途はめっき(自動車鋼板等)、鉛地金は蓄電池材料(自動車バッテリー等)、銀地金は電子部品・宝飾品等であり、いずれも社会の基盤を形成している重要な金属である。特に経済成長が著しい中国やインドでは需要の伸び率が先進国を大きく上回っている。


⑵ 当社参画から事業再生までの取り組み


当社は2006年9月にサンクリストバル鉱山の権益35%を米国の中堅鉱山会社から取得した。翌2007年8月に操業開始したものの、フル生産に向けての立ち上がり遅延、操業コストの上昇により、巨額の追加資金負担を余儀なくされた。2009年1月には、リーマン・ショックのあおりを受け、パートナー会社が破綻。当社は同年3月にサンクリストバル事業権益の100%化に踏み切った。
事業再生のため、2009年8月に外部業者との採鉱委託契約を解除。翌2010年7月には旧パートナーとのマネジメントサポート契約も解約し、当社 100%子会社が、サンクリストバル鉱山の事業会社である Minera San Cristóbal S.A(. 以下、MSC)の操業・事業運営・人材マネジメント等、経営面での全般的な支援を行い、鉱山会社の本社的機能を補完する体制に切り替えた。
当社からも現地に人材を投入し、コスト削減および内部統制の強化に徹底的に取り組んだ。具体的には、購買・在庫管理、資金管理、不利な契約の解除、指揮命令系統の整理等、MSCが安定的な操業を継続していくための体制づくり、また、持続的な改善を目指していくための意識づくりに取り組んだ。上記取り組みの結果、業績面ではV字回復を達成。
2010年には、MSCは品質・安全・環境に関する国際規格三種の同時取得を鉱山業界において世界で初めて実現した。
MSCは労使関係の整備・強化にも取り組み、労働組合組成、労使協定の締結を実現した。労使関係においては、徹底したコミュニケーションに基づく信頼関係の醸成を肝と捉えている。
鉱山会社にとって環境汚染を防ぐことは非常に重要な課題であるが、MSCは積極的に環境対策を行っている。2011年には鉱石の粉じんを防止するドームを建設した。従業員および地元住民の安全・健康を重視した、環境対応のモデルケースとして現地では大きく取り上げられた。
ボリビア政府との関係構築においては、モラレス大統領以下、政府要人をサイト招聘(しょうへい)し、鉱山事業を正しく理解してもらう一方、政府との間で問題が生じても正々堂々と愚直に粘り強く対話を続けてきた結果、政府との信頼関係は強固なものになっている。ボリビアが日本政府との長年にわたる友好関係や日系移民に対する尊敬の念から親日国であることに加え、政府関係省庁や政府系機関の継続的支援も多大なる貢献となっている。
MSCでは「ワールドクラスの鉱山操業をボリビアで実現する(To be a world-class Bolivian mining company)」というビジョンを全社員で共有し、政府・地元にもアピールしている。ボリビアとの共存共栄を目指すこの事業モデルは、「サンクリストバル・モデル」としてボリビア政府首脳にも浸透している。


⑶ ボリビアへの貢献


ボリビアは、1人当たりGDPが2,000ドル強の南米最貧国であり、主要産業は鉱業(亜鉛・鉛・スズ)および農業(大豆・木材・砂糖)である。サンクリストバル事業は、ボリビア経済に大きく貢献している。
MSCはボリビアで第2位の輸出額を誇り、2011年度法人所得税納税額はボリビア民間企業で第1位である。
また、MSCは直接雇用1,500人、間接雇用4,500人を抱えるボリビア最大の民間企業であり、従業員の98%がボリビア人、うち60%以上が地域コミュニティーの出身者であることから、地域の雇用創出にも大きく貢献している。現地人率は他鉱山と比べて極めて高いといえる。
さらには、MSCは環境・CSR 活動を鉱山事業の基盤と捉えており、インフラ整備、教育・医療サービスの提供、持続的発展のための基金創設等、地域社会へも大きく貢献している。


3. 今後の資源ビジネスの展望


高品位かつ国・立地が良好な資源開発案件が世界的に減少している中、これからはより環境が厳しい地域に、アクセスや技術面の多少の困難を乗り越えて、資源を獲得していく必要がある。当社は、サンクリストバル鉱山の安定操業の継続、さらにはサンクリストバルで培った経験を活かした優良案件の獲得、開発と育成という目標を持ち、資源ビジネスに取り組んでいきたい。

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