資源・エネルギーの安定供給の確保に向けた取り組み

経済産業省 資源エネルギー庁
長官官房 総合政策課長
保坂 伸

1. はじめに


2011年の東日本大震災とそれに伴う東京電力福島第一原子力発電所事故により、わが国のエネルギーを取り巻く情勢は一変した。原子力発電所の停止に伴い、火力発電の重要性が増大する一方、化石燃料の輸入増により、電力会社は年間約3兆円もの燃料コストの上昇に直面している。こうした中、茂木敏充経済産業大臣から2月18日の産業競争力会議において「『多様な供給体制とスマートな消費行動を持つエネルギー最先進国』へのアクションプラン」をお示しし、資源エネルギー庁としても、安定的、かつ低廉な資源・エネルギー供給体制の構築に万全を期すこととしている。


2. 資源・エネルギーをめぐる国内外の状況と課題


⑴ 資源確保


2000年代初頭以降、中国・インドなどの新興国において経済成長が加速したことに起因して、新興国を中心に資源・エネルギー需要が爆発的に増加(注1)してきている。このため、中国等の大需要国は資源・エネルギーの安定供給の確保を図り、海外資源確保への取り組みを強化し、国際的な資源確保競争が激化してきている。加えて、現在、わが国は原油・LP ガス共に8割以上を社会情勢が不安定な中東に依存しているなど、資源の依存先の地域偏在性は資源の安定供給確保にとって大きな問題となっている。
また、国際的な資源価格の上昇に加え、東日本大震災以降、原子力発電所の稼働停止に伴う火力発電用の燃料輸入増が年間約3兆円に達しており、2011年には日本は第2次石油ショック以来、31年ぶりに貿易赤字を記録した。2012年には赤字が6.9兆円に拡大した。ここに来て円安の進行という要因も加わっており、燃料調達費の削減はわが国経済にとって喫緊の課題となっている。
さらに、液晶パネル、携帯電話等のIT機器や次世代自動車など、わが国の国富の創出に貢献する「高付加価値・高機能ものづくり」に不可欠なレアメタル、レアアース等の鉱物資源についても、電気自動車用モーター磁石等に用いられるレアアースといった一部鉱種について、8割以上を中国に依存しており、地域偏在性が依然として高い。
このような資源をめぐる国際情勢や経済・財政状況を踏まえ、供給国の多角化を図りつつ、調達コストの低下に努めることが必要となっている。

(注1)2000年と2010年の一次エネルギー供給量比較 世界のエネルギー供給量1.3倍増加(うち中国2倍、インド1.5倍の増加)


⑵ 再生可能エネルギー・省エネルギー


エネルギーの安定供給を維持しエネルギー安全保障に資するという観点から、最大限の再生可能エネルギーの導入拡大と省エネルギーの推進も不可欠である。
再生可能エネルギーに関して、その中でも太陽光発電については、2012年7月の固定価格買い取り制度の導入により、2012年度の導入量見込みが累積で730万kW と、前年度比で1.4倍に拡大する見通しであり、また過疎地も含め全国各地でかつてない発電投資をもたらしている。わが国の電源構成に占める再生可能エネルギー比率は、日本は10%(水力を除くと1%)と、スペイン33%、イタリア25%、ドイツ18%などの諸外国に比しても、今なお低い。一方で、経済とエネルギー消費の規模が大きいわが国の導入インパクトは、再生可能エネルギーのシェアが高い欧州の国と比べても格段に大きい。
省エネルギーに関しては、1980年前後の石油危機以降、日本においてエネルギー効率(エネルギー供給/GDP)は4割改善している。しかしながら、同期間、産業部門はエネルギー消費量が減少したが、住宅・ビルのエネルギー消費量は2.5倍に増加しておりこの分野での省エネを進めることが課題である。


図1 わが国の最終エネルギー消費の推移


(出典)総合エネルギー統計、国民経済計算年報


3. 政府としての取り組み


⑴ 資源確保


(ア)資源外交
資源調達先の「多角化」を図ることにより、供給における不安定性・脆弱(ぜいじゃく)性を軽減することで、より低価格での資源調達を実現することが喫緊の課題である。
中国、インドネシアをはじめとする一部国では資源・エネルギー分野において、保護主義的措置が取られ始めている。こうした措置に対応すべく、すでに日本企業が権益を確保している一部の資源国・地域における「守り」の取り組みを進めることに加え、供給ポテンシャルのある新たな資源国・地域の権益を押さえていく「攻め」の取り組みを官民一体となって総合的に進めていく必要がある。
具体的には、首脳レベルの要人往来の機会を利用したトップセールスによる協力関係の強化、パッケージ型インフラ海外展開の推進、国際的なフォーラムやルールの積極的活用等包括的な取り組みにより、資源確保のための官民一体となった働き掛けを行う。

(天然ガス関係)
・世界初となるLNG産消会議の開催(注2)

(石油関係)
・UAE(アブダビ)やサウジアラビア等の主要産油国との対話と、供給源の多角化(ロシア、ベネズエラ等)

(石炭関係)
・第1回日モザンビーク政策対話の開催(鉱物関係)
・ ベトナム、カザフスタン、インド、豪州のレアアース開発等への参加
・日アフリカ資源大臣会合の開催(注3)

(イ)資金供給の機能強化
昨今、世界では資源の上流開発を担う企業の資金規模が急速に拡大し、わが国上流開発を担う企業は規模において大きく水を空けられている。わが国の民間企業の資金面でのリスクテイクの能力をカバーすべく、政府による資金供給機能の拡充を図る必要がある。
そこで、政府は2012年度の第180回通常国会において改正JOGMEC法を成立させたことにより、JOGMECを通じた出資や債務保証等の金融支援は、産業投資資金の活用が可能となり336億円から1,203億円(2012年度)のリスクマネー供給が可能となったところである。

(ウ)LNGの輸入価格低減のための方策
環境面に配慮しつつ、資源の安定的かつ低廉な調達に取り組む中で、最有力視されている資源が天然ガスである。天然ガスは国際市場が未成熟で、地域間価格差が存在し、比較的偏在性が低く、シェールガスの開発の進しん捗ちょくも相まって供給源の多角化が可能であるなど、輸入価格の引き下げ余地がある。
そこで、具体的な例として、シェールガスの生産拡大により天然ガスの国内価格が低下している米国から新たにLNGを輸入することが、LNGの量的確保と輸入価格の引き下げを両立するために極めて有効な方策の一つである。米国からのLNG輸出には米国政府の許可が必要であり、日本企業が関与する現地プロジェクトでの日本への輸出の早期承認に向け、日本政府として米国政府に積極的な働き掛けを実施している。FTA締結国向けは自動承認されるが、非FTA締結国向けはプロジェクトごとに審査する仕組みであるため、現在申請中の3件(図2参照)のプロジェクトは、2013年2月下旬以降、審査される見込みとなっている。

(エ)石炭火力発電をめぐる動向
火力発電コストの低減に向けては、石炭火力発電がベース電源として期待されている。他方、火力発電については、CO2の排出量が相対的に多いという問題点があり、今後CO2の削減目標の見直しとともに、議論が行われていく予定である。

(注2)2012年9月、東京で、LNGの生産者・消費者が一堂に会する会議を開催。閣僚を含め、30ヵ国・地域から600人以上が参加。日本政府からは、原油価格に連動した価格決定方式は合理性を失っており、それに代わる新しい方策が課題である旨を発信
(注3)今後多くの資源プロジェクトが開発される可能性が高いアフリカ各国とわが国の関係強化のために、鉱物資源分野では日本で初めての国際的大臣会合を設置


図2 北米において検討中の主要なLNGプロジェクト



⑵ 再生可能エネルギー・省エネルギー


(ア)再生可能エネルギー
再生可能エネルギーの導入拡大に向けては、まず固定価格買い取り制度の適切な運用が不可欠である。この制度では、電力会社にとっての超過費用は、電気の利用者(家計や企業)から賦課金として電気料金に上乗せして徴収し、過剰な負担とならないよう、買い取り価格は法律上、毎年度見直すこととなっている。具体的な価格水準については、調達価格等算定委員会の意見を尊重することになっている。
また、コスト低減を図るには、風力等相対的にコストの安い再生可能エネルギーが有望との考え方もある。一方で、風力については風況の最適地が北海道、東北の一部に限られるため、大消費地圏への送電には当該地域内の送電網整備が必要である。国の補助事業として送電網整備・実証試験の予算を平成 25 年度当初予算案に計上し、当該地域内における送電線敷設・変電所の増強による風力発電の受入量の拡大を図る。この送電網整備だけでも、風力発電の国内累積導入量は、現状の250万kWから3倍に拡大することを見込んでいる。
さらに、再生可能エネルギーには合わせて蓄電池の開発が不可欠である。わが国のみが製造できる分野である大型蓄電池に関して、再生可能エネルギーの出力変動の平準化を目指して、課題であるコスト低減のための研究開発や変電所等への導入を促進していく。

(イ)省エネルギー
省エネの最大限の推進に向けては、民生部門の省エネが最大の課題である。その中では、先に述べたように住宅・ビルの省エネをどのように進めていくかがポイントになる。建築物の断熱性能を強化することで、住宅・ビルのエネルギー使用量削減が重要である。このために、2020年までに全ての住宅・建築物新築時の省エネ基準の段階的な適合義務化を国土交通省と経済産業省の間で調整中である。また、断熱材や窓などの建材の断熱性能向上に向けて、本国会で提出させていただいている改正省エネ法によって、現在トップランナー制度の対象となっていない断熱材、窓などを対象に追加し、技術や製品の開発を加速していく。
次に、中小型の蓄電池、自家発の導入による無理ないピークの削減やスマートメータ ー、HEMS・BEMS・MEMS の 導 入 に よるエネルギー需給管理も重要である。これを実現するために、蓄電池・自家発の導入支援事業やエネルギー管理システムの導入支援事業などを補正予算および当初予算に計上し、集中的に資金面を助成しているところである。また、エネルギー需給管理については、スマートコミュニティ4地域(横浜、豊田、けいはんな学研都市、北九州)で実証実験を実施しており、そこで得た知見・結果を生かして、さらなるスマートコミュニティの普及を進めていく。


4. おわりに


東日本大震災以降、日本における資源 ・ エネルギーの安定供給の確保の重要性は一層高まっている。
経済産業省としても2月18日の「『多様な供給体制とスマートな消費行動を持つエネルギー最先進国』へのアクションプラン」をお示しし強靱、(きょうじん)なエネルギー需給構造の構築に向けて取り組んでいるところである。以上のような個別の取り組みに今後とも全力を尽くしていくとともに、国民の皆さまの幅広いご意見を聴取しながら、ご理解とご協力を得つつ、全力で資源エネルギー政策の推進に努めてまいりたい。

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