日本の水産物輸出について

三菱商事株式会社
生活産業グループ
農水産本部水産部

1. 日本の水産業を取り巻く環境


日本は世界第9位の広大な水域面積に寒流と暖流がぶつかる好漁場を有しており、1980年代までは世界最大の漁業国であったが、近年は漁労者の高齢化や漁労採算の悪化により、漁業・養殖業の生産量はピーク時(1984年の1,282万t)の半分以下(2011年の477万t)に減少している。また並行的に日本国内では若年層を中心に魚離れが進んでおり、1人当たりの水産物消費量も、10年前は40.3㎏であったものが28.6㎏まで落ち込んでいる。一方で海外では健康志向や日本食ブームから欧米を中心に水産需要は年々増加しており、世界全体の水産物の生産量は、10年前は約 1.4億tであったものが約1.8億tまで伸びており、ここ数年間においては毎年2-3%ずつ伸びている。世界有数の水産資源国である日本にとっては、海外の成長市場に向けた水産物輸出を増加するチャンスであるものの、2011年の東日本大震災による放射能汚染により、風評被害に加え、日本からの水産物輸出には放射能検査証明書の提出等が義務付けられており、手続きやコスト面でも輸出の大きな妨げとなっている状況である。今後、日本の水産業活性化のためには①放射能問題の早期解決、②マーケットの拡大(=海外市場の取り込み)、③国内漁業・養殖における規制緩和が求められる。


2. 当社の水産物輸出に向けた取り組み


(天然魚)


当社は歴史的に日本近海で水揚げされた鰹(かつお)鮪(まぐろ)類(カツオ、キハダ、ビンチョウ等)、青物(サバ、サンマ、イワシ)を産地の漁業者や問屋から缶詰原料用として直接買い付け、タイ等の缶詰メーカー向けに輸出してきた。2011年の震災以降、取り扱いは減少しているが、日本近海で漁獲される青物は、他産地と比較して資源量が安定していることに加え、品質面で競争力があることから、今後、国内鮮魚流通において高いシェアを持つ事業投資先の鮮魚ルートも活用しつつ、輸出数量増加を目指していく。


(養殖魚)


優れた養殖技術により、国産養殖魚は安全・安心かつ高品質な養殖魚を競争力ある価格で海外に供給できる潜在能力を持っている。今後欧米のみならず、中国等の新興市場でも「食の安全・安心」に対する関心や、「食の健康志向」が高まっていくと予想され、当社も将来的な国産養殖魚の海外向け供給を視野に入れている。具体的には、現在当社グループ会社が国内3ヵ所(長崎県2ヵ所、和歌山県1ヵ所)で展開している本鮪養殖場から、日本に次ぐトロ商材のマーケットである米国や中国市場への養殖本鮪輸出が挙げられる。また、ブリ・カンパチや、三陸産養殖銀鮭の中国向け輸出も検討段階にある。中国は主にノルウェー、デンマーク、スコットランド産空輸アトランティックサーモンが流通する成長市場であり、その多くが刺し身・寿司として消費されているため、今後日本料理食材として三陸銀鮭は受け入れられる可能性が高いと考えている。

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