アフリカ経済の発展と日本企業の進出

経済産業省
通商金融・経済協力課長
森 清

1. はじめに


私は、本会報2010年5月号に、「資源・電力・貿易 ―日本の対アフリカ資源・通商戦略」と題した文章を寄稿させていただいた。その中で、「アフリカにおいて、風林火山(疾如風、 徐如林、侵掠如火、不動如山)の旗印のうち、いつまでも『林』と『山』だけではなく、『風』と『火』を組み合わせた活動をする日本企業を応援したい」と書いた。それから3年がたつ。そうした日本企業が出てきた。


2. 増大する人口と経済の発展


アフリカの人口は、今10億人強。国連の推計では、2045年に20億人を超える。今から40年後には、乳幼児の半分弱がアフリカで生を受ける。特に、アフリカ東部と西部の人口増が大きい。2050年には、ナイジェリアに加え、コンゴ民主共和国、エチオピア、タンザニア、エジプトが1億人を超え、日本の人口を上回るだろう。人口増に伴い、都市化が進む。人口増は、今まで、アフリカにとって、「悩みの種」だった。1日の1人当たり消費額が4ドル以上の人口を「中間層以上の人口」と仮定した場合、その割合が3割を超える国は、アフリカでほんの数ヵ国しかない。農業の生産性が低く、国境が多くて流通網が整備されていないため、アフリカで収穫された農産品はそのほとんどが農村地帯のみで消費される。アフリカの農産品貿易は「入超」だ。過去10年、米国やフランスは、アフリカ向け食料品輸出を急増させた。この勢いはこれからも拡大する。
経済成長が続き、個人の所得が増えれば、人口増は個人消費を活性化させる。現にこの10年間のアフリカ地域の経済成長寄与度を見れば、その半分強が「個人消費」である。東部アフリカでは、「個人消費」の寄与度が7割にも達する。中国は寄与度の半分強が「投資」である。対比すると面白い。
過去30年、アフリカのGDPと国際原油価格は、見事に一致した推移を示してきた。原油価格が引き続き高止まると予想される中、アフリカは今後数年間にわたり、5%を超える経済成長が期待される。南ア企業のショップライトが既にアフリカの16ヵ国で2,000以上のスーパーマーケットを展開している。欧米の食品会社が追随している。「中間層」が増えれば、原油価格に頼らなくても、経済が拡大する。
経済成長率の高止まりが予測される今のうちに、いかに「人口増」を「悩みの種」 から「経済成長のエンジン」に変えられるか。 これがアフリカの最大の課題である。この課題の達成にどのように貢献できるか。日本企業のビジネスチャンスは、ここにある。


3. 対アフリカビジネス ―変貌の兆し


国連の統計では、2006年、アフリカへの海外直接投資(FDI)の総額が政府開発援助(ODA)の総額を上回った。どちらも現在、400億ドル台で推移している。最新の2010年の統計では、各国のGDPに占める対アフリカFDI比で、日本は、英国とフランスに次ぐ第3位を確保している。この10年で、日本のアフリカ企業の買収(M&A)は、資源関係を含め40件を超えた。その半数はこの1、 2年間の話である。「風」と「火」の動きが出てきた。ただし、英国企業は毎年50件、米国企業は毎年30件、コンスタントにM&Aを行っている。まだまだ、欧米に負けている。異なる2つの流れがアフリカで起こっている。1つは、携帯電話の普及。アフリカの携帯電話は今7億台。2人に1人以上が保有している。10年後には15億台以上になると予想される。携帯を使った新たなビジネスが、アフリカの金融や流通を着実に変えている。その流れが、道路や港湾などのインフラ整備をプッシュする。
もう1つは、経済共同体。ケニアの空港に東アフリカ共同体加盟国(EAC)国民用の専用ゲートができた。域内関税が撤廃され、共通関税が導入された。アフリカは、国境の通関手続きが大変である。ザンビアとコンゴ民主共和国の国境に行った時、トラックが何㎞にもわたって停車していた。通関を数日待つという。アフリカは一つ一つの国の経済規模が小さい。多くの国が、日本の中堅都市の経済規模しか持たない。アフリカには100万都市が40もあるが、都市と都市を結ぶ流通網が整備されていない。経済共同体がうまく成立すれば、アフリカ経済に革命が起こる。物流が動く。EACの動向を見て、ケニアやタンザニアへの日本企業の進出が増えた。アフリカの他地域もEACに続こうと動き出している。


4. 日本企業に対する支援


4月15日に第2回の「経協インフラ戦略会議」が開かれ、「円借款の戦略的活用のための改善策」が発表された。「後発開発途上国向け円借款」などアフリカでの活用が期待される項目が多く入っている。ぜひご覧いただきたい。そして、円借款制度の見直しについて、今後も目を離さないでいただきたい。
JBICは、2月に海外展開支援のための「出資ファシリティ」を創設した。4月初めには、外為特会のドル資金を活用する「融資ファシリティ」を発表した。資源や M&Aを中心に、これら2つの制度(ファシリティ)を活用したアフリカの案件が数多く出ると確信する。
JICAやJETROを中心に、アフリカでのBOP/インクルーシブビジネスへの支援策が拡充された。こうした支援策を使って、アフリカでのビジネスを探る独立ベンチャー企業が増えている。国連諸機関との連携も 始まった。
長年の課題ではあるが、日本とアフリカ、双方の滞在経験者を集めた同窓会的なネットワークの強化が急務となっている。今日本に1,000人以上いるアフリカからの留学生を大事にすることも重要だ。
1月にアルジェリアでテロ事件が起きた。治安情勢や危機管理を含めた形で、在外公館とのさらなる連携の強化を求める声や、現地政府とのビジネス環境に関する2国間対話の強化を求める声が大きい。NEXIの「投資保険」の運用など、課題が残る。
透明な取引、政府との付き合い、良好な労使関係等々…。アフリカだけではないが、アフリカでビジネスする際に、避けて通れない課題がある。われわれも、既にアフリカに進出した日本企業の成功要因などを分析した冊子を近々とりまとめる予定である。 最後に。TICAD Ⅴがもうすぐ始まります。ぜひ、横浜でお会いしましょう。

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