経済連携をめぐる日本貿易会の取り組み ~TPPを中心に

一般社団法人日本貿易会
国際グループ マネージャー
中村 志保

はじめに


日本貿易会は、「新貿易立国、世界とともに」のキャッチフレーズの下、海外とのヒト、モノ、カネ、情報の相互交流によって成り立つ「新貿易立国」の実現を通じて、わが国経済の活性化と世界経済の健全な発展に寄与すべく、積極的に提言活動を展開している。その活動の中で、市場委員会(委員長:木下雅之・三井物産㈱代表取締役専務執行役員)では、自由貿易体制の維持・拡大の必要性を認識し、TPP(環太平洋経済連携協定)をはじめとするEPA(経済連携協定)/FTA(自由貿易協定)等の推進を大きな活動の柱として掲げ、積極的な要望活動を展開してきた。特にTPPについては、交渉参加が遅々として進まない状況の中、その重要性を認識し2010年より早期交渉参加に向けた要望活動を繰り返し行ってきた。安倍政権誕生以降、着実に進みはじめた経済連携に関して、政府の取り組みなど最近の 経済連携の状況、これまでの当会の要望活動について紹介したい。


1. わが国の経済連携の状況


⑴ 政府の方針
安倍政権では、「日本再興戦略~ Japan is Back」における国際展開戦略として、TPP、RCEP(東アジア地域包括的経済連携)、日中韓FTA、日EU・EPAなどの経済連携を積極的に推進することで、新興国等の成長を最大限に取り込むことを重要な施策の一つとして掲げている。具体的には、貿易額に占めるFTA比率を現在の19%から、2018年までに70%に高めることを目標に、アジア太平洋地域の新たなルールを作り上げて、TPPとともにRCEPや日中韓FTAといった広域経済連携と併せ、その先にあるより大きな構想であるFTAAP(アジア太平洋自由貿易圏)の構築
を目指している【図1】。
さらには、日EU・EPA等の二国間経済連携も同時並行的に取り進めることとし、各経済連携が相互に刺激し合い、活性化することにより、世界全体の貿易・投資のルール作りが前進するよう、重要なプレーヤーとして貢献していくことを目指している。



⑵ TPP交渉参加と進捗状況
TPPに関しては、2013年3月に安倍総理が交渉参加を決断して以降、参加に向けた歩みを着実に推し進め、7月にマレーシアで開催された第18回交渉会合に初参加を果たした。その後、参加国との二国間協議等を重ねながら、8月24日からブルネイで開催された第19回交渉会合からわが国は本格的な議論に参加した。交渉参加国とこれまでのTPPの進捗状況をまとめると【図2】の通りとなる。
TPPは、環太平洋地域の貿易や投資などの自由化を目指す多国間の経済連携協定である。日本を含めたTPP交渉参加国12ヵ国の経済規模(GDP)は、世界経済の約4割に達し、またAPEC全体に占める割合は7割となる。TPPでは関税撤廃による高度の貿易自由化だけではなく、サービス貿易、投資、政府調達等をはじめとする市場アクセスの改善を目指して、21分野で交渉が行われている。



⑶ 広域・二国間EPA/FTAの状況
わが国のTPP交渉への参加は、他の経済連携協定交渉を加速・推進することにもつながる重要な意味を持つ。現在、わが国のEPA/FTA は、13の国・地域と発効している他、10の国・地域と交渉・共同研究中である【表1】。政府の方針もあり、TPP交渉への参加を決断してから、未締結国・地域との経済連携交渉が一気に加速化している状況にある。特に重要な市場である日中韓FTA、RCEP、日EU・EPAについては、2013年3月以降交渉がスタートし、積極的な交渉が進められている。



2. TPP交渉参加に向けた当会市場委員会の取り組み


⑴ これまでの要望活動
当会は、市場委員会を中心に、従来から二国間・地域間の経済連携の推進について積極的に要望してきた。中でもTPP交渉への早期参加に関する提言活動は以下の通りであり、早期交渉参加の必要性について繰り返し述べてきた。

<TPP交渉参加に向けた要望書および意見広告>
・2010年10月APEC横浜「2010年APEC首脳会議開催に向けての要望」
・2011年11月APECホノルル「2011年APEC首脳会議開催に向けての提言」
・2012年6月日本経済新聞記事広告「FTAAPの実現を目指して」
・2013年1月 安倍新政権発足時「わが国のTPP協定交渉への早期参加を求める」

<提言・要望書の主な内容>
・アジア太平洋地域は日本の貿易・投資の拡大、経済の持続的成長を促す最重要地域であり、TPPは、FTAAP実現に向けた重要な布石である。
・WTOドーハ・ラウンド交渉が妥結できない状況の中、新たな貿易・投資ルール形成が必要である。
・二国間FTAを積極的に推進している韓国に対する競争力強化が必要である。
・TPP交渉への参加は、他の経済連携交渉を加速・推進することにもつながる。
・日中韓FTAやRCEPにおいては知的財産保護や投資規制の緩和等は、十分に盛り込まれない可能性が高いため、TPPにおいて包括的で高い水準のルールを構築する。
・TPPは輸出や投資を促進するだけではなく、国内の規制緩和を促し、内需拡大につながる。

⑵ TPP交渉参加に向けた意見・要望の収集
TPP交渉参加に向けて、政府は6月18日および8月5日に、業界団体を対象とした説明会を開催。当会を含む多くの業界団体(6月18日128団体、8月5日214 団体)が招集され、TPP交渉で議論する21分野に関して、各業界へ意見・要望・情報提供の依頼があった。当会では市場委員会でアンケート調査を行い、メンバー企業からの意見・要望として政府へ提出した。
アンケート結果より商社業界の要望・課題が浮き彫りとなった。TPP交渉分野21分野中12分野に対して多くの意見が寄せられ【表2】、特に「物品市場アクセス」、「貿易円滑化」、「投資」に係る要望・意見が多くあっ た。主な要望内容は以下の通り。
・「物品市場アクセス」:本邦からの輸出拡大、FTA締結によって優位にある韓国企業およびNAFTA、ASEANの域内企業に対する競争力強化、TPP非参加国の企業との優位性の確保等を理由とした幅広い項目の関税撤廃・削減。
・「貿易円滑化」:貿易関連書類の簡素化・電子化、輸出入通関手続きの簡素化・迅速化、通関システムの相互連携、貨物セキュリティールールの統一等、TPP加盟国間における国内物流レベル並みの円滑化等。
・「投資」:租税条約の早期締結(チリ、ペルー)、締結済み条約の改善(ブルネイ、カナダ、メキシコ)、および条約の順守(ベトナム)、外資参入規制の撤廃、自国民雇用要求の禁止等、投資を行う上での障壁撤廃等。



3. 政府への期待


経済活動のグローバル化を背景に、世界的な経済統合の進展が大きな流れとなっている。アジア太平洋地域におけるTPP、RCEPだけではなく、日EUなどの二国間EPA/FTA、さらには、大西洋における米欧間のTTIP(環大西洋貿易・投資パートナーシップ)の進展など、世界はまさにメガFTAの時代に入ったといっても過言ではないだろう【表3】。こうした中、グローバルに海外展開を拡大し続けているわが国企業にとって、「協定インフラ」といわれる経済連携協定、投資協定、租税条約、社会保障協定等の整備は、投資・ビジネス環境改善の観点からも不可欠である。わが国企業の国際展開がスムーズに行えるように、これらの協定・条約の締結が総理の力強いリーダーシップにより促進されることを期待する。

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