日本の農産物輸出の現状と伊藤忠商事の取り組み

伊藤忠商事株式会社
農産部 部長
北栄 哲弥

日本の農産物輸出の現状


日本の農業技術のレベルは高く、果物、野菜、牛肉等高品質な農産物の生産には定評があり、多くの消費者は、多少、輸入品よりも価格が高くても国産農産物を購入します。
海外においても、先進国では、「過栄養」、「栄養バランスの乱れ」に起因する、いわゆる生活習慣病が拡大しており、米国をはじめ、欧州や中国、南米では健康に対する意識が高揚する中で、長寿国としてわが国の「食」が注目されるようになっています。
すなわち、海外において、日本食は「ヘルシー」、「おいしい」、「安全・安心」、「高品質・高級品」として高い評価を得ており、外国人旅行者の増加や日本企業の海外進出等を契機として、海外では日本食を提供する事業者が増加しています。
今後10年で倍増が見込まれる世界の食市場に、日本の農林水産物・食品が展開できる環境を整備し、日本の「食文化・食産業」(Made by Japan)の海外展開と日本の農林水産物・食品(Made in Japan)の輸出促進を同時に推進することが、今後の日本農業の発展にとっても課題となります。
この場合、輸出先国の規制が日本からの輸出の障害になっている場合があります。輸出先国・地域とわが国は制度や文化が異なるため、商売の基本として相手国の基準に合わせることが必要です。相手国の基準としては、食品添加物使用許容量や施設認定等の規格基準、HACCP(危害分析重要管理点)等の製造工程認証の取得が挙げられます。
また、検疫については、輸出先国・地域における需要量の見通しや国内産地の意欲、相手国からわが国への輸出を要請される品目への対応を検証し、優先順位をつけて取り組んでいく必要があります。この場合、TPP参加による食品の規格基準の統一や各国の衛生・検疫規制の透明性の確保と基準の統一は、日本からの輸出にとっても明るい材料となります。

この流れの中、農林水産省は2013年1月に農林水産大臣を本部長とする「攻めの農林水産業推進本部」を設置しました。農林水産業の中長期的な展望を切り開く観点から、わが国農林水産業の強みを分析し、内外の市場開拓、付加価値の創造等の具体的戦略の検討を通じ、消費者ニーズの変化に即応し、多様な関係者を巻き込んだわが国農林水産業の新たな展開の具体化を図ろうとしています。
そして、2013年2月および4月の官邸における産業競争力会議において、農林水産大臣は「攻めの農林水産業」の展開として、農業の構造改革の加速化、6次産業化による生産から消費までのバリューチェーンの構築と併せ、今後10年で倍増が見込まれる世界の食市場において、日本の農林水産物・食品が評価される環境を整備し、日本の「食文化・食産業」(Made by Japan)の海外展開と日本の農林水産物・食品(Made in Japan)の輸出促進を同時に推進することを発表しました。
現在、国別・品目別輸出戦略を策定し、日本食を特徴付けるコンテンツ(水産物、和牛、日本酒等)の輸出による輸出拡大を目指すこととしています。
この中で、青果物について見ると、果実等の輸出は円高や世界的不況等により2007年をピークに減少傾向にあります。輸出先別(2012年)では、主要8品目の合計54億円のうち台湾向けが36億円(約7割)、香港が11億円(約2割)を占め、両者で全体の9割を占めています。品目別(2012年)では、主要8品目の合計54億円のうちリンゴが約6割の33億円(台湾向け27億円、香港向け3億円など)となっています。
次に、野菜について見ると、主要な生鮮野菜の輸出額20億円(2012年)のうち、約9割を「ナガイモ」が占めていますが、輸出額は、2008 年をピークに年々減少傾向にあります。

これに対して、今回、農林水産大臣の説明によれば、品目別の農林水産物・食品の輸出額に係る数値目標、輸出環境の整備等に係る政策目標を設定するとともに、これを実現する具体的な政策手法として、日本の「食文化・食産業」の海外展開(Made BY Japan)については、①各国の基準・規則の改善働き掛け、国内規制の国際標準化、各国の基準規制に関する情報提供、模倣品対策等ビジネス環境の整備、②進出企業の協働による人材バンク創設等の人材育成、③出資による支援を、また、日本の農林水産物・食品の輸出(Made IN Japan)については、①重点品目、重点市場への支援の集中化、日本食を特徴付けるコンテンツ(水産物、和牛、日本酒、青果物等)を中心とした輸出モデルへの転換など国別・品目別輸出戦略の策定、②各国の基準・規則の改善働き掛け、国内規制の国際標準化、各国の基準規制に関する情報提供、模倣品対策等のビジネス環境の整備、③出資による支援を行うこととし、これら取り組みを一体的に推進することとしています。
例えば、輸出戦略と2020年目標については、品目ごとに策定する他、東南アジアを中心に周年供給が可能なリンゴをメーンとして、かんきつ類、イチゴ等を組み合わせ、日本産フルーツが、海外の百貨店、スーパー等の売場(棚)に常時並ぶ供給体制を確立し、高級フルーツと言えば「日本の○○」のようなブランドの確立を目指すとしています。

TPPをはじめとする自由貿易体制の進展に対応し、わが国の農業もその体質を強化するとともに強みを発揮し、日本の食産業の海外展開と日本の農林水産物・食品の輸出促進を一体的に展開することにより、拡大するグローバルな「食市場」(今後10年間で340兆円から680兆円に倍増)を獲得し、農業の成長産業化を図っていく必要性に迫られています。産業競争力会議の議論に見られるように、政府としてはあらゆる政策手段を講じて、リンゴやナシ、かんきつ等のわが国の高品質な農産物の生産拡大と輸出を伸ばし、農業の成長産業化への突破口を切り開いていくこととしています。


伊藤忠商事の取り組み


当社は2013年4月にグループ会社となった合同会社ドールと連携して2006年より日本の農産物の輸出事業に取り組んでおります。現在の輸出品目はリンゴ、ナシ、ブドウ、ナガイモ、スイートコーン等であり、台湾、中国、香港、フィリピン、UAE、サウジアラビア他に輸出しております。上述の通り日本の農産物は海外において「高品質・高級品」、「安全・安心」、「おいしい」という観点で、高い評価を得ております。今後はドールブランドを冠した日本の農産物の商品開発を進め、アジア、中近東向けの輸出事業を積極的に拡大していく考えでおります。