農林漁業の成長産業化に向けた「A-FIVE」の役割と取り組み

株式会社農林漁業成長産業化支援機構
企画管理本部 総務部長
出倉 功一

「A-FIVE」設立の背景と事業の概要


わが国の農林漁業は、農林漁業者の所得の減少、担い手不足の深刻化等厳しい状況に直面し、農山漁村の活力は低下しています。この状況を打開するため、農山漁村の強みである農林水産物や生産活動などの特色を生かし、その価値を2次・3次産業につなぎ、農林漁業者の所得の確保と農山漁村における雇用機会の創出を図ることが喫緊の課題となっています。
こうした認識の下に、株式会社農林漁業成長産業化支援機構(A-FIVE。以下「機構」という)は、国と民間との共同出資により、2013年2月1日に開業し、6次化ファンドが本格的に動き出しました。政府は、6次化ファンドを農林漁業の成長産業化の中核となる支援手法と位置付け、地域の農林漁業を先導し、雇用機会の創出と所得向上によって農山漁村を活性化する「地域の元気印」となる会社を育てていこうと考えています。
具体的に、6次化ファンドは、農林漁業者と2次・3次産業事業者のパートナー企業双方が出資して設立される6次産業化事業体(6次産業化・地産地消法の認定事業者)に対して出資と経営支援を一体的に行うことにより、生産地と消費地をつなぐバリューチェーンの構築を進めていく仕組みです。支援は、機構が直接行うこともあり得ますが、民間の資金・ノウハウを十分に生かすとともに、地域に根差した取り組みに対してきめ細やかに経営支援を行っていく観点から、各地域またはテーマごとに機構が地域金融機関等と共に設立するサブファンドを通して行うことを基本としています(図1)。これは、全国各地で地域性、多様性がある農林漁業の特性を生かし、地域の活性化を進めていくためには、地域の実情に明るい地域金融機関などが中心になって支援していくことが効率的であるからです。


図1 ファンドを活用した資金供給スキーム



一方、地域においても工場誘致した企業が撤退するなど厳しい環境において、地場の産業として農林漁業とその産物を活用した食産業への期待が強く、積極的にサブファンドを設立し、本ファンドを活用する意向が見られています。
6次化ファンドの出資期間は、最長15年です。これは、一般的なファンドとは異なり、一定の期間を要する農林水産業特有の事業サイクルを考慮しています。また、事業体に供給される資金は補助金や融資ではなく、より柔軟性の高い出資ですので、経営の発展段階に応じて運転資金の借り入れなどと併せた活用により、経営者の自発的な取り組みを引き出し、実現することが可能な仕組みとなっています。


機構における取り組み状況と今後の展望


機構では、全国各地で説明会を実施するとともに、サブファンドを設立する地域金融機関等と相談を進めてきました。その結果、6月末までに21のサブファンドの支援(官民計約500億円)を決定し(図2)、さらに全国各地でサブファンドを設立していきたいと考えています。


図2 サブファンドの設立状況について



今後は、これらのサブファンドを通じた事業体への出資等が本格化していくこととなりますが、既に農林漁業者だけでなく多くの2次・3次産業事業者からも相談が来ています。
6次化ファンドは、農林水産物の加工等だけではなく、海外に販路を持つ商社やサプライチェーンを持つ物流企業と連携し、高品質なわが国農産物の安定的な輸出拡大などにも活用できますので、農林漁業者とパートナー企業とが一体となって、さまざまなアイデアをご議論いただき、機構と一緒に新たな取り組みを実現させていただきたいと考えています。具体的な投資案件はこれからですが、その一例として次のようなものも考えられます(図3)。

〔生産地密接の食品加工の製造・販売・輸出〕
・ 機構やサブファンドのマッチングにより、枝豆生産グループと冷凍食品製造業者および商社による合弁事業体を設立。合弁事業体は生産地近隣に冷凍枝豆製造工場を建設。収穫から加工までを短時間で処理することで、生鮮品を超える品質の冷凍枝豆を製造。
・ 生産者は枝豆の適期安定供給を図るとともに、規模拡大を通じて地域の所得拡大・雇用創出に貢献。
・ 合弁事業体は、高品質冷凍枝豆を生産、商社の国内外の販路を利用し、国内販売・海外輸出を実施。


図3 ファンドを活用した想定事例



おわりに


農林漁業は、それにふさわしい形、生産者がより良いものを生産し、それを加工、流通や販売を通じて、さらに価値の高いものとして消費者に届けること、さらに輸出を通じて世界の消費者にも届けることが可能となり、広く衆知を集め、2次・3次産業と連携し価値をつなぎ合わせることによって地域活性化、再生のエネルギー源となり得るまさに成長産業です。機構は20年の時限組織ですが、この間に多くの農林漁業者がパートナー企業と連携し、6次化ファンドの活用により、地域に多くの雇用機会が創出され、活性化した農山漁村が全国に現れ、「農林漁業」のさらなる成長に資することができるよう取り組んでいく考えです。

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