ジェトロにおける農水産物・食品 の輸出拡大に向けたサポート

独立行政法人日本貿易振興機構(ジェトロ)
農林水産物・食品輸出促進本部 事務局長
江口 慎一

1. ジェトロ「農林水産物・食品輸出促進本部」による取り組み


ジェトロは2012年1月、サポート機能を強化し、効率的な取り組みを行うために理事長をヘッドとする「農林水産物・食品輸出促進本部」を立ち上げ、農林水産省、経済産業省、外務省、国税庁と連携を図るとともに、農林水産物・食品関係の全国レベル業界団体を対象に連携・支援を行う他、貿易情報センター(国内事務所)では、自治体、地方局、JA等と連携して案件を掘り起こし、ジェトロのさまざまなツールや海外ネットワークを活用した情報提供やサポートなど、内外の組織を挙げて、農林水産物・食品輸出の促進のための取り組みを進めてきた。検疫、流通、安定供給などの課題があり輸出が難しい一次産品の輸出にも本格的に取り組んでいる。
このような取り組みの中で、事業者あるいはジェトロだけでは解決困難な課題については、政府として取り組んでいただきたい事項を農林水産物・食品輸出に関する「政策提言」としてとりまとめ、2012年6月に発表した。
さらに、国内の生産、流通関係の方々の声をお聞きする中で、一次産品の輸出に当たっては、輸出物流への対応が非常に大きい課題となっていることから、有識者、 物流関係者、商社、 輸出生産者等の実務者をメンバーとする「農林水産物・食品輸出 ロジスティクス研究会」を農林水産省輸出促進グループとジェトロは共催し、農林水産物・食品の輸出物流に関する課題の明確化や制度等国が行うべき事項、ジェトロが機動的にサポートしていく事項等についてとりまとめたところである。日本貿易会からも委員としてご協力いただいた。
発足から1年半がたった今日まで、ジェトロは本輸出促進本部の下、農林水産分野への本格的な輸出支援に向けて、支援体制や事業の各種整備や拡充にも努めてきたところであり、相談・支援体制の強化、商談機会提供事業の拡充等を通じ、輸出に関心を持つ事業者の裾野は着実に拡大している。一次産品生産者、農業関係団体等これまで輸出への取り組みが限定的であった事業者も積極的にジェトロ事業を活用するようになっている。
政府は「攻めの農業」として、輸出を重要事項の一つとして位置付けており、これまで以上に政府と緊密に連携を図りながら、 さらなる成功事例を生み出すべく、輸出促進に取り組んでいく。


2. 輸出拡大に向けたジェトロの各種サポート


○「農林水産物・食品輸出相談窓口」、「 輸出入門等各種セミナー」


海外販路を見つけ輸出していくには、各種準備が必要である。国・地域別、品目別に存在する検疫制度や各種規制の情報を収集し、制度上可能な輸出先を特定した上で、商品の現地競争力や市場性などマーケティングの視点での調査も大切である。
ジェトロでは東京・大阪両本部・全国37ヵ所の貿易情報センターに「農林水産物・食品輸出相談窓口」を設置し、「輸出を始めてみたいのだが何から取り組んでいけばよいのか」といった質問から貿易実務まで幅広い内容で事業者の方々の相談に対応している。
また、ジェトロが事業実施や調査を通じて得られた情報・ノウハウを基に、目的別セミナー(入門、商談スキル、国別、品目別)を全国的に開催している。特に、他分野と比較して農林水産物輸出に関する事業者の意識、準備状況が十分でない状況が見られることから、商談準備のための共通テキストを作成し、「商談準備セミナー」を重点的に各地で実施していく。
〔2012年の実績は、「輸出相談窓口」の相談件数:4,553件、「各種セミナー・研修会」:全国113回、参加者数5,166名〕

○「輸出関連情報」、「海外コーディネーター」

農林水産物の輸出では、植物・動物検疫制度や畜産等では決まった加工処理施設で加工したものでないと出せないなどの規制があったり、原発関連規制が国・地域別、品目別に存在しているなど輸出できる国・地域や輸出条件が複雑に定まっている。ジェトロでは、海外73事務所のネットワークで収集した海外市場・制度などの情報をジェトロのウェブサイトで収集できるようにしており、輸出相談窓口でも情報提供を行っている。
さらに、ジェトロには、主要な海外マーケットにいる現地食品流通事情に詳しい専門家(海外各地に現在19都市 24名配置(一部配置準備中))が現地競合品や価格、販売ルート等の相談に対応する海外コーディネーターサービスもある(中小企業者等向け)。


○ 海外バイヤーとの商談(「海外見本市」、「海外バイヤー・国内商談会」、「海外商談ミッション」)


ジェトロでは世界各国から有力な海外バイヤーを国内各地に呼び商談会を実施している。実際にバイヤーの生の声が聞けるので、商品がどう受け止められるかが分かり、今後の方向性を見定めるプレマーケティングとして有効だ。〔2012年度実績:全国40回(26都市)/海外バイヤー176人〕
さらに、ジェトロでは海外主要市場の有力な見本市に日本パビリオンとして出展支援しており〔2012年度15本開催〕、さまざまなバイヤー等と数多く実践的に商談を行い、販路を探すことが可能だ。市場視察を兼ねて海外で自ら売り込んでいく、海外商談ミッションの派遣も行っている。
また、ジェトロが貿易業務をサポートする商社・貿易会社の情報を収集し、輸出に意欲があるにもかかわらず貿易業務に不慣れな農林水産物・食品事業者等に対して、それらの情報を提供している。ジェトロの商談事業でも、商社・貿易会社が生産者とともに参加するケースも最近多く見られる。


○海外ビジネス関係者(バイヤー、 外食・小売業、 シェフ等)向け日本産食品の魅力・価値の発信


韓国、台湾等競合品の品質向上、円高、原発事故関連規制により、日本産品が棚から落ちるケースも見られることから、日本産農林水産物・食品に関心を持つ海外バイヤーを新たに発掘するため、世界10程度の国・地域で海外ビジネス関係者を対象とした普及啓発セミナーを開催し、競合品との品質の違い、料理法、製法、素材、歴史等日本産食品の魅力・価値を伝達することも2013年度は取り組んでいる。


○マンツーマンでサポート:「輸出有望案件支援サービス」


輸出の可能性を秘めた優れた商品を持つ事業者を対象に2年間にわたり、国内の専門家がマンツーマンで支援する事業で、事業者自らが海外マーケットに継続的に輸出ができるようになることを目標としている。一定の案件審査を経て認定された事業者は、専門家が、お客さまの製品や会社の状況に合わせて戦略策定のアドバイスを行い、マーケット・バイヤー情報の収集や海外見本市の随行、商談の立ち会い、最終的には契約締結までサポートしている。

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