食文化・食産業のグロー バル展開について

農林水産省大臣官房参事官(輸出促進グループ長)
小川 良介

はじめに


2013年1月、安倍総理から林農林水産大臣に対し、農産品の輸出拡大策を強化するようにとの指示があった。これを受け、林大臣は、1月29日、「攻めの農林水産業推進本部」を設置し、その下部組織である戦略的対応推進委員会において、輸出戦略を検討することとなった。具体的には、厚生労働省、国税庁、ジェトロなどの関係機関の参加も得ながら、品目別国別輸出戦略案を作成し、この原稿を書いている6月現在、全国を9つのブロックに分けて、輸出戦略案についての意見交換会を実施しているところである。

特徴

農林水産物・食品の輸出促進自体、約10年前から政策に掲げており、新しいものではない。が、今回の戦略策定については、これまでにない二つの特徴がある。
一つは、輸出促進の担当が、平成23年(2011年)9月、農林水産省に食料産業局が設置されたことにより、それまで関税を中心とした貿易交渉を担当していた国際部から、食品製造・卸・小売り・外食から知的財産まで食料関連産業を幅広く所管する食料産業局に移管されたことである。この結果、単なる輸出促進だけでなく、日本の食文化の普及や食料関連産業の海外展開も視野に入れた、まさに日本食(産業)のグローバル化という視点から、施策を複合的に展開することができるようになった。
もう一つは、輸出戦略自体、これまでは、1兆円という目標が定められているだけであったが、品目ごとの現状を把握(performance)し、それぞれの目標を設定(vision)し、それをつなぐための戦略を策定する(strategy)というアプローチをとったことである。これにより、品目ごと国ごとに、補助事業などの支援策や検疫協議などの政府間交渉について、戦略に対応したメリハリを付けることができるようになる。当然、達成度も検証できるようになる。これまでは、国や品目を問わず、「輸出機会の提供」にとどまっていたため、どの国向けの何の品目について、いくらぐらい国費を費やしたかについて統計をとることができなかったし、事業者に対する補助金の約半分は、試食販売をするために必要な旅費・宿泊費であった。


政策の展開方向


日本を除いた世界の食市場は、340兆円から680兆円に倍増すると、ある民間企業は推計している。特に、中国、インドを含むアジア地域は、82兆円から229兆円に約3倍に拡大する見込みである。われわれの政策の展開方向は、日本の食文化の普及に取り組みつつ、日本の「食文化・食産業」の海外展開(Made By Japan)、日本の農林水産物・食品の輸出(Made In Japan)、世界の料理界で日本食材の活用推進(Made From Japan)の取り組みを一体的に推進することにより、これらの成長を獲得していくことである。以下では、それぞれのポイントと課題について紹介する。
まず、日本の食文化の普及についてである。現在、日本の食文化をユネスコの無形文化遺産に登録申請を行っているところである。これ自体、ビジネス目的で活用すべきではないが、世界に日本の食文化を理解してもらうためには重要なことである。また、平成27年(2015年)のミラノ国際博覧会は、「食」をテーマとしていることから、農林水産省も日本の幹事省として取り組んでいくこととしている。さらに、これらを通じ、日本の「食」が、おいしいだけでなく、健康にもいいことを科学的に証明できればと思っている。
次に、Made From Japan、Made By Japan、 Made In Japanについてである。林大臣は、頭文字をとって FBI 戦略と呼んでいる。日本の食産業が積極的に海外展開を図ること(Made By Japan)により、まさにビジネスとして日本の食文化の普及を行う。この際、調味料などについては、一部日本からの輸出が行われるとともに、本物志向として日本産食材の輸出促進が図られる(Made In Japan)というものである。
また、既に、日本の外食では、イタリアンであっても、味付けに日本酒やみそ・しょうゆが使われているところである他、香港の高級中華の食材は、日本産のホタテやナマコとなっている。Made By Japan や Made In Japan を通じて、日本食に限らず、世界の食を相手に、日本食材を売り込んでいくこと(Made From Japan)としている。


政策展開の支援策


これまで農林水産省では、農林漁業者などに輸出を体験してもらうことを目的として、バイヤーリストを作成・公開したり、国際見本市に出展したり、輸出先国や輸出品目を一切問わず、事業者への取り組み支援を行うことを通じ、輸出機会の提供を行ってきた。
結果、輸出額は、3,000億円から5,000億円に増加した。同時に、①担い手は、国内販売同様に産地が主体となり、②輸出先は、将来性ではなく、香港など輸出しやすい地域に集中し、③輸出時期も、周年ではなく、春節前などに集中するという輸出構造を生んだ。他方、バイヤーはほぼ固定化されているため、多数の産地の品が一定時期に集中することにより、買いたたかれるなど、輸出額も頭打ちの状態になった。
まず、この構造を改めることが必要と考え、輸出戦略の策定に当たり、国の役割を、①関係者の意見をとりまとめ、方向付けを行うこと、②輸出する際のさまざまな障害を除去するなど G-G ベースでの交渉を通じた輸出環境の整備を行うことに限定し、集中することとしている。そして、商談会、国際見本市の参加などのビジネスサポートについては、ジェトロにお任せすることとした。
幸いにも、農林水産省やジェトロ以外のさまざまな関係機関から、それぞれの特徴を活かした、企業の海外展開の支援策が提供されている。例えば、企業が海外展開を図る際に必要不可欠なフィージビリティー・スタディーについては、(独)中小企業基盤整備機構が使い勝手の良い調査事業を提供している他、途上国向けであれば、JICAを活用することもできる。また、各社とも人材育成が課題になっているが、これもJICAは、海外ボランティアを活用したツールを提供している。
さらに、リスクマネーについても、2013年に新設された農林水産省のA-FIVE(農林漁業成長産業化ファンド)に加えて、新たにクールジャパンファンドも設立されることとなった。規模の大きなプロジェクトについては、 ㈱産業革新機構を活用することもできるし、途上国であれば、JICA を活用することにより、ODAと組み合わせることも可能である。
単なる輸出促進ではなく、食文化・食産業のグローバル展開と広く捉えると同時に、支援策も、幅広くオールジャパンで活用していただきたい。

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