住友商事のアジア小売市場における取り組み(タイにおけるTV通販事業)

住友商事株式会社
ダイレクトマーケティング&ソーシング事業部
武田 宗久

本稿では、住友商事のアジア小売市場における取り組みの一例として、タイにおけるTV通販事業をご紹介します。当社の2013—14年度の中期経営計画「Be the Best, Be the One 2014」の新規投融資計画において、全社育成分野の一つに「アジアのリテールビジネス」が掲げられていますが、その戦略は次の通りです。
「国内ビジネスを中心に培ったリテールビジネスの強み・機能と、これまでに積み上げたアジアにおけるビジネスの経験や知見・人脈を結集させ、国内での成功モデルのアジア展開を足掛かりに、同地域の旺盛な消費需要を取り込み、 リテールビジネスの収益基盤拡大を図る」
タイにおけるTV通販事業に関しては、2013年2月にバンコクに新会社を設立、本稿執筆時点では、11月9日の放送開始に向けて準備の最終段階ですが、前述の戦略に沿ってご説明します。


1. 国内ビジネスの実績


個性と魅力あふれるキャストによる商品紹介

⑴ 住友商事は、1990年代よりケーブルテレビ事業と同インフラを活用した番組供給事業を両輪とする、TVメディアにおける多チャンネルサービス事業を本格的に展開。1996年11月にジュピターショップチャンネル㈱(以下:ショップチャンネル)を設立、24時間生放送型のTV通販専門チャンネルの放送を開始しました。
⑵ 当初、米国のTV通販大手と提携し、米国型のTV通販ビジネスモデルを導入、女性をターゲットに24時間生放送番組を通じて化粧品・アパレル・ファッション雑貨・食品・家庭用品等を販売しました。
TVメディアにおける多チャンネルサービスが根付いていく中、ショップチャンネル事業は多くの試行錯誤を経て軌道に乗り、さらに日本ならではの上質な顧客サービスや「おもてなし」の心を取り入れ、日本市場における先駆者として独自のビジネスモデルを構築しました。
⑶ 商品力(ショップチャンネルならではのユニークでバリュー・ストーリーのある商品)、番組力(24時間生放送を通じ、司会進行役のキャストと商品を熟知したゲストが商品を詳しく紹介)、オペレーション力(商品調達~顧客への配送まで一貫管理、品質管理・広告表示等の安全・安心)の継続的な進化により顧客の信頼を獲得し、ショッピング・エンターテインメントとしての24時間生放送型TV 通販という新たな市場を日本において切り開きました。ショップチャンネルは、創業以来17年一貫して増収を続け、現在では4,000億円超の国内TV通販市場において約3割のシェアを占める国内最大の TV 通販事業者です。


2. 海外展開の検討


本番さながらのスタジオトレーニング(ショップ・タイ)

⑴ ショップチャンネル型ビジネスモデルの海外展開に関しては、数年前よりアジア等の新興国を中心に、市場調査・現地パートナー候補との折衝・事業性の検証を繰り返してきました。
⑵ その結果、初の海外展開案件として、2013年2月、タイにおけるTV通販事業会社であるSHOP Global(Thailand)Co., Ltd.(以下ショップ・タイ)を設立。株主は住友商事(現地法人含む)・ショップチャンネルの他、現地パートナーとして消費財分野における同国最大規模のサハグループと同国最大の小売事業者であるセントラルグループが参加しています。10年ほど前、ショップチャンネルは当時としては画期的な企画として、日本の一村一品運動をモデルとしたタイ地方銘産品の紹介イベントを日本で放送しました。そのタイでの海外展開であり、まさに事業に歴史ありと実感しています。
⑶ 事業性検証の過程では幾つかの重要ポイントがありました。旺盛な消費需要を取り込む観点では、タイの消費・小売市場はマクロで見ると日本と比べまだまだ小さい一方、文化的背景・親日性・所得階層別の人口推移・主ターゲットである女性のライフスタイル等を総合すると、ユニークでバリュー・ストーリーのある商品を適正価格で提供すれば、相当のポテンシャルがあると判断しました。


3. リテールビジネスの収益基盤拡大に向けて


⑴ ショップ・タイでは、経営トップ以下の複数名が当社・ショップチャンネルから出向し、さまざまな課題はあるものの、現地パートナーの協力も得て放送開始に向けて着々と準備を進めています。
⑵ 有望と思われる顧客層をターゲットに、品ぞろえ面では当初、日本で実績ある商品を中心にしながら徐々にタイ産品等も増やし、番組面では日本での経験を生かして生放送ならではの強みを訴求します。またTVでの販売が中心ながら、スマートフォンの普及状況も勘案して当初よりECサイトでの販売にも力を入れる等により、タイの消費者の信頼を獲得し、新たなショッピング・エンターテインメントを 提供しようという壮大なチャレンジです。
⑶ 小売業の中で、TV通販のようなダイレクトマーケティングは、顧客の購買実績をデータベース化することにより、即座に商品構成・番組編成を改善し、顧客の潜在需要に的確にアプローチできることが強みです。日本市場では、米国より導入したビジネスモデルを基本としながらも、日本の顧客に喜ばれる独自モデルを確立して市場を切り開きました。タイにおいても、ダイレクトマーケティングならではの強みを発揮しながら、日本の成功モデルを基本とする新たなタイモデルを構築し、リテールビジネスの収益基盤拡大につなげたいと考えます。

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