テクノパーク事業でアジアのものづくりに貢献する豊田通商

豊田通商株式会社
営業開発部 テクノパーク推進室 室長
龍田 貴行

1. インドネシアでのテクノパーク事業


インドネシアのテクノパーク外観

2億3,000万人の国民を抱えるインドネシアは、ASEAN最大の自動車市場を有している。中間所得の旺盛な内需を背景に、2012年には自動車の販売台数、生産台数は共に100万台を突破した。今後も右肩上がりが予測される同市場を見据え、日系自動車メー カー各社は増産を発表し、これに伴って日系部品メーカーの進出が相次いでいる。
当社は自動車部品メーカーの生産を支援するため、ジャカルタの東60㎞にあるカラワン地区に工場の賃貸と管理受託サービスを行う事業会社、テクノパーク・インドネシアを設立した。これまでに計6棟の工場を建設し、第1期から第3期に分けて順次レンタルを開始。敷地面積は15ha、工場は1棟当たり1万5,000㎡で、工場内では1区画約3,000㎡からの貸し出しを行っている。周辺にはトヨタグループをはじめ、さまざまな四輪・二輪車メーカーの関連工場が集積しており、現在までに延べ10社が入居、最終的には約20社の入居を予定している。


2. ものづくりに専念できる環境を整備


当社のテクノパーク事業は、土地建屋の賃貸といったハード面だけでなく、進出前の会社設立手続きから、進出後の経理、財務といった管理業務の受託サービスや、給食サービスなどソフト面のサービスまで提供するのが特徴である。同国へ進出する各社の初期投資や固定費を軽減するとともに、現場以外の業務を減らし、ものづくりに専念できる環境を用意することが目的である。
こうした事業の背景には、ここ数年、大企業だけでなく中小企業においても海外への進出ニーズが高まっていることがある。昨今の新興国市場の拡大、円高の定着が現地生産・現地調達を加速させている。ただし、中小メーカーの中には海外事業が初めてというケースも多く、当社のテクノパーク事業はこうした企業のノウハウ・人材不足などをフォローして、海外進出の敷居を下げ、ひいては現地調達率の向上に貢献する事業モデルとなっている。
現地のテクノパーク内では、設備の輸入、原材料の調達や物流といった生産現場のサポートはもちろん、敷地内の管理事務所では入居企業への事務サービスを行っている。当社の専門スタッフが経理業務からITや販売促進のサポートまでの幅広い業務を請け負う他、通勤バス、食堂や清掃といった共有サービスまで提供。現地事業を全面的にサ ポートする体制を整えると同時に、随伴取引による収益の最大化を図る。現地企業のさまざまな悩みやニーズに対応できる点は、海外での多くのノウハウや幅広いネットワークを総合的に発揮した、まさしく総合商社の強みといえる。


3. テクノパーク内での事業の広がり


渋滞がひどいため、通勤バスのサービスも行っている

テクノパークの入居企業が得られるメリットは、ものづくりに専念できる環境が得られるだけでなく、さまざまな点が挙げられる。特に、現地で準備から短期間で操業が開始できる点は評価が高く、自動車生産を長年支えてきた当社の強みが生きた形だ。
一般的に単独で海外進出する際には、準備に2年程度かかるとされているが、テクノパークでは最短9ヵ月ほどで進出が可能だ。海外での会社設立から運営までを自社のみで行うと管理がバラバラで時間がかかるが、当社が一括して請け負うことで、より短期での事業開始を実現している。事業化調査や会社登記だけでなく、設備の据え付け、原材料の納入、保険の代行などを当社がワンストップでサポートする。また渋滞による従業員の負担軽減を図る通勤バス、信仰心のあつい従業員のための礼拝室といった、現地の社会情勢や文化に根差した共有サービスの満足度も高い。
自動車関連企業が集積していることは入居企業の営業面でもプラスに働く。テクノパークでは各大手メーカーにおける系列の枠を超えてさまざまな業種が入居し、大手メーカーは、多くの部品メーカーを見ることが可能だ。日本では系列内での取引がほとんどだが、ここではその垣根なく大手メーカー、部品メーカーの両者にとって新たなビジネスチャンスの場が広がっている。


4. 今後はメコン地域へさらなる展開


テクノパーク事業はASEANではタイ、他地域ではインドでも展開しており、各地の事業環境や入居企業のニーズに合わせたサービスを提供している。タイでは2002年よりラヨーン県の工業団地内で事業を展開している。ただ同地域では、産業のタイ偏重から周辺国への拡散が予想され、前述の通り日系中小メーカーの進出意欲が高いことも追い風となる。今後はメコン地域でのさらなる展開を視野に、従来までの事業経営サポートだけでなく、営業戦略にまで関わる随伴取引の拡大と新規顧客の獲得に努めていきたい。当社はインドネシアで、同国最大の自動車部品メーカーであるアストラオートパーツの株式を4.9%取得するなど、現地の有力企業との関 係をより強固なものとし、自動車関連事業のさらなる強化を進めている。

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