アジア・中東のモデルとなった石炭火力発電所建設事業

三井物産株式会社
プロジェクト本部 電力事業アセットマネジメント部

パイトン(Paiton)事業への参画


インドネシア・ジャワ島におけるPaiton発電所位置図

三井物産がPaiton発電事業への参画を検討していた1990年代初頭、インドネシアの電力供給は危機にひんしていた。当時の予想では電力供給予備率が5年後には1.7%となるといわれる一方、対外累積債務の増大から国家財が逼迫しており、国家予算から公共事業への予算配分は抑制されていた。そこで考えられたのが、外国資本導入による民活型電力開発事業(IPP事業)による発電所建設であり、その第1号として完成したのが、PaitonⅠ石炭火力発電所である。
当社は1901年に初の出張者をジャワ島に派遣して以来、1世紀以上にわたり、同国と深い関係を築いてきた。1980年代には国営石油公社Pertamina向けに石油精製および石油化学プラント納入の実績を積み重ね、同国政府から高い評価を受けていた。また、その他海外での資源開発の実績も考慮され、初のIPP事業導入への協力要請を受けたことから、当社のPaiton発電事業への取り組みが始まった。


PaitonⅠの事業開発概要


PaitonⅠ発電所の発電容量は1,230MW(615MW×2基)と、同国最大級の石炭火力発電所である。上述インドネシア政府の協力要請から1999年7月の商業運転に至るまで、Paiton発電事業は数多くの困難を乗り越えてきた。
当時の当社の電力ビジネスを振り返ると、同事業参画までは、電力機器の販売、もしくはメー カーと提携したEPCビジネス(設計・調達・建設)にノウハウを有していたが、長期にわたる発電事業の運営の経験はなく、同事業への参画は新たなビジネスモデルへの挑戦であった。 また、同事業が当時において画期的だった点として、以下の2点が挙げられる。
第一に、欧米先進国で確立したIPP事業というビジネスモデルをアジアにおいて法的制度 整備も含め初めて本格的に実施した点。
第二に、長期買電契約(PPA)を担保にプロジェクトファイナンスを活用し、日米の政府系輸出信用機関(JBIC、USEXIM)を軸に、日本貿易保険(NEXI)、海外民間投資公社(OPIC)、市中銀行を組み合わせた国際的な協調融資方式によりファイナンスを組成したという点である。
結果、Paiton発電事業はアジア・中東での民営化発電事業のモデルケースとなり、複数のファイナンス誌よりDeal of the Yearを受賞した。
しかし、プロジェクトは危機に見舞われる。1997年にタイのバーツ暴落に端を発したアジア通貨危機が発生し、当時のインドネシアルピアの価値も7分の1にまで暴落した。これにより、ドル建てルピア払い電力料金の財政収入に頼るインドネシア電力公社PLNは支払い能力を失い、電力の買い取りを拒否(1999年)。1994年に締結していた長期買電契約は改定を余儀なくされ、以後3年間に及ぶ厳しい交渉を行うこととなった。
インドネシア政府への交渉を含むJBICおよび日本政府の全面的支援を受け、2002年に電力料金の大幅な値下げ等を盛り込んだ長期買電契約の改定に合意。プロジェクトは瀬戸際から立ち直った。以来、現在に至るまで、10年以上インドネシアの電力需要を支える最重要な発電所の一つとして日々電力を供給している。この間、主要株主も米Edison Mission Energyから英International Powerを経て仏 GDF Suez、また、GEから東京電力へと変更があったが、当社は一貫して主導的役割を果たした。


PaitonⅢの事業開発概要


Paiton発電所全景

PaitonⅠ発電所のリストラが完了した2002年ごろには、インドネシア経済はアジア通貨危機の痛手から回復し、年間約5%の高いGDP成長率を記録した。経済成長に伴う電力需要は著しく伸びる一方、電源開発は遅れ、早急な新規発電所の建設が求められた。そんな中、Paiton発電所コンプレックス内における新たな発電所(Paiton Ⅲ)の建設が計画され、2007年に当社が独占交渉権を獲得した。翌2008年、長期買電契約を締結。プロジェクトが順調に進行するかに思われた矢先、リーマン・ショックに端を発する金融危機が発生した。金利上昇、融資団を構成していた市中銀行の離脱、融資減額の発生―、プロジェクトは危機に立たされた。
困難を極めた銀行団との交渉の末、危機克 服の最大の要因となったのは、JBICの存在であった。当時調達が難しくなっていた米ドルの融資を唯一引き受けることができた同行の協力により、プロジェクトはファイナンスの組成に成功。2010年にはファイナンス・クローズを達成し、再びの窮地を脱した。
PaitonⅢは、2012年に完工スケジュールを前倒しで運転開始。発電容量は815MW、単基容量ではインドネシア最大の石炭火力発電所となった。機器供給は三菱重工が担当し、同国初の超臨界圧ボイラーを導入、環境負荷にも最大限に配慮した発電所となっている。さらには2005年より東京電力が株主に加わり、日本株主比率は過半数となり、PaitonⅢの建設、運営、ファイナンス全てにおいて日本連合主導で開発が行われた。PaitonⅢは現在も順調に稼働を続けている。


将来に向けて


当社がPaiton発電事業に取り組みを開始してから20年近くが経過したが、「インドネシアの逼迫する電力需要に対応する」という初期の目標は、今なお継続するばかりか、ますますその重要度を増している。人口大国であるインドネシアは、引き続きアジアの大国として順調な成長が見込まれ、電力需要の伸びは年平均9%と予想される一方、新規発電所開発案件での工期遅延・性能未達等により、深刻な電力不足が懸念されている。大規模な停電は、同国に多数進出している日本企業にとっても深刻な打撃となる。当社は、インドネシア初のIPP事業開発者として蓄積したノウハウを最大限に活用し、いかなる困難も乗り越えるChallenging Spiritを維持し、引き続き、同国の発展・国創り・日本企業の支援に貢献していく。

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