三菱商事による欧州の洋上風力発電向け海底送電事業

三菱商事株式会社
新エネルギー・電力事業本部 重電機輸出部 新規事業開発チーム課長
加藤 恒範

三菱商事は、発電プラントの輸出をはじめ、発・変電所向けの送電線、碍子販売等、電力分野で長年にわたりビジネスを展開してきました。1980年代からは米国・アジアなどでIPP事業にも取り組んできましたが、電力分野でさらにビジネスを拡大していくためには、次のビジネスモデルを発掘していかねばならないという問題意識を持っていました。
一方、電力分野の中で送電事業に関しては、各地域にて既存送電網を保有する事業者が独占的地位を確保していることが多く、新規事業者参入余地は従来ほとんどありませんでしたが、2010年ごろから欧州で大きな環境変化が生じ、送電の事業モデルが成立し始めました。そのきっかけになったのは洋上風力発電でした。洋上風力の発電施設は陸地から数十km沖合に建設されるため、そこで発電された電力を陸上の送電網までつなぐための洋上変電設備や海底送電線を新たに建設、運営する必要があります。さらに、欧州では発送電分離政策が制度として導入されており、発電事業者が送電事業を兼業することが禁じられているため、ここに新規事業者が参画する機会が生まれました。
以下に、弊社が取り組む英国、独国における海底送電事業の概要を説明します。


1. 英国


洋上風力発電所と陸上を結ぶ送変電設備を所有・ 運営する洋上送電事業者(Offshore Transmission Owner/OFTO)を公開競争入札にて選定する制度が2009年に導入されました。同入札にて20年間にわたるOFTOライセンスが英国政府より供与され、事業運営を行うこととなります。弊社は同入札にて、入札対象資産13件のうち4件(Walney1、Walney2、Sheringham Shoal、London Array)、総送電容量約1.3GW、総資産額約900milGBPの事業権を取得、事業運営を開始しています。
本入札においては、送電設備は風力事業者が開発、建設し完工後にOFTOへ売却するスキームで、いずれも欧州における一流メーカーであるSiemens、ABB、Prysmian等がEPCに起用されています。
また、資金調達は4件いずれもProject Financeを活用、Walney2、Sheringham Shoal、London Arrayでは邦銀を中心に融資団を組成しています。


2. 独国


独国ではAmprion、Transnet BW、TenneT、50Hzという4送電事業者が政府より送電事業ライセンスを供与され、規制事業として送電事業を運営しています。4社のうち、おのおの北海、バルト海に面する地域をカバーするTenneT、50Hzには担当海域に建設される洋上風力発電所と陸上間の洋上送変電設備を建設・運営することが義務付 けられています。弊社は、北海を担当するTenneTとアライアンスを組成、BorWin1/2、DolWin2/HelWin2の4資産、総送電容量2.8GW、総資産額約3bil EURの洋上送変電設備を最新鋭の高圧直流技術(HVDC)を用いて建設中です。
いずれの市場においても、送電線に実際に電気が流れるか否かにかかわらず所定の収入が得られるスキームになっていること、また送電事業者が無制限に責任を負わされることのない制度が整備されていること等、外部からの民間投資家や事業者による事業参入を促すような制度や仕組みが導入されています。今後は、欧州のみならず、アジア、米州をはじめとしたさまざまな市場において、欧州での知見を基に積極的に取り組んでいきたいと考えています。

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