伊藤忠商事が取り組む 英国における廃棄物焼却発電事業

ITOCHU Europe PLC, Machinery Group
Water & Environment Business Department
General Manager
日比野 常治

伊藤忠の英国廃棄物焼却発電事業の実績


当社の廃棄物処理分野の活動の歴史は長く、1980年代から廃棄物焼却発電プラントの納入を行っている(同プラントは、廃棄物から電気をつくるということから、Energy from Waste = EfWと呼ばれる)。
英国での取り組みは、2000年前後から始まり、2005年に初めて日本の㈱タクマ社と共に、EPCコントラクターとしてLakeside EfW案件を受注し、英国市場参入を果たした。その後、市場発展の中心的な役割を担っていたPublic Private Partnership(PPP)/ Private Finance Initiative(PFI)案件へ2011年4月のSouth Tyne &Wear EfW案件において初の事業投資参加を果たした。それ以降、2013年3月にCornwall EfW、同年11月にWest London EfW、12月にMerseyside EfWと連続して契約調印に成功。現在4件のEfW事業案件に出資参加している。
英国同分野への進出成功の鍵としては、EPCコントラクターとして経験を積み、市場、各案件の特性を理解してきたことに加え、当社の水・環境分野の重要パートナーであるSuez Environnement社(仏)の英国廃棄物分野の子会社であるSITA UK社との協業が挙げられる。同社は、英国で最も競争力のある廃棄物総合サービス事業者の1社であり、当社はEPCの提案を、事業主かつプラントのオペレーターで あるSITA UKに対しても行ってきており、その過程で信頼関係を構築してきた。この実績がその後のEfW案件の共同投資につながっている。


EfW事業の目的、推進


世界を見渡すと、廃棄物が依然として分別もされずに、埋め立て場に捨てられている国もま だ多い。EUでは、廃棄物埋め立て量規制(EU Directive)にのっとり、2016年までに廃棄物処理場で処理される廃棄物の量を全体の35%以下(1995年比)とすることが義務付けられている。
EfW事業は一度に処理できる廃棄物の量も多くDirectiveを満たすための最重要な事業である。また同時に、CO2削減効果も得られる環境に優しいクリーンな発電事業でもある。
一方で、PPP / PFI案件としてEfW事業を推進するためには、事業性、事業規模が重要で あり、ある程度まとまった量の廃棄物を確保する必要がある。そのため、英国では複数の自治体政府が共同で廃棄物を確保し計画を進める ケースが多い。また自治体からの廃棄物に加えて、SITA UKのような民間廃棄物事業者が独自で回収している廃棄物も同施設で処理することが認められている。この場合、自治体から供給される廃棄物に加え、民間廃棄物を加えた容量のプラントを設計することになり、収益性アップ、スケールメリットの享受が可能となる一方、 民間事業者自身の廃棄物の長期供給能力をよく見極めた上でのHybridな提案が必要となる。事業提案者は、複数の自治体の問題解決、 自身の廃棄物処理を同時に実現するべく、適切な技術の選定、最適な処理容量の算出、25年程度に及ぶ長期契約に耐えられる効率的かつ経済的な施設運営方法、最適な資金調達方法を提案し、実行することが求められる。


廃棄物処理分野における民営化、効率化


英国といえばサッチャー首相時代に発展した民営化制度が有名である。PPPはその代表的手法である。現在も民営化における効率性の追求、さらなる競争導入のため、随時、制度変更、柔軟な規制緩和が行われている。
EfW分野におけるPPPも、導入初期から現在に至るまでに対象分野が変わってきた。当初は、EfW施設建設・運営のみならず、リサイクリング、廃棄物分別処理などの周辺事業も含ん でおり対象分野が広かったが、より多くの参加者を招聘し、競争を高めるために、EfW施設建設・運営事業に対象が絞られ、結果的に参加可能な事業者/企業連合が増えた。
また英国では廃棄物を専用の貨物列車で遠く離れた当該自治体管轄外の地域にまで運び焼却を行う案件が複数ある。当社が参加するWest London EfW案件においても、西ロンドン地区の廃棄物を英国西部へと約160km運び、Merseyside EfW案件では、Liverpool地区の廃棄物を英国北東部のTeesside 地区へ同じく160km程度運び、焼却を行う予定である。廃棄物受け入れ側の自治体にとっても、建設工事、 長期に及ぶ廃棄物処理事業は、地場での雇用創出につながるためメリットのある事業となり得る。事業参加者の便益が確保され、経済性が成り立つのであれば、このような自治体行政区を横断する事業も推進されている。
廃棄物収集の現場においても、民営化は進んでおり、街ごとに自治体から業務を委託されたさまざまな民間企業の収集車が廃棄物の収集を行っている。上述のSITA UKもその1社であり、他にもVeolia社(仏)など多数の民間事業者がしのぎを削っている。一方、自治体が引き続き事業を行う場合も、民間企業と同等レベルのサービス提供が求められ、自治体自身も効率化のための継続的な努力が求められる。 本当に民営化、効率化を進めるのであれば、自治体間、官民間での柔軟な施策、規制緩和、徹底した競争原理の導入が重要であり、これを実行しているのが民営化先進国である英国の英国なるゆえんである。


EfW PPP案件事業運営


PPP案件において、事業リスクは各事業参加者間でシェアされている。われわれが出資参 加している事業体(Project Company)の役割は、自治体政府との折衝、EPC、O&M、銀行団のような重要な事業参加者を正しくリード することに加え、地域住民、現場労働者、関係当局といった多様なステークホルダーとの対話を含め、事業に内在するリスクを適切に管理し、事業を成功裏に収めることである。
一方、EfW案件は、事業の収入源が、自治体が保証する廃棄物処理代金に加え、民間廃棄物収入、リサイクリング収入、売電収入等多岐にわたるため、通常のBOT / PPP型のインフラ案件と比べると複雑となる。これら全てを契約時の想定通り、あるいはそれ以上の結果に導いていくことが株主であるわれわれの重要なミッションである。


今後の方向性


当社としては、民営化先進国である英国で培ったEfW PPP事業経験を基に、アジア、中近東、中東欧諸国等へも積極的に事業展開していく考えである。引き続き、地球環境の改善、人間生活の効率化に貢献するべく、同分野においても先進的で意義のある事業活動に尽力していく所存である。

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