NEDOが取り組む海外スマートコミュニティ実証事業について

独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構
スマートコミュニティ部 主幹
古川 善規

1. はじめに


2011年に発生した東日本大震災は、日本国民の生活に甚大な被害を与え、人々の価値観やライフスタイルにも大きな変化をもたらすこととなった。大震災から約3年が経過した今日では、再生可能エネルギーの利用拡大によるエネルギー源の確保や省エネの一層の推進によって、限られた資源とエネルギーの有効活用を目指す取り組みがますます活発になっている他、災害に強い街づくりなどへの関心が高まっている。
また、海外に目を転じても、各国におけるエネルギー・地球環境問題への意識は日本と同様に高まりつつある。先進国では低炭素社会を築くこと、経済成長著しい新興国ではエネルギー制約を解除しつつ環境に優しい社会を築くことが求められている。特に、アジア地域においては、新たな大都市が数多く出現することが予測されており、人口の集中によるエネルギーの局所的な利用の増大が、さまざまなエネルギー・地球環境問題を引き起こし、課題が顕在化してくることが想定され、経済成長と環境とを両立した街づくりが急務となっている。

スマートコミュニティとは、情報通信技術(ICT)を活用しながら、再生可能エネルギーの導入を促進しつつ多岐にわたる省エネルギー・環境関連技術を駆使して、交通システム、家庭、オフィスビル、工場、ひいては社会全体のスマート化を目指すものである。端的に表現すれば「これまでの供給サイドからの仕組みにとどまらず、ICTを用いて需要サイドとの双方向での情報共有により、賢くエネルギーを使う仕組み」であり、先に記した社会構築の基盤ともいえる。
日本はスマートコミュニティに関連する優れた技術を多数有しており、これらを活用し世界各国でスマートコミュニティを実現することは、世界レベルでのエネルギー・地球環境問題解決の一助となると考えられる。また、今後急速に立ち上がると予測されるスマートコミュニティ関連市場は、幅広い製品やソフトウエア、さらにはそこで生み出される多様なサービスが関わっており、ビジネス参入の機会を生む絶好のフィールドとなる可能性を秘めているともいえる。
独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は、海外スマートコミュニティ実証事業を通じ、技術的・社会的実証に基づくエネルギー・地球環境問題解決と、日本のスマートコミュニティ技術の積極的な海外展開の推進を目指している。本稿では、NEDOが行う海外スマートコミュニティ実証事業のミッションや最新成果、さらには今後の展望について述べる。


2. 海外スマートコミュニティ実証事業のミッションとNEDOの役割


現在、相手国との間で締結したMOU(Memorandum of Understanding)に基づき、欧米やアジアの各国で5つのスマートコミュニティ実証事業を展開している。実証事業ごとに目指すスマートコミュニティの形は異なるものの、共通する2つのミッションがある。
1つ目のミッションは、日本の技術によるエネルギー・地球環境問題解決への貢献である。国ごと、地域ごとに異なるニーズを的確に捉え、課題の解決につなげていくことが重要となる。例えば、災害対応の観点からマイクログリッドへの関心が高まっている米国・ニューメキシコ州における実証事業では、蓄電池と再生可能エネルギーをうまく組み合わせ、平常時には再生可能エネルギー由来の変動吸収に、緊急時には独立して電力供給を行うことが可能なマイクログリッドシステムの実証を行っている。
2つ目のミッションは、日本の持つ優れたシステムインフラを世界に広げる端緒となる実績をつくる場をつくり、企業の海外展開の支援を行うことである。日本の技術と相手国の技術を組み合わせ、共通の課題解決に向けて取り組むことが極めて重要であり、実証の場を通じてビジネスパートナリングを進めている。

これら2つのミッションを達成するため、NEDOは、相手国政府や自治体との政府間レベルでの交渉を通じ、実証事業の枠組みをつくりだすことに注力している。具体的には、NEDOが相手国政府や自治体との間でMOUの締結を行い、その協定の下で両国の企業が協力関係を構築することとなる。プロジェクトフォーメーションを行う際には、必ず現地有力企業を巻き込むこととしており、NEDOが進める実証事業の特色の1つである。現地有力企業との間に協力関係が生まれることが、システムインフラ輸出の基盤をつくるきっかけとなるとともに、単なる実証にとどまらず広がりを持った海外展開につながることが期待される。機器の販売だけに終わらず、O&Mビジネスに参入することによって継続的なビジネスチャンスを得ることにつなげたい。
また、単に技術的な実証にとどまることなく、構築した新しいエネルギーシステムが地域に受け入れられ、継続的に価値を提供していくことを目指した「社会的実証」の視点をもって実証事業を展開している点も特色の1つである。現地の人々の反応を探るといった社会実験の側面が大きいため、問題意識を共有し住民に社会実験への参画を呼び掛けることが重要であり、NEDOが「スマートコミュニティ」という定義を用いているゆえんでもある。


3. NEDOが行う海外スマートコミュニティ実証事業の最新成果


現在、NEDOは米国/NM州での実証事業を皮切りに、フランス/リヨン、スペイン/マラガ、米国/ハワイ州、インドネシア/ジャワ島においてスマートコミュニティ実証事業を展開している。ここでは、それぞれの実証事業の概要とこれまでに得られている最新の成果について紹介することとしたい。

⑴ 米国・ニューメキシコ州における実証事業(事業期間:2009-2014年度)
ニューメキシコ州における実証事業は、NEDOの海外スマートコミュニティ実証事業の第1号案件であり、コミュニティレベル、ビルレベル、住宅レベルの3つのスマートグリッドの代表的な形態をターゲットとしている。この分野で権威のあるサンディア研究所およびロスアラモス研究所と協力し、ロスアラモスおよびアルバカーキの2つのサイトにて実証事業を行っている。
アルバカーキサイトでは、BEMS制御によるビル単位でのマイクログリッドを構築し、2012年5月より実証試験を行っている。米国では初となるコスト面でも一般の民生業務用ビルに適用可能なマイクログリッド化技術を実証しており、主にガスエンジンの機動性を利用して無瞬断での自立運転への移行と系統への復帰を実現したことが画期的な成果である。
ロスアラモスサイトでは、実際に多数の需要家が連系した実配電系統における大規模なマイクログリッドの実証試験を2012年9月より行っている。このロスアラモスサイトでは、配電系統において、天候に左右される太陽光発電を抱えながら、大型蓄電池を活用し潮流を安定化させることに成功した。また、電力会社からの電気料金の信号を受けて、住宅に設置するHEMSが自動でスマート家電をコントロールするADRと呼ばれるシステムの実証も行っている。さらに、約800軒の現地住民の協力を得た世界最先端のデマンドレスポンス実証試験を実施中であり、成果が期待される。

⑵ 米国・ハワイ州における実証事業(事業期間:2011-2015年度)
ハワイ州・マウイ島における実証事業では、EVの蓄電能力を活用して、再生可能エネルギーを最大限に利用する技術を実証するとともに、系統の安定化を図ることを狙いとしている。具体的には、風力発電の余剰電力が発生する夜間にEV充電の時間帯をずらしたり、周波数変動が発生した際にEV充電を一時停止したりするなど、EV充電のタイミングを瞬時にマネジメントすることで問題解決を図る取り組みである。2013年12月より実証試験を開始しており、最終的には、200台相当のEVボランティアと、40軒相当の需要家ボランティアの協力を得た実証試験を展開する予定である。
また、EV用急速充電ステーションは、現在5拠点に20台の充電スタンドを設置しているが、将来的には20拠点に拡大して設置していく予定である。離島のような小規模な独立系統に大量に再生可能エネルギーが導入され系統が不安定となる事例は今後増加することが予想され、新しいビジネスの狙い目になると期待される。

⑶ スペイン・マラガ市における実証事業(事業期間:2011-2015年度)
マラガ市におけるスマートコミュニティ実証事業は、ICTを駆使してEVユーザーの行動変革を促すことで、EVの大量充電による電力系統への負荷を低減する技術を実証するものである。具体的には、EV管理システムや急速充電設備などのEVインフラと、電力マネジメントや情報連携を行うプラットホームを構築し、幅広いジャンルから募った個人・法人の実証参加者による実証試験を2013年4月より進めている。本実証試験において、日本側はEV管理システム、EVインフラ、情報基盤を整備し、スペイン側企業コンソーシアムと連携してEV活用サービス、電力マネジメントシステムの実証試験を展開している。三菱自動車の「i-MiEV」160台と日産自動車の「リーフ」約40台のEVを使用し、CHAdeMO方式の急速充電器を、マラガ市内外の計9ヵ所(三菱重工製5ヵ所、日立製4ヵ所)に23口を配置している。本充電方式は日本が国際電気標準委員会(IEC)に提案している国際規格の1つである。

⑷ フランス・リヨン市における実証事業(事業期間:2011-2015年度)
フランス・リヨン市における実証事業は、リヨン広域自治体(グランリヨン)が進めている都市再開発事業とタイアップしたものである。面的広がりのあるコミュニティ全体のスマート化を目指した実証事業は、NEDOとして初めての取り組みとなる。また、リヨン側の都市再開発事業の中では、本実証事業が先端技術を導入した目玉プロジェクトとして位置付けられている。
本実証事業は、4つのタスクから構成されている。タスク1では、再生可能エネルギーや蓄電池などを積極的に導入することで、ビル内の消費量を上回るエネルギーを生み出すポジティブ・エナジー・ビルディングを構築する。欧州は一般的に環境規制が厳しく、例えばフランスでは2020年以降に建設するビルはゼロ・エナジー・ビルディングであることが求められており、本タスクは規制にけん引される新しい市場の先取りを目指した実証内容であるといえる。タスク2は、太陽光発電をエネルギー源として活用したEVカーシェアリングシステムであり、2013年10月に実証試験を開始した。タスク3では、改修が容易ではない欧州の既存の建物におけるエネルギー消費の見える化による省エネ行動の促進を目指す。タスク4では、コミュニティ全体のエネルギーの使用状況を把握できるマネジメントシステム(CMS)を構築する。タスク3およびタスク4についても、順次実証試験を開始する予定である。


4. 今後の展望


これまで述べてきた通り、NEDOが進めるスマートコミュニティ実証事業はいまだ実証の最中ではあるが、これまでの活動を通じて実証成果の事業展開に向けたさまざまな効果が表れてきている。海外の実配電系統で実証設備を問題なく稼働させた実績が新たな商機を呼び込むことにつながった、実証事業で培った地元企業との連携が別のビジネスに発展したなどが一例として挙げられる。また、相手国政府や自治体との関係を築くメリットも大きく、実証事業を契機として別の公的な取り組みに声が掛かるといった事例もある。
上記で取り上げることができなかったものの、インドネシアにおける実証事業についても2014年度中に実証試験を開始する見込みである他、新たに英国での実証事業の立ち上げを進めるなど、着実な展開を図っている。今後も、NEDOが進めるスマートコミュニティ実証事業が、日本産業界のシステムインフラ輸出の面的拡大につながっていくことを期待したい。

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