日本貿易会 ダイバーシティ(女性の活躍)推進事業 〜女性活躍推進法の成立〜 Vol.2

一般社団法人日本貿易会 ダイバーシティ推進プロジェクトチーム 政策業務グループマネージャー
中村 志保

1. 女性活躍推進法の成立

安倍政権では成長戦略の柱の一つとして女性の活躍推進を位置付けており、2020年に指導的地位に占める女性の割合を30%まで引き上げる目標を掲げています。今般、その取り組みの一環として、女性の活躍推進に向けた国や地方公共団体、民間企業の責務を定めた「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」(以下、「女性活躍推進法」)が、8月28日参議院本会議にて可決、成立しました(10年間の時限立法)。

同法の成立によって、国・地方公共団体・従業員301人以上の企業は、採用者に占める女性の割合、男女の継続勤務年数の差異、管理的地位に占める女性の割合などを含め、女性の活躍に関する状況を把握し、改善事項を分析の上、女性活躍推進の行動計画を策定し、女性の活躍支援に関する情報を定期的に公表することが求められます(事業主行動計画の策定は2016年4月1日施行、300人以下の企業は努力義務)。

商社各社においては、これまで女性活躍推進に関する取り組みを各社ごとにさまざま進めてまいりましたが、さらなる対応が今後の課題となっていくと思われます。

2. 商社業界における女性活躍の現状

これまで商社業界では、扱う商材によってその業界における商慣行が存在することや安全・生活インフラ面で女性が駐在するには不安が残る地域にも進出していること等を背景に、女性の総合職志望者の割合が少なく、男性総合職が主体となって活躍してきました。しかしながら、最近では、そのビジネス領域の広さ、業務のスケールの大きさ等に引かれ、入社を希望する女性が多くなり、ここ10年で社内における女性総合職が一定の規模となった企業が多くあります。

また育児休業制度や短時間勤務制度などの両立支援制度が整備され、実際に利用しやすい職場環境が整ってきたこともあり、女性総合職は、結婚や出産などのライフイベントを経ても、働き続けられるようになってきました。今後増加がさらに見込まれる女性総合職に活躍してもらうために、女性活躍の在り方を考えていくことが必要な時期となっています。

商社が女性総合職を本格的に採用し始めたのが、2000年前後ということもあり、現状まだ管理職として活躍している女性総合職は少なく、育成段階にある状況です。この育成段階にある女性たちが、今後管理職として活躍していくためには、女性管理職のロールモデルが少ない現状で、自身の目指すべき方向性を見定めていくことが難しいのではないかという懸念があります。またライフイベント後に時間の制約を受けながら働かざるを得ない期間の働き方等の課題を克服し、働き続け、活躍するため、女性たちのモチベーションをいかに維持していくかについても今後対応を検討していく必要性が高まっています。加えて、従来、女性総合職を部下としてマネジメントする機会が少なかった男性管理職に対しては、女性部下を戦力人材として育成していくという新たなマネジメント課題も出現することが想定されます。

今いる社員一人一人が働き続け、事業の担い手に育っていくことが重要であり、そのためには、就業継続できるだけでなく、営業や駐在経験等を含む幅広い職務経験や教育機会を通じて成長を促し、男女の別なく、管理職などの重要なポジションに適材適所の登用を行うことが期待されます。i

3. 日本貿易会ダイバーシティ推進タスクフォースの活動

こうした状況の中、日本貿易会は、2014年11月に商社業界のダイバーシティ推進(女性の活躍推進)に関して、会員各社の女性活躍の取り組みをより一層支援し、業界全体の進化・活性化を図るため、「ダイバーシティ推進タスクフォース」(座長:許斐理恵丸紅人事部ダイバーシティ・マネジメント課長、副座長:泰田美賀子 三菱商事 人事部女性活躍・ダイバーシティ室長、12社 ii で構成)を立ち上げています。

同タスクフォースは、各社の活動状況・課題等に関する情報・意見交換や各社の取り組みに資する講演会の開催等を中心に活動を行っていますが、今般の女性活躍推進法の成立を受けて、同法への対応等に関する情報交換や議論がますます活発化していくことが予想されます。秋ごろには、同法に関する説明会を開催すべく準備を進めてまいりたいと思います。

4. 第2回ダイバーシティ推進セミナー開催報告(7月28日)


ダイバーシティ推進セミナーの様子

7月28日、ダイバーシティ推進タスクフォースの活動の一環として、女性総合職とその上司というペアを対象とした「ダイバーシティ推進セミナー」を開催いたしました。第2回となる今回は、日経ウーマン元編集長・日経BPヒット総合研究所長の麓幸子様をお迎えし、「女性が活躍する組織をつくるには〜第1に鍵はアンコンシャス・ジェンダー・バイアスの理解」をテーマに、(1)「女性活躍」は女性のためにあらず、(2)女性活躍推進の企業メリット、(3)女性活躍推進の課題、(4)男女それぞれのバイアスを解くためには、(5)女性活躍企業が実践する五つのポイント等について、幅広くお話を伺うとともに、活発なグループ討議が行われました。

当日は、ダイバーシティ推進タスクフォース委員会社12社から約50 人が参加し、会場はほぼ満席となり、その後の懇親会も上司部下のコミュニケーションや他社との交流の場としてご活用いただき、非常に盛況でした。

参加者からは、麓様のご講演について、多くの企業取材に基づく知見や学術的理論に基づく説得力ある講演であり非常に有意義であったこと、アンコンシャスなジェンダーバイアスについて気付きがあったこと、懇親会においても他社の方々と情報・意見交換ができ大変貴重な機会であったこと等、高評価なコメントを多数お寄せいただきました。

引き続き会員企業のニーズに沿ったさまざまな取り組みを展開してまいりたいと思います。

ダイバーシティ推進タスクフォースの活動に対するご要望・ご関心がある会員企業ご担当者さまは事務局までご連絡いただければ幸いです(政策業務グループ TEL 03-3435-5966)。


i 厚生労働省 業種別「見える化」支援ツール活用マニュアル(貿易・商社業編)
ii 12 社:伊藤忠商事、岩谷産業、興和、JFE 商事、住友商事、双日、蝶理、豊田通商、長瀬産業、丸紅、三井物産、三菱商事

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