伊藤忠商事における「人材多様化」の取り組み ―「働きやすい会社」から「働きがいのある会社」に

伊藤忠商事株式会社 人事・総務部 採用・人材マネジメント室 課長補佐
井上 美緒

多様な人材の活躍支援


グローバルな競争が激化する中、市場の多様なニーズに的確に対応し、新規ビジネスや付加価値の創造を継続的に行っていくためには、「組織としての多様性」が不可欠であると当社は考えています。この考え方に基づき、当社では2003年12月に「人材多様化推進計画」を策定し、他社に先駆けて多様な人材の数の拡大、定着・活躍支援を推進してきました。

人材多様化の取り組みの中で最も注力しているのは「女性」の活躍支援です。当社ではこれまで、日本の女性の社会進出が進むのに合わせ、それぞれのステージで女性活躍のための支援策を積極的に推進し、諸制度の整備を行ってきました(図参照)。

現在、女性社員の比率は社員全体の約24%です。また、このうち基幹業務を担う総合職については1989年より女性の採用を開始し、総合職全体の約9%が女性となっています。女性総合職のボリュームゾーンは20代後半から30代前半であり、結婚・出産等のライフイベントに差し掛かる年代ですので、この世代がライフイベントを経ても活躍し続けられるような支援が必要です。

仕事とライフイベントを両立するための諸制度はすでに法定を上回る水準で整備されており、若手女性総合職を対象とした早期のキャリア意識醸成のための支援研修プログラムも設置していますが、こうした全体施策に加え、女性に対しては個々の現場において、また、個々のライフステージやキャリアに応じて、よりきめ細かく血の通った個別支援が必要と考えています。当社ではこれを「げん(現場)・こ(個別)・つ(繋がり)改革」と総称し、活躍する女性ロールモデルの創出と、女性が働きがいを持てる環境の整備を推進しています。これにより、2020年までに女性総合職比率10%超、女性管理職比率10%超達成を目指しています。

注力分野は「登用」「駐在」「育児」

「げん(現場)・こ(個別)・つ(繋がり)改革」の注力分野として、「登用、駐在、育児」の三つを掲げています。2014年度には3分野ごとに女性分科会を設置し、それぞれ現場で活躍している女性から意見や提言を吸い上げることで、新たな施策につなげていく取り組みを行っています。

例えば「登用」については、組織長研修のテーマへの組み入れや、部門長との個別面談を通した登用候補者の個別キャリアプランの策定等、上司側の関与を強化する取り組みを開始しました。「駐在」については、海外実務研修への早期派遣によりライフイベントの前に海外経験を積ませること等を検討中です。また、単身子連れでの海外駐在(子女のみ帯同)の個別支援策として、駐在員の母親の育児補助目的での帯同を認め、旅費を会社負担としています。

2013年に子連れ駐在した女性社員は、赴任後1ヵ月半母親を帯同したことで、非常に安心してスタートが切れたと言っています。海外駐在は商社パーソンにとって重要なキャリアパスの一つで、ライフイベントとの両立が女性のキャリア形成上の大きなテーマですが、こうしたロールモデルがいることで、トライしようと思う社員も増えてきています。最近は、子どもを産んでも営業で働き続けたい、海外駐在に行きたいと希望する若い世代が増えており、心強く感じています。このように、キャリアの障壁になるものがあれば、個別に取り除いて仕事をしやすくするのが会社としての務めと考え、個別支援に力を入れています。

また、女性だけではなく、男性視点での女性活躍支援として、共働きの男性社員を集めた分科会も開催しました。分科会では「男性は女性以上に育児関連の制度を取得しづらい雰囲気があり、多様性を受け入れるという企業風土の醸成が重要」との意見が多く、今後はこうした共働きの男性側への支援も重要になってくると考えています。

効率的な働き方に向けて

2014年5月から、当社は「朝型勤務」を正式導入しました。これは残業ありきの働き方を見直し、9:00-17:15勤務を基本とした上で、夜型の残業体質から朝型勤務へと働き方を改めるものです。具体的には、深夜勤務(22:00-5:00)を禁止、20:00-22:00の勤務は原則禁止とし、やむを得ず20:00以降も残務がある場合は、翌朝9:00前からの勤務にシフトすることとしています。

制度導入後の成果として、20時以降退館者約30%→約7%、8時前入館者約20%→37%と大幅な改善が見られており、結果的にコストも削減できています。何よりも大きな成果は、働き方や仕事の生産性に対する社員の意識が劇的に変わったことです。長い時間会社にいることよりも、限られた時間内で成果を出すことが評価されるという風土が徐々に醸成されていると感じています。

「朝型勤務」は全社的な働き方の改革であり、必ずしもダイバーシティに特化した取り組みというわけではありませんが、女性が長期的なキャリアを考える上で、多残業体質の見直しは非常に重要と考えています。朝型勤務導入後、若い女性社員が「この働き方なら、将来子どもができてもこの会社で働き続けるイメージが持てるようになった」と言っているのを聞いた時はとてもうれしかったです。女性のみならず男性も、「メリハリのある働き方」により、仕事の質と効率をより一層高めることができると考えています。

これからも、全ての社員が長く活躍できる企業風土の醸成により、成果の最大化を目指す会社であり続けたいと思っています。

(聞き手:広報・調査グループ 蟹田綾乃)

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