女性が活躍する社会の実現に向けた新たな法的枠組みについて

厚生労働省 雇用均等・児童家庭局 雇用均等政策課長
小林 洋子

はじめに

厚生労働省では、労働者が性別により差別されることなく、かつ働く女性が母性を尊重されつつ、その能力を十分に発揮できる雇用環境を整備するため、男女雇用機会均等法の履行確保に取り組んできました。法違反が認められる企業に対する是正指導や、男女労働者間に事実上生じている格差を解消するための企業の取組(ポジティブ・アクション)を促進するための施策を展開してきました。一方で、働く女性を取り巻く現状については、解決すべき課題も残っています。こうした課題の解決に向けた厚生労働省の取組について、女性の活躍を推進するための新たな法律を中心にご紹介します。

働く女性を取り巻く現状

日本の役員を除く女性雇用者数は2,352万人(2014年)となっており、雇用者全体の43.5%を占めています。その内訳は、正規雇用の女性が1,020万人(43.4%)、非正規雇用の女性が1,332万人(56.6%)で、半数以上が非正規雇用に就いています。また、年齢階級別に女性の就業率を見てみると、30−39歳層で就業率が大きく低下する、いわゆる「M字」カーブを描いていることが分かります。10年前と比較して、「M字」の「底」(=30歳代)はかなり上昇してきたものの、先進諸国と比較するといまだにその傾向が顕著に見られます。

第1子出産後の女性の継続就業率は、正規雇用の女性を中心に少しずつ伸びてきていますが、現在でも約6割の女性が第1子出産を機に退職していることが分かっており、これは先に述べた「M字」カーブにも影響を及ぼしているものと考えられます。正規雇用のピークは、第1子出産の平均年齢より手前の25−29歳層ですが、一般的に子育てが一段落する40歳代以降再び就業率が上昇するのは、非正規雇用の層が年齢とともに厚くなっているためで、正規雇用は年齢とともに減少しています。

一方、全年齢を通じて、実際に就業できていないが就業を希望している女性が303万人(2014年)に上ります。特に、「M字」カーブの「底」である30−39歳層の女性が多く、大きな潜在労働力となっています。

また、民間企業における課長級以上の管理職に占める女性の割合は、男女雇用機会均等法が制定された1985年には1.4%でしたが、2014年には8.3%と、少しずつ上昇しています。しかしながら、先進諸国と比較するとかなり低い数値となっており、日本では、意思決定層へ登用されている女性の割合は低いといえます。



女性の活躍のために解決すべき課題

男女雇用機会均等法制定から30年がたちますが、現在もなお、採用、配置、昇進等のあらゆる側面において男女間の実質的格差が残っています。まず、新卒採用の段階において、男性のみ採用の企業が約4割を占め、その後の配置についても、特に営業などの分野においては男女の偏りが多く見られ、ここ5年で改善が見られる企業も少ないのが現状です。

調査結果から、女性が継続就業や昇進希望を持てるかどうかには、仕事のやりがいが大きく影響することが分かっています。性別に関わらない配置・育成等を通じて、女性の働きがいを高め、職責を深めることが社会における女性の活躍の推進につながります。

日本は、他の先進諸国に比べて長時間労働者の割合が高くなっていますが、配偶者の男性が長時間労働であるほど、フルタイムで働く女性が減少し、短時間勤務を選択する女性が増加する傾向があります。また、日本ではフレックスタイム勤務などの柔軟な勤務形態の普及度合いが低くとどまっています。このため、家庭の実情に応じて必要な両立支援制度が十分に利用できることはもちろん、男女を通じた長時間労働の是正や、柔軟な勤務形態を利用しやすくしていくことによって、女性がキャリア形成を継続していけるような選択肢を増やすことが重要です。

新たな法的枠組みの構築

厚生労働省では、これまでも女性の活躍に向けた施策を行ってきました。こうした中、「『日本再興戦略』改訂2014」(2014年6月閣議決定)において、今後講ずべき具体的施策として、女性の活躍推進に向けた新たな法的枠組みの構築が盛り込まれました。このことや社会的機運の高まりを受けて、2014年8月から、労働政策審議会雇用均等分科会において議論が重ねられ、同年10月に、女性の職業生活における活躍の推進に関する法律案要綱について、厚生労働大臣から同審議会に対して諮問が行われ、同日、これを妥当とする旨の答申がなされました。

これを受けて、内閣府と厚生労働省では、第187回臨時国会に「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律案」を提出しましたが、同国会では審議未了により廃案となりました。しかし、同法案は女性の活躍推進を加速化させる重要な法案であることから、2015年2月に、第189回通常国会に法案を提出し、8月に成立しました。

民間企業の皆さんに取り組んでいただくこと

法律では、301人以上の企業に対して、次の事項を義務付けています(300人以下の企業については、努力義務としています)。

(1)自社の女性の活躍に関する状況把握・課題分析

状況把握・課題分析については、以下の項目を必須項目とすることとなっています。

  1. 採用者に占める女性比率
  2. 勤続年数の男女差
  3. 労働時間の状況
  4. 管理職に占める女性比率

また、これに加えて企業が任意で把握する項目については、省令で規定することとなっています。

(2)状況把握・課題分析を踏まえた行動計画の策定・届出・公表

(1)の通り、女性の活躍に係る自社の状況を把握し、課題を分析した上で、その課題を解決するために、数値目標を含む行動計画の策定をお願いします。

企業における女性の活躍状況は、企業規模や産業によってさまざまであり、例えば、「女性管理職の割合○%」といった一律の数値目標の達成を求めるものではなく、各企業それぞれの課題を解決するため、次の項目を含む計画を策定していただきます。

  1. 計画期間
  2. 数値目標
  3. 取組内容
  4. 実施時期

企業における行動計画の策定に先立って、国は、先進的な企業の取組事例を参考としつつ、女性の活躍のために解決すべき課題に対応する効果的な取組を盛り込んだ行動計画策定指針を定めることにしています。指針には、次のような項目を盛り込むこととしています。

  • 女性の積極採用に関する取組
  • 配置・育成・教育訓練に関する取組
  • 継続就業に関する取組
  • 長時間労働是正など働き方の改革に向けた取組
  • 女性の積極登用・評価に関する取組
  • 雇用形態や職種の転換に関する取組
  • 女性の再雇用や中途採用に関する取組
  • 性別役割分担意識の見直しなど、職場風土改革に関する取組

なお、衆議院での審議の結果、301人以上の企業については、行動計画に盛り込まれた取組の実施と目標達成を努力目標とすることとされました。

(3)女性の活躍に関する情報公表

情報公表については、自社の経営戦略に基づき公表する範囲を選択する制度とすることで、公表範囲そのものが企業の姿勢を表すものとして、求職者の職業選択の要素となります。つまり、女性が活躍しやすい企業ほど、優秀な人材が集まりやすくなることで、企業間の取組が進むことを狙いとしています。公表する項目は、女性の職業選択に資する項目となるよう、省令で規定することとしています。

(1)〜(3)の施行時期は、2016年4月1日からとなっており、301人以上の企業においては、同日には⑴〜⑶の義務を履行している必要があるため、留意が必要です。

また、同法律では、女性の活躍推進に向けて、一定程度の取組状況が認められる企業に対する厚生労働大臣の認定制度を規定しています。認定基準については、業種や企業規模の特性などを配慮し、省令で規定することとしています。

国による支援

企業における取組の推進を図るため、厚生労働省では、女性がスキルアップを図りつつ活躍できる取組を行っている企業への助成金を拡充する他、女性の活躍状況に関する企業情報の提供を行っている「女性の活躍・両立支援総合サイト」と「女性の活躍『見える化』サイト」(内閣府)を統合し、個別企業の女性の活躍に関する実態や取組が一覧性をもってより分かりやすく情報提供されるよう見直すこととしています。

政府の動き

この他、女性活躍に関する政府の方針として、以下の内容が示されており、「『日本再興戦略』改訂2015」(2015年6月閣議決定)では、各企業の労働時間の状況などの「見える化」を徹底的に進め、女性が活躍しやすい企業ほど「選ばれる」社会環境をつくり出すことにより、企業の取組の加速化を図ることや長時間労働の是正のための人事評価制度の見直しなどを盛り込んでいます。

また、「女性活躍加速のための重点方針2015」(2015年6月すべての女性が輝く社会づくり本部決定)では、ワーク・ライフ・バランスの実現に向けた体制強化、「マタニティハラスメント」の防止に向けて次期通常国会における法的対応を含めた取組強化策について検討するとしています。

おわりに

厚生労働省では、すべての女性が希望に応じて個性と能力を十分に発揮できる社会の実現に向けて、法整備や企業における取組支援の在り方など、効果的な方策を引き続き検討してまいります。企業の皆さま方におかれましても、ご協力を頂きますようお願いします。

女性が活躍する社会の実現に向けた新たな法的枠組みについて 誌面のダウンロードはこちら