日本の対ミャンマー支援

国際協力機構(JICA)ミャンマー事務所長
田中 雅彦

1. JICAの対ミャンマー支援の歴史

JICAの対ミャンマー支援は、援助機関の中でも、際立つ存在である。過去半世紀以上にわたり、日本はミャンマーへの支援を継続してきたが、軍事クーデターによりミャンマーが軍政下に置かれた1988年以降、世界銀行、アジア開発銀行(ADB)、欧米諸国は援助から撤退したが、JICAは一度も撤退しなかった。円借款は中断されたものの、特に人道支援分野(保健、農村開発など)や人材育成分野では、継続して支援を行い、毎年400人近いミャンマー人の留学生、研修生を受け入れてきている。ミャンマー政府の現役の大臣の中にも、日本留学経験者がいる。

そして、2011年のテイン・セイン大統領の就任で、ミャンマーは大きな節目を迎えた。日本の対ミャンマー支援は急激に増え、無償資金協力では2012・13年度共に世界一の規模に達し、円借款、技術協力も急激に援助額が増えた。現在、日本の支援は他のドナーに比べて格段に大きな規模となっているが、これは、これまでの日本の対ミャンマー支援の歴史とミャンマー側の日本に対する期待の結果でもある。

2. 最近のミャンマー支援の転換点

対ミャンマー支援は以下の3つの転換点ごとに拡充されていった。まず、2012年4月にテイン・セイン大統領が来日した際に、日本政府がミャンマーを引き続き支援することを表明したことがある。日本との関係では5,000億円に上る累積債務があったが、その解決のため、日本のメガバンクの協力も得ながら、2,000億円はリファイナンスとして借り換えに応じ、3,000億円は減免する措置を取った。また、世界銀行、ADBの債務もリファイナンスを進め、その結果、ミャンマーの国際金融社会への復帰が可能になった。

次いで大きな転換点となったのが、2013年の安倍総理のミャンマー訪問である。このとき、安倍総理は510億円の新規の円借款と400億円の無償・技術協力の、総額910億円の支援を表明した。そして、2013年の12月に開催された「アセアン40周年会議」では、日本は、鉄道、上水道、灌かん漑がいの案件に充てる円借款として630億円の拠出を表明した。

3. 対ミャンマー支援の3つの柱

現在、日本の対ミャンマー支援には3つの柱がある。1つ目の柱は電気、水道、通信、港湾といったインフラ整備支援への対応である。2つ目は、ミャンマー国民の生活を向上させる分野で、特に保健医療、GDPに占める割合の高い農業開発における支援である。そして3つ目はミャンマーの人材育成、キャパシティ・ビルディングの支援である。これにはミャンマー人留学生受け入れも含まれる。

3つ目の柱に関しては、国の教育の根幹に関わるミャンマーの初等教育制度改革にも日本が支援をしている。ミャンマーの学制は「11年制」をとっており、16・17歳で大学に進学してしまう制度であるが、国際的な観点からは、通常よりも2-3年早く大学に入学することになるため、卒業時でも20歳程度と未熟さが残るという課題が指摘されている。現在、教育基本法の改正が行われており、初等教育におけるカリキュラムづくりでもJICAが技術協力を行う予定。

この他、これまで学生運動への警戒感から、ミャンマーの大学を閉鎖する動きが見られたが、ヤンゴン工科大学、マンダレー工科大学等の各教育プログラムの改革が進められる現在、日本の7大学が、日本式の工学教育プログラムを提供すべくJICAの技術協力プロジェクトを実施中である。こうしたミャンマー政府の姿勢は、日本であればミャンマーに合った質の高いプログラムをつくってくれるという期待の表れではないかと考えられる。

4. ミャンマーのこれからと日本企業への期待

ミャンマーを訪れるビジネスパーソンの数では、日本人は最も多い部類に入るが、ミャンマー政府からは「NATO」(No Action Talking Only)と揶揄されることもあった。一方、最近では中国、韓国企業のミャンマー市場への進出が加速している。現状は、電力・道路などのインフラや、不透明な法制度が日本企業にとってのボトルネックとなっていることは理解するものの、こうした課題は次第に必ず改善されていくと思われる。進出を検討している日本企業には、こうしたインフラが改善されるということへの理解とともに、ミャンマー人の育成にもコミットいただければありがたい。実際、タイやベトナムで日本企業が成功した背景には、現地への進出に当たり、人材育成を含めた技術指導も含まれていたことが挙げられる。ミャンマーに対しても雇用を通じた、人材育成にも関心を寄せていただけるとありがたい。

ミャンマーの日本に対する思いは強く、早期に進出すればするほど良い条件が得られると思われる。また、ミャンマーは中国・インドに挟まれ、両国の情報が飛び交う立地条件の良さも指摘することができる。今後、人的資源の開発が必要ではあるものの、人々のモラルは高く、治安もよく、また親日国でもある。日本企業への期待が高い今こそ、ミャンマーへの進出を検討いただきたい。

(聞き手:広報グループ 石塚哲也)

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