ホンダのアジア二輪事業とミャンマービジネスへの期待

本田技研工業株式会社 渉外部 担当部長
村岡 直人

はじめに

ミャンマーは、アジア最後のフロンティアとして大変な注目を集めており、ホンダも将来性のある市場として大いに期待している。ただし、ビジネスに着手したばかりなので、本稿では、ホンダにとってのミャンマー事業の位置付けと、今後ビジネスを拡大していくに当たっての課題について述べてみたい。

1. アジア二輪事業とミャンマーの位置付け

ホンダは、タイ、インドネシア、ベトナム、インドなどアジア各国で大規模な二輪ビジネスを展開しているが、この延長線としてミャンマーでのビジネスをぜひとも成功させたいと考えている。なぜなら、ホンダにとって、アジアの二輪ビジネスの意義は極めて大きく、会社の経営を支えている大きな柱であるからだ。

その理由の一つは、アジアでは、二輪車は足代わりとして、通勤や買い物の基本的な交通手段として機能しており、市場規模が極めて大きいことである。昨年1年間のホンダの二輪車の総販売台数は1,679万台(2013暦年)であるが、アジア太平洋地域の販売台数は1,296万台と、全体の77%を占めている。

二つ目の理由として、収益が安定していることが指摘できる。2008年10月に、いわゆるリーマン・ショックが起こり世界経済は低迷したが、生活必需品であるアジアの二輪市場への影響は軽微であった。また、リーマン・ショックの際、急激に円高が進行したが、アジアの二輪ビジネスは現地生産で商品を供給しており、生産用部品もアジア域内で調達しているため、円高にも強い。この厳しい時期に、アジアの安定した二輪ビジネスが、ホンダの収益を支えてくれた。

このように、アジアの二輪ビジネスの意義が大きいだけに、人口も6,000万人を超え、インドネシアやベトナムのような大市場への成長も見込まれるミャンマーへの期待も極めて高くなる。一般的に1人当たりのGDPが1,000ドルを超えると二輪車の普及が始まるといわれているが、1,000ドルに達していないとされる現在でも、ミャンマーの市場規模は90万台に上る。今後経済成長に伴い、市場の大幅な拡大が期待できよう。ベトナムのハノイやホーチミンで、二輪車が「ホンダ」と呼ばれ、庶民の足として広く普及しているが、ミャンマーにも、ベトナム同様の発展を期待している。

2. ミャンマー二輪ビジネスの現状と課題

次に、ミャンマービジネスの現状を紹介した上で、課題について説明したい。

(1)ビジネスの現状

現在ホンダは、タイとベトナムの生産拠点から二輪車を輸出し、ミャンマー資本のNCXミャンマーが、ホンダのディストリビューターとして輸入販売を行っている。NCXミャンマーは、2013年6月、ミャンマー第2の都市マンダレーで最初の販売店を開設し、その後も東部の高地のタウンジーや南部のバゴーなどに販売網を展開している。

主要な販売機種は、Dream125、Click125、Scoopy110、Wave100(数字は排気量)であり、小排気量のモーターサイクルとスクーターを販売している。

しかし、現在の約90万台の市場は、中国からの輸入車が席巻している。ホンダの販売規模は、ビジネスに着手したばかりで、年間5千台程度で小規模である。在庫の適正管理システムの導入等によりビジネスの基盤を整備するとともに、販売網の拡大やセールスの人材育成等により、今後販売を拡大していく計画である。

(2)課題と要望

①市場における課題
まず、課題として指摘したいのが、かつて首都があった最大の都市で、所得水準も高いヤンゴンで、二輪車の走行が原則禁止されていることである。この規制の理由としては、さまざまなことがいわれているが、バイクは利便性が高く、マンダレーでの二輪車の普及状況を見ても、ヤンゴンに住む方々のニーズは強いはずである。ヤンゴンの二輪市場の開放をまず期待したい。

次に、不法輸入の台数が多い点である。不法輸入の場合、登録費用を払わなくてすむので競争上有利になり、ホンダの販売が圧迫される。現在は、不法輸入された二輪も事後的に登録を認める政策が取られているが、その方が登録費用が安くすむ仕組みになっている。この差が約1万円と大きな差となり、10万円程度の売価に占める割合は高く、ホンダの正規の輸入車の販売を圧迫している。また、いわゆるコピー車も輸入されており、ホンダの正規輸入車の半分程度の価格で売られている。意匠権の保護制度の導入など、知財権の保護の強化や、不法輸入の取り締まりの強化が必要である。

②現地生産に関する課題
今後輸入販売を拡大していくことになるが、ミャンマーに本格的に参入していくためには、将来的には現地生産が不可欠である。物流費をかけて完成機を運んでいるのでは、販売の拡大に限界がある。また、ホンダは、「市場に近いところで生産する」というポリシーを持ち、海外市場への製品の供給は、日本からの輸出に頼らず現地生産による供給を中心とする方策を推進してきた。特に二輪ビジネスの場合は、四輪に比べて現地生産に必要な技術や材料・部品の要件が緩いため、現地生産に踏み切りやすい。アジア各国からの部品調達も可能であり、また、将来はミャンマーからの部品調達も可能になっていくであろう。

従って、ミャンマーでの現地生産がホンダのポリシーにも合致し、今後のビジネスの拡大に望ましいが、現在のミャンマーの政策では、現地生産の収益性は極めて厳しいと言わざるを得ない。

ベトナムなど他のアジア各国は、ホンダの参入時点で、二輪車の完成機輸入には高い関税を課し、一方で生産用部品の輸入には低率の関税とし、現地生産を促す政策が取られていた。こうした政策の下で、現地生産の規模が拡大し、生産の拡大に伴い部品メーカーの進出も進み、部品の現地調達も拡大した。部品の現地調達の拡大によりコストが下がり、販売が拡大するという好循環が実現した。

しかし、ミャンマーでは、生産用部品と完成機の輸入関税が、同じ5%(平均)と低率で設定されている。また、現地生産を促すための法人税などのメリットも、完成機輸入と差別化するだけの十分なレベルにない。さらに、不法輸入やコピー製品の輸入の問題もある。現地生産を行っても、輸入機種に対抗していくことは現在容易でなく、他の国でみられた、現地生産を軸とした好循環のスタートがきれない。

終わりに

以上の課題が克服され、二輪の現地生産が拡大していけば、雇用や部品産業の発展を促し、国際収支の改善にもつながり、ミャンマー経済全体にも貢献できると考えている。本稿により、ホンダが抱える課題について、ミャンマービジネスに関わる方々の間で理解が深まり、課題解決に向けて何らかの取り組みの強化につながれば大変幸いである。

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