日本鉄道車両輸出組合が行う鉄道システム輸出推進事業について

日本鉄道車両輸出組合 業務部長
佐山 伸樹

世界の鉄道市場規模は、2013年の21兆円から、年約3%ずつ拡大し、2019年には25兆円と予想されています。特に人口増加の著しい新興国のアジア地域、中南米諸国等では、経済発展と都市化の加速に伴って、交通渋滞の深刻化、都市の大気汚染が社会問題化しており、今後、ますます鉄道インフラ需要が拡大する傾向にあります。

一方、日本においては、人口減少・少子高齢化、都市集中化に伴う地方の過疎化問題など、鉄道事業とそれに付随する鉄道関連産業を取り巻く社会環境は大きく変わってきており、今後の国内鉄道市場の伸長は期待できず、縮小傾向に向かうと懸念されます。かかる国内市場の状況から、日本の鉄道産業界は日本政府による鉄道インフラの海外輸出戦略の後押しも受けて、海外市場での受注獲得にこれまで以上に力を入れています。

日本鉄道車両輸出組合(Japan OverseasRolling Stock Association:略称JORSA)は、日本の鉄道輸出産業の民間側の窓口・推進役の立場で業界の輸出振興に寄与すべく、さまざまな推進事業・活動を行っており、今回、寄稿の機会を頂きましたので紹介させていただきます。

JORSAは、1953年に輸出入取引法に基づき設立された民間の鉄道関連メーカー31社(車両、電機、信号等メーカーおよび商社)で構成された輸出組合です。

主なJORSA 事業・活動内容は以下の通りです。

  1. 貿易保険(包括保険 申込窓口)
  2. 広報・出版事業(組合報の発刊、海外展示会出展、広報資料・映像の制作・配布等)
  3. 情報・調査事業(世界鉄道市場便覧の発刊、海外鉄道調査資料・文献整備等)
  4. 国際交流事業(海外要人・視察団の 招しょうへい聘・受け入れ等)
  5. 輸出基盤強化事業(海外鉄道セミナー、海外コンサルタント招聘、海外市場調査団の派遣等)
  6. 教育・啓発事業(国内鉄道研修ツアー、講演会・説明会等)
  7. 鉄道インフラ輸出振興に向けての日本政府との連携や政策提言今回は、冒頭テーマでもありますJORSAの輸出推進事業について主な活動内容を紹介いたします。

(1)海外展示会への出展:

他業種同様、世界各地にて多くの鉄道関連展示会が開催されています。JORSAは宣伝効果の高い展示会に、出展を希望する組合企業を募集・とりまとめの上、共同出展しています。企業によっては、個別の単独出展より、規模、手間・費用、集客力、アピール度などさまざまな面で一層効果的な出展となります。

世界最大の鉄道展示会は、独ベルリンで隔年開催のInnoTrans(イノトランス)展示会です。

前回は、2014年9月に開催され、出店者数:2,758社(55ヵ国)、来場者数:13万8,872人(146ヵ国)と全世界の鉄道顧客・メーカーが集合する一大イベントです。JORSAは、ここ2回連続して一つのホールを借り切り、日本企業10数社と出展し、多数の来場者を迎えました。他展示会としてはUITP(国際公共交通連合)、UIC(国際鉄道連合)など、組合企業と相談の上、重要と思われる展示会に共同出展しています。

(2)海外セミナー:

優れた日本の鉄道システムを現地政府・マスコミ・民間企業・市民に直接アピールする目的で、海外セミナーを、都度、日本政府・鉄道事業者と連携し実施しています。2014年度は、高速鉄道計画のあるクアラルンプール、シンガポール、ニューデリーで開催しました。特に国家的事業である高速鉄道プロジェクトでは相手国政府への売り込みに当たり日本政府の積極的なバックアップが不可欠です。

(3)英文広報資料・映像の制作・配布:

JORSAは、日本の鉄道輸出の民間側推進役として鉄道輸出業界全体のPRを行っていますが、その一環として、前述の海外展示会、セミナーでの配布資料として、また、日本に鉄道システム視察に訪日する海外政府・プロジェクト関係者向けに日本の鉄道システム全体を紹介・PRする英文広報資料・映像を制作・配布しています。

「新幹線」をはじめ、地下鉄・新都市交通システムなど「都市鉄道」を広く紹介・説明する英文広報カタログや映像資料をそろえています。その他、組合企業が製造・供給している最新型の鉄道車両・機器、鉄道の省エネ技術・最新駅設備など個別のテーマに基づく英文技術情報誌として『Japanese RailwayInformation』を年3 刊程度、発刊しています。組合企業のPQ 添付資料としての用途もあり、広く利用されています。

(4)海外要人・視察団の招聘・受け入れ:

日本の鉄道の良さをつぶさに理解していただくため、個別企業では実施が難しい相手国の政府・プロジェクト関係者、マスコミ等を招聘(日本政府による招聘含め)し、日本の鉄道システム視察や試乗を行い、また、メーカー工場見学を通じて優れた日本の技術・製品を紹介する事業です。JORSAは、契約関係や利害関係なく対応できる立場であり、双方にとって有意義な視察の機会になっています。

(5)海外鉄道コンサルタント招聘:

海外鉄道プロジェクトにおいては、中東、新興国のみならず、先進国においても、F/S段階から、鉄道専門コンサルタントが起用され、入札・評価をも担うケースが多く見られます。

鉄道専門コンサルタントは、欧米系が主流であり、日本の鉄道プロジェクトへの案件関与・経験がほとんどないため、日本の鉄道技術への知見・知識が乏しく、仕様・規格面で欧州寄りとなりがちで、欧州競合先に比べ、不利な状況です。

JORSAは、海外コンサルタントに日本の鉄道システム・技術をきちんと理解してもらう目的で、組合企業推薦に基づき、海外コンサルタント5人前後を日本に招聘する事業を行っています。コンサルタントは、プロジェクト単位での異動や転職も多く、今後の海外プロジェクトで客先側コンサルタントとして関わるケースもあり、本招聘事業を通じて、日本の鉄道への良き理解者となってもらいたいと思っています。

上記事業の他、JORSAは、組合企業向けに海外鉄道市場の情報提供や、日本政府のインフラ輸出支援制度等の講演会・説明会を実施しています。また、『鉄道車両輸出組合報』を4半期ごとに発刊していますので、ぜひ、ご覧ください。

最後に、鉄道は、各国それぞれの地域性も強く、地域に密着した公共交通手段として市民の関心も高い社会インフラです。安全・安心・確実で、快適性・省エネ技術にも優れた日本の鉄道システムの導入は、当該国にとって長期にわたって重要な市民の足として大いに役立つものです。JORSAは、組合企業と共に日本政府のサポートも得つつ、日本の鉄道システムの輸出・海外展開に貢献してゆきたいと思っております。引き続き、皆さまのご支援をよろしくお願い申し上げます。

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