ABIC が行う留学生支援について

国際社会貢献センター(ABIC)留学生支援コーディネーター
田中 武夫

国際社会貢献センター(以下ABIC)留学生支援G(グループ)の業務の中核は2000年のABIC発足直後に始まった東京国際交流館の留学生・家族のための日本語広場(クラス)と日本文化教室だが、その後、在日外国人の教育やアセアン諸国での日本語教育など、対象も内容も従来の枠組みを超えた広がりを見せている。

また国際理解教育G、大学講座G、など他事業部門と連携する業務もあり、さらには理事長や事務局長が文科省や国際交流基金委嘱の委員会活動等を通して尽力されている、産学協同での国際人養成、地域との連携による留学生交流拠点づくり、留学生30万人計画の実現に向けた留学生の住環境支援の在り方に関する検討、アセアン諸国向けに2020年までに日本語パートナーズ3,000人派遣事業の推進、などとの関わりもある。しかしここでは、留学生支援Gの活動に絞って以下にご報告する。

われわれの活動拠点となった東京国際交流館(以下「交流館」)は、ABIC誕生間もない2001年に、グローバルな知的交流の整備という政府の「国際交流大学村」構想の下に開設された。そこは大学院生以上の留学生・日本人学生や研究者およびその家族を受け入れる 800を超える居室に加えて、共用の自習室、ラウンジ、体育室、トレーニングルーム、美術室、音楽室、茶室、調理実習室、食事室、プレールーム、レクリエーション室、日本語研修室、多目的室などがあり、隣接するプラザ平成では同時通訳ブース付き国際会議場、メディアホール、研修宿泊室などを備えている。このように、交流館は国内随一ともいえる国際交流施設で、良質人材の獲得競争が激化する中、世界の優秀な大学院生や研究者に、質の高い生活空間や交流の場を提供するべく、国策の一環として設立された。

交流館入居者のほとんどはアジア・中東・旧ソ連圏諸国からの国費留学生で、東京大学や政策研究大学院大学など国内の大学や研究所に所属しており、帰国後は母国の内閣府、議会、財務省、外務省、内務省、中央銀行、公正取引委員会や国税庁などで、国を支える重要な役割を担う知日派エリートたちで、日本の企業に就職する者も多い。

ABICは日本国際教育協会(現在の独立行政法人日本学生支援機構)からの協力要請を受けて、設立当初から支援活動を始め、現在、週に18クラスの「日本語広場」と、週末の茶道、華道、書道、囲碁、将棋、空手と6科目の「日本文化教室」の開催の他、4クラスに約100人を超える参加者のある日本語夏期講習、ABIC会員や支援企業や日本貿易会職員からの提供品によるバザーの春秋 2回の定期開催、国際交流フェスティバルや正月イベントでの着付けや書初め指導などの交流館内イベントへの参加協力など、さまざまな支援や交流活動を行っている。交流館でのABICプログラムへの参加者は、初年度は1,600人ほどで始まったが、ここ数年は3,000人を超えている。

上述の活動はいわば裃を着た定例のものだが、2006年からABIC会員や地域住民の協力の下に組成したボランティアチームによる不規則かつ予測不能の生活支援が始まった。妊娠・出産・育児・健康相談・健診・通院・治療などの健康管理や通園・通学・区役所の諸手続きなど、多種多様で応接に難渋することも多いが、留学生や家族にとって切実な問題のサポートで、依頼される事例は年間150.200件にも及び、交流館側では交流館運営に不可欠なものとの評価となっている。

一口に留学生といっても、さまざまな身分や立場があり専門分野や年齢もさまざまである。生活者として「外国」で暮らす留学生やその家族個々人が抱える問題や困難も実に多様である。教室の決まった時間内で日本語や日本文化を講じることも大切だが、一歩踏み込んで耳を傾け、理解し、どこまで支援の手を差し出せるのか、常に悩みながら、一人一人に寄り添い、少しずつでも進んでいく他ないと、講師やボランティアの皆さんに協力をお願いしている。

また、留学生支援と直結はしないが、6年前から日本語教師養成講座を始めた。常時17.18人が従事する日本語広場講師の養成も理由の一つだが、最大の狙いはABIC会員やご家族の日本語教師としてのボランティア能力アップである。高等教育を受けるために来日する留学生への日本語教育体制はかなり進んでおり、大学や企業の留学生受け入れへの取り組みも意欲的だが、在留外国人230万人の大部分を占める「生活者としての外国人」への日本語教育インフラは貧弱であり、ABIC会員・ご家族の日本語教師養成を通じてささやかなりとも社会貢献の輪が広がってゆくことを念じている。

最近日本語教師養成講座への関心が高まり、2014年夏と2015年冬の募集では、募集後数時間内に定員 2倍の応募があり、2015年春に始まる第18期講座は従来の2倍の14.15人を受け入れている。

その背景は2014年に始まったアセアン諸国向け「日本語パートナーズ」派遣事業である。2013年、安倍首相がインドネシア訪問の際にアセアン外交 5原則を発表し、アセアン諸国との文化交流拡大がうたわれ、その一環として独立行政法人国際交流基金(以下「基金」)が中核となり300億円の予算立ての下に2020年までに3,000人の日本語パートナー派遣を含む諸事業を推進することになった。

ABICは基金から協力要請を受け、関事務局長は基金の「日本語パートナーズ派遣委員会」委員に就任した。既に2014年中に4回の募集があり、インドネシア、タイ、フィリピン、ベトナム、マレーシア、ミャンマー向けに 100人の派遣員が選任された。ABICは会員の日本語パートナーズ応募の後押しをしている。

日本は在日留学生が1万人であった2003年に留学生10万人計画を発表、20年後の2003年には10万人に達し2010年には 14万人を超えたが、その後陰りを見せ13万人台に落ち込んだ。

ユネスコ統計研究所によれば、(高等教育機関で学位取得を目的とし1年以上滞在する)世界の留学生は 400万人を超え、受け入れ国のシェア順位は 1位米国(18%)・英(11%)・仏(7%)・豪州(6%)・独(5%)・露(4%)に次いで日本は4%の 7位である。日本の国内学生に対する留学生比率は米英独の半分以下であり、2008年に留学生30万人計画が成長戦略に盛り込まれたが、そこに至る道筋はまだ見えてこない。留学生にとって、より魅力ある国になるための日本の課題は多い。

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