日本における大学教育のグローバル化と課題 ーより多くの外国人留学生を迎えるために

創価大学 日本語・日本文化教育センター長・経済学部教授
高木 功

1. はじめに

2014年末、文部科学省は二つの高等教育の国際化事業をスタートさせた。「スーパーグローバル大学創成支援事業」と「大学の世界展開力強化事業」である。特に前者には104の大学から109件の取り組み申請が集中し、「スーパーグローバル大学」の採択を競った。グローバル化の波は外圧となり、少子高齢化の波は内圧となって、国公私立の別なく日本の大学に根本的な変容を迫っている。以下では日本の大学教育の「内なる国際化」、すなわち、より多くの留学生を迎えるために、日本の大学教育が克服すべき課題と使命について考えてみたい。

2. 留学生数の現状と政府による「留学生30万人計画」の推進

わが国の高等教育機関(日本語教育機関を含む)に学ぶ留学生総数は、日本学生支援機構によれば 2010年5月時点で 16万3,697人、2013年同月には16万8,145人に微増している。ただし日本語教育機関に学ぶ留学生を除くと、2010年5月の14万1,774人をピークにむしろ漸減し、2013年同月には 13万5,519人に縮小している。国別構成を見ると、留学生総数の約60%を中国からの留学生が占める。韓国の11.5%、ベトナムの4.6%が続き、台湾の3.5%を上回る。次にネパール、インドネシア、タイと続く。2011年以降、ベトナム、ネパールからの留学生の急増が注目される。

現政権は、「日本再興戦略」ならびに「第2期教育振興基本計画」(双方とも2013年6月閣議決定)の中で、優秀な留学生を2020年に30万人に倍増させる「留学生30万人計画」の実現を目指すことをうたっている。方策として、海外重点地域の選定、大学の海外拠点の強化による留学生の確保、また、日本留学経験者の掌握、ネットワークの強化による優秀な留学生の受け入れを促進するとしている。さらに「日本再興戦略」改訂2014では、宿舎・交流スペース等の整備支援、国内外の学生の交流機会の創出、海外拠点や就職支援プラットホームの構築、日本語教育の推進等を新たに講ずべき施策としている。

3. 日本の大学のグローバル化における課題

留学生倍増計画は、「日本再興戦略」の日本産業再興のための雇用制度改革、人材力強化の中に位置付けられる。政府はそのために大学教育の改革を迫っているのである。当の大学はどうか。大学にとって、まずは世界、地域、人々に貢献する大学としての教育理念と輩出すべき人材像の確立と再確認が大前提となる。その上で、より多くの留学生を迎え入れるために、日本の大学が克服すべき課題は多い。

第一に外国語による教育の問題と教育スタッフの資質である。留学生倍増の中身の大半はアジアでも非英語圏からの学生となろう。英領植民地としての経験を持つ国の留学生でも専門用語を駆使して、討論し、エッセイ、レポートを書く等の学術的英語の力は未熟である。そのために英語教育スタッフと英語で専門教育を実施できるスタッフを養成しなくてはならない。究極的には英語だけで卒業単位が修得できる課程の開設が必要となろう。新たな教育スタッフの採用においても、外国人を含む国際的な資質・条件が要請される。

第二に、英語による教育の推進と相反するようだが、日本語・日本文化教育の充実が要請される。外国人留学生にとって日本で学ぶ最大の魅力は日本語・日本文化の学修である。日本語別科、学部教育課程における日本語・日本文化教育の充実が要請される。ギャップ・イヤーの問題も積極的に日本語・日本文化学修のための有意義な期間と位置付けることもできよう。日本にとってグローバル社会に生きるということは、対外的開放性を保持しながらも、なおもユニークな個性を失わず、他の国の人々に日本文化を受容してもらうよう発信し続けることである。

第三に高等教育にふさわしい質の保証である。国際基準のシラバスの構築と公開、また教育スタッフの授業形態・方法の革新が必要である。問題発見・解決力をチームで鍛えるアクティブ・ラーニングの実施が要請される。多様な背景を持つ留学生と日本人学生が一緒に学び、議論し合う国際的な学びの創出と交流の場の実現である。

第四に学修・居住環境の整備である。アジア諸国から優秀な留学生を迎えるには奨学金制度の充実が欠かせない。民間と政府からの支援が必要となる。また寮、特に日本人と一緒に生活する寮を整備することが求められる。

混住寮は世界の縮図であり、内外の学生が共に異文化を体験し、理解し、寛容性を高める基本的な大学インフラである。また内外の学生が教室以外の空間で、共に学べる学習環境、いわゆるラーニング・コモンズの整備も必要となろう。

第五に留学生のキャリア形成支援と企業とのマッチングである。留学生にとって日本に学ぶかどうかを決定する際の大きな要素は、卒業後の進路である。今後、日本に学んだ外国人留学生の採用熱は高まるに違いない。大学のキャリア・センターが大学と企業のブリッジとなってゆくことが求められている。

最後に、大学が位置する、地域社会との連携である。外国人留学生を増やすには、地域社会が温かく留学生を迎え入れ、包摂し、相互交流の仕組みを形成することが必要となる。大学の国際化こそは、地域社会の活性化とグローバル化に大いに貢献するものと考える。

4. 結びにかえて:大学は日本型グローバル化モデル創生の起点に

大学教育のグローバル化とは、地域社会はもちろん、世界の人々に、若い世代に「開かれた大学」でなくてはならない。外国から多くの留学生を迎えることができれば、日本はグローバルなネットワークの結び目の一つを形成することができる。留学生が日本語・日本文化を学び、日本の人々との交流を広げ深めれば、日本と世界中の多様な社会、文化、人々をつないでくれよう。大学、企業、地域が共働して、欧州でも、米国でもない、日本独自のグローバル化モデルを創生することも可能ではないだろうか。そのために大学という教育交流拠点こそ日本型グローバリゼーション・モデル創生の起点となり得るし、大学はそのような期待に応え得るものと確信している。

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