商社と自由で開かれたインド太平洋(FOIP)

住友商事株式会社 グローバル業務部 部長代理坂本 清治
政策研究大学院大学(GRIPS)政策研究院 教授・参与
(WG 共同研究者)
篠田 邦彦
一般社団法人日本貿易会 政策業務第三グループ長
(WG 事務局)※2022年6月30日付で双日株式会社に帰任。
山本 大介
丸紅株式会社 地域総括部 シニア・アドバイザー
(司会、WG 座長)
森本 康宏
三井物産株式会社 経営企画部 グローバル業務室 次長高渕 泰郎

座談会の様子

2022年4月、市場委員会「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)の実現に向けた商社のダイナミズム」検討ワーキンググループ(以下、WG)は、2021年7月以降計5回にわたる会合の成果をまとめ、ディスカッションペーパーとして公表しました。このたび、WGのメンバーにお集まりいただき、研究の振り返りからFOIP実現に向けた期待、商社と日本貿易会の役割まで座談会形式でお話しいただきました。
(本稿は6月17日に開催した座談会の内容を事務局でとりまとめ、出席者の校閲を受けたものです)


1.WGの活動を振り返って


丸紅株式会社 地域総括部
シニア・アドバイザー
森本 康宏 氏

森本:本日はお集まりいただき、ありがとうございます。ディスカッションペーパーを公表してからはや2ヵ月が経過しましたが、WGでの研究を思い出しつつ、いろいろと意見交換できればと思います。まず、活動の振り返りから始めます。CPTPP、RCEPなどの広域経済連携協定をはじめ、研究すべき切り口は数多くあり、FOIPもすでに2020年度のWGでキーワードとして挙がっていました。これを受け、事務局と相談の上でFOIPをテーマとしてご提案し、皆さまのご賛同を得て、「実現に向けた商社のダイナミズム」という壮大なタイトルが付けられました。皆さん、議論を進める上で意識した点があったと思いますが、いかがでしょうか。

篠田:経済産業省からGRIPSに出向し、2020年10月に日本政府に対する「インド太平洋協力に関する政策提言」を行ったところ(注1)、それを見た日本貿易会からWGへの協力を打診されました。以前からインド太平洋協力を推進していくためには、政府だけではなく産業界やアカデミアも含めた連携が必要という強い思いがありましたので、商社業界の方向性をうまく打ち出せるようサポートしたいと考え、お受けしました。

WGでの研究のポイントは二つあると思います。一つ目が米中対立、パンデミック、ロシアのウクライナ侵攻と立て続けに起こった国際秩序を揺り動かす大きな地殻変動、二つ目が中国や東南アジアに加えて、南西アジアやアフリカにおける世界経済の成長センターの形成です。商社として地政学上のリスクに対応しつつ、インド太平洋を中心とする新興国・地域の社会課題の解決に向け、新たな事業機会をつかむ重要性を踏まえてディスカッションペーパーをまとめることを意識しました。メンバーの皆さんとの交流を通じて、多くのことを学ばせていただいた成果です。

坂本:1年ほど前に前任地のモスクワ(金属ビジネスを管轄)から戻り、現在の職務(コーポレート部門)に就いたときには、FOIPという言葉すら知りませんでした。そのような中で今回のWGに参加させていただき、大変勉強になり、改めてお礼申し上げます。FOIPというのは理念外交の一例であり、それ自体は素晴らしいものだと思います。一方、今回WGのテーマが壮大で、どこまで議論を深めることができるのかという思いもありました。ただし、一つの見方に立てば、当社事例として紹介しているバングラデシュ経済特区もそうですが、商社が通常行っているビジネスの多くはFOIP実現に貢献しているのだと思います。また、別の観点で見れば、2月にロシアによるウクライナ侵攻が始まったときには、地政学リスクを目の当たりにすることとなり、改めてFOIPの重要性を認識しました。

高渕:WGのスタート時から今に至るまで、FOIPを取り巻く環境は大きく変わりました。Quadも実現しましたし、IPEF(インド太平洋経済枠組み)も14ヵ国で立ち上がりました。5月末に来日したQuad首脳と民間企業との対話等において、WGでの経験が実務に活きた実感があります。

ICT関連の営業としてタイとベトナム、コーポレート部門で香港に駐在し、現在は東アジア、東南アジア、南西アジア、大洋州の海外拠点支援を担当していますが、コーポレート部門に求められるファンクションは多様化・専門化し、地政学リスクやグローバルインテリジェンスなど、これまで以上の対応が求められるようになりました。

2.FOIPを取り巻く環境と商社の課題

森本:ディスカッションペーパーでは戦略面、経済面、地域面の三つに切り分けて分析しました。FOIPをさまざまな角度から理解する必要があったのですが、この三つの観点は分かりやすく、リードしていただいた篠田教授には大変感謝しています。取り巻く環境の変化、分析を踏まえ、商社はどこに向かっていくべきなのでしょうか。


政策研究大学院大学(GRIPS)
政策研究院 教授・参与
篠田 邦彦 氏

篠田:ディスカッションペーパーでは戦略環境の変化について、安全保障、人権、環境というキーワードで取り上げました。欧米諸国は新しい価値観をアジア諸国に押し付けがちなところがありますが、日本はアジアを中心に幅広い、国際的な産業ネットワークを構築し、上手に取り組みを進めています。サプライチェーンの多元化、高度化の取り組みを実践し、新たなビジネスモデルをすでに構築していますので、今後はビジネス拡大に向けて実現可能なルールやガイドライン策定を逆に欧米諸国に働き掛けていくことが大切だと思います。国内においても、官民一体での情報の収集・共有、新たなルール・標準作りのシステムの構築を検討していく必要があります。

ウクライナ危機については、エネルギーや食糧供給の不安定化、希少鉱物の供給不足、各種輸出管理など、いろいろな影響が起きていますが、長い目でみれば侵攻終結後の復興需要が商社ビジネスにつながっていくと思います。

坂本:篠田教授がコメントされた安全保障ですが、これは経済安全保障(Quadが一例)、軍事的な安全保障(AUKUSが一例)、食料安全保障など多岐にわたりますが、特に重要なものの一つがエネルギー安全保障だと考えます。全世界的にカーボンニュートラルに向けて動いており、これは地球環境保全のためにまさになすべきことですが、欧米の価値観に全て引っ張られてよいものだとは思いません。ロシアのウクライナ侵攻を切っ掛けに化石燃料の取り合いが起こっていますし、これがなかったとしてもインド太平洋地域では今後もエネルギー需要がどんどん伸びていくことは確実です。それはそこで生きている人々の生活の質を向上させるために必要なものです。一足飛びのカーボンニュートラル達成は非現実的で、現実的なエネルギートランジションを目指すべきであり、経済産業省が推進しているアジア・エネルギー・トランジション・イニシアティブ(AETI)のように日本が存在感を示すべきところだと考えています。

高渕:FOIP実現に向けて、CPTPPやRCEPなど多国間の経済連携制度の活用、二国間FTAや政府間協議の深化、質の高いインフラ(注2)の整備、EPC(注3)に加えてオペレーションへの参画、脱炭素案件推進のための二国間クレジット制度(JCM)の活用、ETI-CGC(Energy Transition Initiative – Center for Global Commons)(注4)参画を通じた脱炭素技術の議論など、さまざまなアプローチを組み合わせ、新たなビジネスを創っていかねばなりません。また、経済成長と人口増加が進むインド太平洋地域では、消費者が求める需要は量的に増加するだけでなく、質的にも向上しています。食料・流通・リテイルサービスの分野、未病・予防を含めたウェルネス分野においてもグローバルな競争が激化しており、事業経営力強化の手を緩めることはできません。加えて世界的なインフレ、ロシアによるウクライナ侵攻後の資源・エネルギー価格の高騰を踏まえた新たな課題への対応も待ったなしで検討すべきテーマです。

3.デジタル分野での商社ビジネス

森本:各社ともFinTechも含めたデジタル分野のビジネスを強化しています。スタートアップへの投資から始めることが多くなりますが、事業がどれだけ育つかは分かりません。外国勢の台頭が著しい中、関連省庁も問題意識を持って日本企業を支援する取り組みを進めています。デジタル分野で商社に期待することについてコメントをいただけますか。

篠田:2023年に日ASEAN友好協力50周年を迎えるに当たり、経済産業省では産業界や研究者にヒアリングを行いつつ、日ASEAN経済共創ビジョンの策定を進めています。環境やエネルギー、都市化、少子高齢化、パンデミック対応を含めた医療、経済格差など社会課題の解決のためのデジタル技術活用がビジョンに盛り込まれることになると思います。アジア各国の企業を共創パートナーとしてデジタル技術の社会実装を成し遂げることが大切です。WGでも政府によるソフト面での経済支援スキーム策定が必要との意見がありましたが、アジアにおけるデジタルトランスフォーメーション(DX)の政策パッケージを相手国の政府や産業界に示し、専門家派遣や人材育成を行っていくというような大きな取り組みにしていかなければならないと思います。


住友商事株式会社
グローバル業務部 部長代理
坂本 清治 氏

坂本:デジタル化の深化、新型コロナの影響を受け、非接触対策、医療データの活用は飛躍的に進化したと思います。当社はマレーシアやベトナムでマネージドケア(注5)の事業を展開しており、医療データを有機的に活用し、総医療費の削減と医療レベルの向上に資する事業を展開しています。コロナパンデミックにより悲しい事態も起こっており、それはとても残念なことですが、一方で世の中を大きく変える要素となったことは事実です。

高渕:デジタル・サービス分野は諸外国から日本が学ぶべきところが多いと感じます。例えばシンガポールの新興FinTech企業がアフリカでビジネスを行っています。アジアやアフリカのビジネスで活用するデジタル・テクノロジーは、日本ではなくアジアの企業が開発したものが大勢を占めるようになるかもしれません。デジタル分野における商社ビジネスは、国を越えた企業の掛け合わせがキーになってくるでしょう。

森本:デジタルなどの新事業分野は、ここ5年、10年は特にASEAN地域で先進的な取り組みが目立ち、日本企業が共創パートナーとして一緒に取り組むには、ASEAN各国の企業に教えてもらう姿勢で意識改革を行っていく必要がありそうです。

4.インド、インドネシア、アフリカでの商社ビジネス

森本:ビジネスを考える上で、どの地域をターゲットとしていくかは極めて重要です。例えばインドやサブサハラ地域は、営業ラインを補う開発要員を配置すればビジネスを加速させることが可能なのでしょうか。インドやインドネシアは将来、先進国首脳会議のメンバーになるかもしれません。インド太平洋地域での取り組みの正否はFOIP実現が鍵になるのでしょうか。

篠田:インド太平洋協力を進める上で、インドは間違いなくキーとなる国です。Quadのメンバー国であり、民主主義や自由といった価値観を共有するインドといかに協力するかは重要です。経済面からみると、今後人口でも中国を超えて拡大していく国なので、成長ポテンシャルも高く魅力的ですが、かなりのリソースを現地に張り付けてもビジネスはとても難しく、各社苦労されていると伺いました。アフリカはインドに次ぐ市場かと思いますが、従来の資源エネルギーやインフラのビジネスだけではなく、社会課題解決型のビジネスにチャンスがありそうです。

今年(2022年)すでに岸田首相がインドを訪問しましたし、8月にTICADの首脳会合もあります。トップレベル外交を通じた継続的な働き掛けが大切です。WGでは、東南アジア、南西アジア、アフリカを結び広域連結性を強化するため、第三国と協力して新興市場を開拓することも話題に上がりました。

坂本:インドはマーケットが大きく、ポテンシャルが高い市場ですが、競争が非常に激しく、また、ビジネスを創り上げるにはインド側の望む方向性に寄り添うことが必要だと考えています。一方、別の観点では、現在の世界情勢の中でQuadしかり、日本としてインドと良好な関係を保つことは必須であり、その観点を踏まえれば、例えば公的支援をさらに増やして取り込みを図ることも必要かもしれません。また、インドネシアについては、日本にとって重要市場であることは言うまでもありませんが、2022年がG20議長国、2023年がASEAN議長国ということでさらに世界からも注目が集まっており、今後も引き続きしっかりと取り組んでいくべき国との理解です。ただし、同国は外交政策としては元々非同盟、また、ソ連・ロシアとの関係が深い面もあり、その独自性を踏まえることが必要と考えています。


三井物産株式会社
経営企画部
グローバル業務室 次長
高渕 泰郎 氏

高渕:インドネシアということで申し上げると、アジアにおけるイスラム経済圏は、マレーシアやパキスタン、バングラデシュだけでも7億人規模のマーケットです。アジアは多様であり、宗教的背景や嗜好(しこう)にも配慮し、地域性を学びつつ、現地パートナーと何をどのように共創できるかを探る努力も必要です。一方インドでは、韓国や台湾企業の躍進も目立ちます。モディ政権は日本企業のインド誘致に熱いメッセージを送っていますが、日本はこれに応えきれておらず、東南アジアや中国への進出が進んだようなモメンタムがなかなか働きません。期待が失望に変わらないか心配です。日印間の経済交流をサポートする官民の組織的活動は限定的で、日中間の人的交流の層の厚みと比べものになりません。アフリカについては環インド洋地域経済圏(IOR)という捉え方で取り組んでいますが、例えば中国から中東・アフリカ向け鋼材輸出のボリュームは多く、ここでも中国の存在感が増しています。東京から見えない、地場視点のニーズやシーズを捉える必要があります。

5.日本企業の強み

坂本:WGではインド太平洋地域における商社ビジネスのダイナミズムについて議論しましたが、日本はデジタル分野で最先端にいるわけではないと思います。また、伝統的に強かったインフラ輸出の分野においても、本当に日本に競争力があるものとは何なのか、ここを本質的な問題として考えていくことが必要だと思います。

篠田:強みは二つあると思っていて、一つ目はよく言われることですが、質の高さときめ細かなサービスです。新興国でのビジネスは価格面で折り合いが付かないことがあるかもしれませんが、オールジャパンでやろうとせずに、日本企業の強みを一つの要素としたコアジャパンで攻めるべきです。二つ目は、アジアで築き上げてきた幅広い産業ネットワークです。日本企業はこれまでの経験を基にビジネス現場に即した提案ができるでしょう。相手国政府や企業と対等な目線でビジネスをしてきたからこそ、いろいろなソリューションを示しながら欧米とアジアの間で橋渡しの役割ができると思います。

高渕:日本のものが技術的に優れていながら受け入れられなくなってきている実感はあります。それでも日本の強みは、篠田教授のおっしゃるように、日本の持ち味であるアジア圏との信頼に基づく関係性や安定性、そして平和国家であることだと思います。商社マン・商社ウーマンは世界各地で価格や条件のネゴをしてビジネスを開拓してきましたが、現在の収益規模もリスクもわれわれの入社当時とは比べものにならないほど大きくなりました。社会状況の変化に対応し、大規模な事業投資を伴った収益基盤を構築していますが、世界と共に商社も変わり続けていくのだと思います。

森本:新興国が国家レベルで課題解決を図ろうとするときに、商社は課題の発見から解決まで支援できることがあります。例えば、長期にわたる工事や完工後の運営を担う質の高いインフラ開発は、まさに商社の強みである総合力を発揮できるビジネスです。ビジネス環境は変わり続けますが、今後も引き続き官民が連携し注力していくべき分野であると思います。

6.ビジネス価値の変化と拡大

森本:ディスカッションペーパー第3章の各社取り組み事例を見ると、商社がどれだけ幅広くインド太平洋地域で事業を行っているかがよく分かります。


一般社団法人日本貿易会
政策業務第三グループ長
山本 大介

山本:事例は官民連携、二国間もしくは多国間での取り組みが目立ちます。一昔前は事業が成功すればパートナーとウィン・ウィンであるとの視点にとどまっていましたが、今日では世界的にコーポレートシチズンシップへの共感が広がり、事業の成功や拡大にもまして地域や地球の課題解決に寄与しているかという視点が重視されるようになりました。課題解決のための協調がFOIPのつながりを強化すると感じ取ることができました。

篠田:幅広い分野で事業活動を展開していることを相手国にもっと効果的にアピールすべきと感じました。例えば外務省のウェブサイトを見ると、FOIPについて連結性の向上やFTA、EPA、人道支援を含めた概要が説明されていますが、具体的なビジネス事例には触れられていません。米国はうまくアピールしていて、米国貿易開発庁(USTDA)主催のインド太平洋ビジネスフォーラムの場で、インフラやエネルギービジネスの拡大事例を発表しています。FOIP案件の支援スキーム拡充、首脳・閣僚外交による個別プロジェクト支援、首脳会合での協力覚書締結など、相手国の目に見えるような形でプロジェクトを後押しできれば、官民連携が深まっていくと思います。


7.FOIP実現に向けた商社と日本貿易会の役割


森本:篠田教授がおっしゃったインド太平洋ビジネスフォーラムやASEAN・アウトルック(AOIP)のような方向性を共有するような枠組みができればいいのですが、国によって警戒感や対インド外交姿勢の違いがあり、まとまりづらい点もあると感じます。FOIP実現に向けて商社ができること、日本貿易会の役割や期待についてコメントをいただけますか。

高渕:商社の役割は、フロンティアの開拓にあると思います。新しい市場を切り拓いていくことは諸先輩が行ってきた本領発揮の分野ですが、例えば、インドでのビジネス開拓や米中対立下でのリスクマネジメントなどにおいても、新境地の開拓はこれからも求められることです。FOIP実現に向けてもフロンティアへの探求が道を開いてくれるのではないでしょうか。

今回、各商社の同じ立場にいる方たちと一つのテーマについて事例を伴いながらディスカッションを行うことで、自分の持つ知識も深まりました。業界共通の複雑な課題については、共に分析し、情報交換やディスカッションを行い、提言等を行うことが効果的であり効率的です。日本貿易会には業界の課題解決のプラットフォームとしての役割をこれからも果たしていただくことを期待します。

坂本:商社にとっての課題、かつ、社会が商社に何を期待するか、それは「課題創出力」だと思います。これだけデジタル化が進んでいる中、良いアイデアを持っている人はたとえ資金力がなくてもそのアイデアを世に問える時代となっています。そうすると日本のみならず世界中にソリューションはあるはずで、大事なのは、そのソリューションを使って解決する課題を創出すること。世界中で産業界、政界、学術界と広くリアルなネットワークを持つ商社こそ、社会問題を解決するための本質的な課題を創出する力があるはずであり、また、社会からもそれを期待されているのではないかと感じています。

篠田:高渕さんのおっしゃったフロンティアの開拓は小林前日本貿易会会長のキャッチフレーズである「未知の時代を切り拓く」に合致するものですし、坂本さんのおっしゃった正しい課題の発掘は國分新会長のキャッチフレーズである「ともに築こう、サステナブルな世界を」に通じるものだと思います。日本貿易会のミッションはまさに商社の課題解決につながる活動ということになります。

商社への期待としては三つあります。一つ目はインド太平洋地域での商社のインテリジェンス機能の強化です。経済安全保障、人権、環境などの課題について、自社ビジネスの状況把握、競合相手の動きと対応の優先順位、経済や社会面への影響把握など、情報収集と対応判断を十分に行うことが重要です。二つ目がインテリジェンスに基づく具体的なプロジェクトの推進です。迅速な意思決定や与信管理、地域統括拠点の見直し等も含め、さまざまな新しいビジネスモデルを創出していただきたいと考えます。三つ目は政府の政策形成への働き掛けです。FTA、EPA、デジタル貿易などの分野でのルール作りに加え、資金や技術協力についても政府に支援スキームを要請していただきたいと思います。

日本貿易会の役割については、ディスカッションペーパーの提言にも入れた、官民共同での「FOIPフォーラム」立ち上げなど、官民連携の礎となることを期待します。FOIPの個別パーツを深掘りし、官庁に働き掛け、政府レベル会合の結果や新しい支援ツールの情報を会員に共有するなど、きめ細かに官民の間を取り持つ役割です。

山本:当会のキャッチフレーズをご紹介いただき、ありがとうございます。FOIP、グリーン、デジタルなど、社会課題の出現とともにビジネス環境には変化が訪れます。当会としても、いずれも一つの委員会に収まるテーマではないと理解しており、委員会横断的な取り組みへと進化させたく、検討を進めています。また、商社のネットワーキングや意見交換、二国間協議会等への働き掛けも当会のプラットフォームとしての役割です。個社のビジネス自体に関わることはできませんが、側面から支え、業界として成長していくことを目指して、新たな展開につなげていきたいと考えていますので、引き続き皆さまからご協力を賜れれば幸いです。

森本:貴重なご発言の数々、誠にありがとうございました。引き続き商社業界のプレゼンス向上に向けて取り組んでいきましょう。本日はどうもありがとうございました。

注1…政策研究大学院大学 ニュースとお知らせ
政策研究大学院大学・政策研究院「インド太平洋協力研究会」インド太平洋協力に関する日本政府への政策提言について
https://www.grips.ac.jp/jp/news/20201029-6702/

注2…質の高いインフラとは自然災害などに対する「強靭(きょうじん)性」、誰ひとり取り残されないという「包摂性」、社会や環境への影響にも配慮した「持続可能性」を有するインフラのこと。

注3…EPCとは設計(Engineering)、調達(Procurement)、建設・試運転(Construction)の三つのフェーズからなる。一般的にはエンジアリング事業のワークフローの仕組み。

注4…ETI-CGCとは東京大学グローバル・コモンズ・センター(CGC)が企業と共に設立した、日本が今世紀半ばまでに脱炭素を達成するための経路と政策を議論する産学協創プラットフォーム。
https://cgc.ifi.u-tokyo.ac.jp/research/eti-cgc/

注5…マネージドケアとは公的医療制度が充実していない国で発展しつつある管理医療システム。民間医療保険会社、マネージドケア事業者、医療機関の3事業者が連携して医療サービスを提供している。より良質で安価な医療の推進と、個人の健康管理向上を目指す仕組み。

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