コラム コロナ禍における商社ビジネスの現状

商社は、ビジネスを取り巻く環境が目まぐるしく変化する中で、事業活動を持続的に拡大するために、変化を先取りしフレキシブルにビジネスモデルを変革していくことが求められてきました。

ディスカッション・ペーパー「グローバル・バリューチェーンとアフターコロナにおける商社の役割」では、商社にとってコロナ禍は「商社がその特質と強みを発揮し、従来から進めてきたリスクの分散化や変化への対応をより加速化・表面化させる契機となっている」と分析しています。

商社ビジネスの現状について、商社の特質であり強みである「バリューチェーン」「グローバルネットワーク」「DX」「SDGs」をキーワードとして、当会の会員企業の取り組みの一端をご紹介します。

(社名五十音順)

伊藤忠商事株式会社

コーヒーのトレーサビリティ・サステナビリティプラットフォーム


Farmer Connect

当社は、2021年3月、コーヒーのトレーサビリティ・サステナビリティプラットフォームを提供するFarmer Connect SA社(以下FC社)へ出資の上、業務提携を開始した。既に2019年よりアジア代表のFC社運営委員として同社の取り組みを推進してきたが、今般の投資で一層力を入れていく。

FC社はブロックチェーン技術を基点に、コーヒー豆が産地から一杯のコーヒーとして消費者に届くまでの情報をつなぐ仕組みを構築している。サプライチェーンの透明化を実現しており、ユーザーは手元のアプリから購買したコーヒー豆の栽培環境、ブレンドの詳細、流通過程などの情報を得ることができる。

コーヒーは生産の大部分を発展途上国に依存しており、労働環境の向上や環境に配慮した産地開拓などが喫緊の課題となっている。FC社はこれらに対応するサステナビリティプロジェクトにチップなどの形でユーザーが直接参加できる機会も提供し、国際相場の乱高下や気候変動に伴う栽培環境の変化にさらされる生産者の持続可能な生産を支援している。

岩谷産業株式会社

水素エネルギー社会実現に向けた液化水素サプライチェーンの構築

当社は、安価なCO2フリー水素を製造し、液化・出荷・海上輸送・受け入れまでの一貫した国際間の液化水素サプライチェーンの構築を目指している。直近では、日本水素エネルギー(株)(川崎重工業(株)100%子会社)、ENEOS(株)と当社の3社がNEDOから公募された「グリーンイノベーション基金事業/大規模水素サプライチェーンの構築プロジェクト」に「液化水素サプライチェーンの商用化実証」を提案し採択された。カーボンニュートラルを実現する水素の大量消費社会を見据え、2030年30円/Nm3の水素供給コスト(船上引き渡しコスト)実現を目指すべく、年間数万t規模の大規模な水素の液化・輸送技術を世界に先駆けて確立し、液化水素サプライチェーン実証を行う。

また需要創出に向けた取り組みの一つとして、水素ステーションを国内最多の53ヵ所で整備・運営している。2023年度までにはさらに30ヵ所をめどに建設する予定だ。

当社は、水素のリーディングカンパニーとして、これまで培った技術やノウハウを活用し、水素エネルギー社会の実現に向けた取り組みを引き続き推進していく。

兼松株式会社

車両データビジネスで新事業


車の運行情報や車内外モニター画像を同時に記録

当社は、車両データビジネスの拡大を目的として、2021年2月に(株)データ・テックの株式を90%取得した。データ・テックは世界で初めてドライブレコーダーを開発・提供した会社であり、車両挙動解析技術に強みを持ち、商用車向けデジタルタコグラフをはじめ、安全運転の支援や燃費向上などを目的とした車載器等の製品やサービスの提供を行っている。また、環境省の「コ・イノベーションによる途上国向け低炭素技術創出・普及事業」に採択された実証実験をインドネシアで行っており、世界の低炭素化への貢献も視野に入れ、技術開発を進めている。

当社としては、データ・テックの主力製品であるデジタルタコグラフの国内外への拡販に加え、車載テレマティクス市場で車両挙動解析技術を用いた新規事業を展開していく。車載器から得られる膨大な車両運行データとAIを活用し、「環境」「安全」「快適」をテーマに、地球環境に優しく交通事故のない次世代モビリティ社会を実現することで、SDGsの目標達成に貢献していきたい。

興和株式会社

活性炭製品の供給バリューチェーン


PJAC/Philippine-Japan Active Carbon Corporation

当社は、フィリピンのヤシガラ活性炭工場PJAC社に加え、他国の活性炭メーカーを自社の供給ソースに組み込むことで供給の即応性、安定性を確立している。PJAC社を中核として、興和グループ10社を通じ、欧米、アジア、アフリカ等世界中の国々に販売してきた。コロナに端を発する物流の混乱等に対応するため、当社のグローバルネットワークを活かし、より良い活性炭メーカーと協力関係を構築。さまざまな客先からの要望に応える形で水平展開している。

また、セルフケア製品のメーカーとして、活性炭を使った使い捨てカイロ等で、垂直方向の広がりも追求し、健康への貢献も行っていく。

住友商事株式会社

ベトナムで太陽光発電事業をスタート


屋根置き型太陽光発電パネル

当社は、ベトナム・フンイエン省の第二タンロン工業団地において、太陽光発電事業を開始した。貸工場の屋根上に出力1メガワットの発電設備を設置し、2021年2月よりグリーン電力の供給を始めたもの。近年、温室効果ガス削減の観点より、製造業を中心にグリーン電力の需要が高まる一方、アジア新興国では調達が困難で、同地域へ進出する企業の課題となっている。今後、当社が開発・運営するアジア新興国の経済特区や工業団地にも導入し、将来は数百メガワット規模の発電を目標に、環境負荷の少ない世界の実現に貢献していく。

双日株式会社

人材活用関連の取り組み

当社は、新型コロナウイルス感染拡大前からテレワークを中心とした柔軟な働き方の推進、ジョブ型雇用や起業支援などのキャリアパスの多様化に取り組んできたが、アフターコロナにおいても、さらなる多様な人材活用の施策に取り組む。

①ジョブ型新会社設立

2021年3月、35歳以上の希望社員が転籍可能な「双日プロフェッショナルシェア(株)」を設立し、7月から運営を開始した。社員の多様なキャリアパスを実現するため、70歳定年、就業時間/場所の制限なし、副業/起業可能とした。同社への転籍社員が当社で培ったスキル・経験を社内外で活かして価値提供できる仕組みだ。また、週3日勤務で残りの2日間を介護やリカレント教育、起業準備期間に充てるなど、ライフプランに応じた柔軟な働き方が可能となっている。

②人材マネジメントのデジタル化

社員の働きがいや風通しの良さを追求すべく、全社で「組織改善プロジェクト」を推進。独自のエンゲージメントサーベイ結果を各組織で自ら分析することで、Data Driven志向の現場浸透を図りつつ、組織の課題改善につなげている。また、社員に関する多様なデータ(経歴・経験、キャリア志向、評価、勤怠など)をタレントマネジメントシステムで一括管理し、活躍度の可視化、活躍人材の定義、人事施策のKPI設定などに活用している。

長瀬産業株式会社

市場との接点を広げるプラットフォームを構築

NAGASEグループの新中期経営計画(2021-2025年度)では、企業の変革を支える機能の一つとして「DXの更なる加速」に取り組んでいる。

主な施策の一つは「デジタルマーケティング」だ。単純なEコマースではなく、各バリューチェーン上で市場との接点を広げ、ニーズを拾い上げる独自のプラットフォーム構築を目指す。米国に専門スタッフを集結させた組織を立ち上げ、グループ横断でプロジェクトを進めている。

もう一つの施策が、AIを活用した新素材探索プラットフォーム「TABRASA」の展開だ。IBM社と共同開発しSaaSサービスとして製品化したもので、将来的に、デジタルマーケティングのプラットフォームから吸い上げたニーズに対し、TABRASAでの新規素材の探索、NAGASEグループによる素材の製造、あるいは適切なパートナーご提案といったNAGASEならではのソリューションの広がりに期待している。

コロナ禍で目まぐるしく変わるお客さまや市場のニーズに耳を傾け、スピーディーに対応することがこれまで以上に求められている。この変化を機会と捉え、新たなビジネスモデルを創出する。

野村貿易株式会社

野村貿易グループのネットワークで美しい水を次世代に


浄化槽:2千人規模の工場でデータを収集

当社グループは、ASEANで生活排水の質を高める浄化槽事業を展開し、下水処理施設が十分に整備されていない地域の河川や海の保全と回復に寄与している。

浄化槽は有機物やアンモニアなどを微生物の働きで除去する設備である。設置環境や異なる生活様式による生活排水の質の違いを考慮した調整が必要であり、当社グループがさまざまな事業展開において多大な恩恵を受けている国、ベトナムの縫製子会社にも設置し、そこで収集した環境・水質データを基にして提案を広げている。また、駐在員が日本人学校で水の大切さを伝える特別授業も行っている。

丸紅株式会社

穀物バリューチェーン


パシフィコ社船積みターミナル

当社は、総合商社トップの穀物(コーン、大豆、小麦等)取扱量を誇り、米国では、小麦の一大産地である北西部に強みを持つコロンビア・グレイン社、米国全土に集荷拠点を有するガビロン社、北西部地区最大の穀物輸出ターミナルであるパシフィコ社を保有している。また、ブラジルでは南部に穀物輸出ターミナルであるテルログ社を有しており、北米・南米を中心に世界の穀物生産地から国際競争力のある穀物を日本国内はじめ世界各地の需要地に安定的に供給する体制を構築している。

日本国内にはパシフィックグレーンセンター(株)をはじめ全国7ヵ所の穀物輸入拠点を保有し、飼料業界大手の日清丸紅飼料(株)、製油業界トップの日清オイリオグループ(株)等に対して穀物を効率的に供給し、(株)ウェルファムフーズ(鶏肉・豚肉の生産販売)、丸紅エッグ(株)(採卵鶏飼養および鶏卵販売)等の酪農畜産、食品加工等を通じ、日本の食卓までをつなぐバリューチェーンを形成している。コロナ禍においても、世界各地の穀物需要に対しタイムリーかつ柔軟な供給を実現するとともに、日本の食を支えている。

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