中東諸国とのWin-Win関係構築に向けて

一般財団法人中東協力センター 代表専務理事
弘田 精二

2年前のアベノミクスの登場とともに、日本企業の収益力が急回復し、中東諸国にも経済界の関心があらためて向いてきたところに、2014年6月以降のISの電撃的展開が起きた。中東諸国のニュースが日本のメディアにまで頻繁に登場するようになったが、テロ、戦闘・内乱などのニュースで不可避的に埋め尽くされている。

しかし、アジアから北アフリカにまたがる20ヵ国以上の広大な地域には、もちろん比較的安定した国・地域があり、そこに億人単位の人口が息づき、発展を続けていることも事実である。そこにあるニーズと、日本企業が持つ技術・資本等のシーズをマッチングさせることは、双方にとってWin-Win関係の構築につながり、また中東諸国の安定にも貢献する。

中東諸国が持つ大きなポテンシャル

中東・北アフリカ諸国の人口は、現時点ではASEANより少ないが、合計5億4,000万人である。過去10年間に21.6%増えた。人口構成も若く、長期的にはASEANを追い抜くという推計もある。

ペースの速い人口増は、エネルギーや水の需要も急拡大させている。電力需要が年78%の勢いで伸びている国が多く、サウジアラビア・UAE・トルコ3国だけでも、今後10年以内に1億2,600万kW以上の発電能力を増強しようとしている。

水需要も、GCC諸国の2019年の需要が27億8,900万ガロン/日に達すると予想され、造水能力増強、膜法の利用拡大と効率化、再生水の利用拡大等が急務である。

世界有数の石油・ガス産業に関する需要は言うをまたず、人口と経済の拡大に伴うインフラ需要の大きさは、中東諸国の秩序いかんにかかわらず、日本の経済界として見逃すことのできないチャンスである。

中東諸国から見ると、日本の技術、サービスの質に対する評価は概して高い。また、若年層の失業率が2桁に上るため、外国からの直接投資を何よりも求めている。

とはいっても、セキュリティーの低い地域で事業をすることは容易でないが、日本の資本力と技術力によって経済発展に寄与し、また間接雇用も含めて大規模な雇用を創出できれば、中東諸国の安定のために絶大な貢献となるだろう。武力の効果は限られ、最終的解決をもたらさないことも多いことは20世紀の教訓である。

中東諸国への投資促進

中東協力センターは、第1次石油危機さなかの1973年に発足し、40年以上にわたって活動を続けてきた。官民の結節点として、中東諸国との間で、石油の安定供給にとどまらない重層的な関係の構築と強化を目指してきたところである。

主要な任務の第一は中東諸国への投資促進であり、しばらく前にはサウジアラビアでのペトロ・ラービグのプロジェクトにも関与させていただいた。近年も、金属精錬・加工、電力機器、水処理膜、自動車部品やトラックから紙おむつに至るまで、幅広い業種の投資のお手伝いをさせていただいている。

企業にとってみれば、「投資」はちょっとした輸出ビジネスと違い、規模が大きいほどその国へのコミットメントとなる。トルコのように、投資が自然に流れるようになった国もあるが、概して投資決定までのハードルが多い中東諸国について、当センターとしては、初期情報の提供から、投資後のトラブルシューティングの支援まで、一貫したお手伝いをさせていただく方針である。


表1 投資計画に関する企業の取り組みと中東協力センターの役割


表2「中東協力現地会議」(第38回、第39回)で出されたインフラ輸出に関するご意見


インフラ輸出の促進という観点から

また、中東諸国は、安定のために、膨大なインフラ需要を満たしていく必要がある。日本の優れた技術とサービスが活躍し得る余地は大きく、ぜひ貢献していきたいところだが、韓国、さらには中国等との国際競争に勝っていかなければならないという面もある。

中東協力センターでは、ここ2回の「中東協力現地会議」(ドバイとイスタンブールで開催)において、日本貿易会のご協力も得つつ、2020年にインフラ輸出を約30兆円にするという政府目標実現のための課題を討議した。そこで出されたご意見の抜粋を表2に挙げている。2014年6月以降急速に水準を下げた原油価格が、2015年に入って51.58ドル/バレル(OPECバスケット価格)とほぼ 10年前の水準に戻っているため、中東産油国のインフラ整備のペースも減速し、受注競争が激しさを増す可能性がある。その中で、日本企業によるインフラ整備への貢献が果たせるよう、総理・閣僚によるトップセールス継続の要望をはじめ、受注を目指す企業が他国企業との差別化のために取り組む人材育成についても支援するなど、当センターとしても応分の貢献を果たしていきたい。

「ありのままの中東」の情報発信を通じて

最後に、インターネットというグローバル・インフラが「現代的」武装集団に占拠されてしまっている状況に付言したい。それが、中東諸国といえば全て不安定、という単純化されたイメージを、おびただしい数のインターネット視聴者の間に無意識のうちに醸成している。

ビジネスの可能な地域のありのままの情報も努めて発信しながら、そこにあるチャンスは逃さず、なおかつWin-Win関係を構築できるように、当センターとしては各企業の皆さまと共に取り組んでいきたいと思う。

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