2021年9月号(No.800)
2021年5月、丸紅は竹橋の地で新しく生まれ変わった本社ビルに移転しました。新しいオフィスでは、座席運用方針を「自由席」としたこと、そして、社員が自律的に選択できる「三つの場」を設けたことが大きな特徴です。
さかのぼること4年前、移転に向けて新しいオフィスの検討を開始した私たちは、2017年に社員の代表としてタスクフォースを立ち上げて将来の働き方について議論を行い、コンセプトとして「コミュニケーション」「エンゲージメント」「効率」の三つを軸にすることに決めました。また、座席運用方針としてABW(Activity Based Working)の検討も行い、実際に2018年から一部の部署でトライアルも実施しました。
しかし、当時部署ごとに行ったアンケートでは、約8割の部署が「固定席」を希望する結果に。理由として多く挙げられたのは、コミュニケーション、紙資料や押印書類の回付、マネジメントの難しさなどです。また、総合商社である当社は部署によって業態もさまざまであることもあり、新しいオフィスでは部署ごとに自由席・固定席を選択できる「ハイブリッド型」とすることがいったん機関決定されていました。
しかし、コロナによる緊急事態宣言を受けて状況は一変。全社員がリモートワークを経験することとなり、働き方が大きく変化しました。リモート会議の普及、ICTツールの活用やペーパーレスの促進、場所や時間を選ばない働き方の定着…。これらの状況を踏まえ、2020年10月、最終的な座席運用方針は「自由席」とし、また座席割合は組織人数の70%とすることにしました。
「リモートワークの普及」「自由席への方針転換」「人財の多様化」等の変化を踏まえ、私たちは再度タスクフォースを組成し、これから目指す働き方とオフィスの活用について議論しました。そして、今後は社員一人一人の「意識」がより重要になると考え、新しいオフィスで目指す働き方として、以下を策定しました。
コロナ禍での働き方の変化を受け、オフィスは「当たり前に行く場所」から、「働く場の選択肢の一つ」に変化しました。このような状況下、オフィスが持つ意味とは何か。タスクフォースの議論から見えてきたのは、以下の三つでした。
一つ目は「コミュニケーション」。どれほどICTツールが進化しても、非言語情報や熱量の伝わり方は対面に勝るものはありません。雑談や何げない会話が仕事のヒントになったり、チームの信頼関係につながったりすることもあります。また、偶発的な会話も、リアルな場でしか生まれない体験価値です。
二つ目は「エンゲージメント」。オフィスという共通の場があることで、同じ目標に向かって働く仲間がいる安心感や、組織のチームワークの向上にもつながります。また、オフィスは自社のルーツや歴史をつなぎ、社員の帰属意識を高める場でもあります(新オフィスはそのきっかけになるような仕掛けを取り入れています)。
そして三つ目は、「効率」。働く上で必要な機能が集約されているのがオフィスです。機能的なファシリティやICTツールはもちろん、さまざまな業務に適した多様なスペースがあること、疲れた時にはいつでもリフレッシュできる場があることも大事な要素です。「コミュニケーション」「エンゲージメント」「効率」、この三つの要素がそろっており、ハイパフォーマンスで知的生産活動のサイクルを回すことができるのが、他の場では代え難いオフィスの意味であると考えています。
オフィスの意味として挙げた「コミュニケーション」「エンゲージメント」「効率」の三つ。これらは、コロナ前である2017年のタスクフォースが策定したワークプレイスのコンセプトとも共通しています。コロナによって働き方が大きく変わったことは事実ですが、結局のところ、オフィスで行われる生産活動として本質的に必要なものは変わっておらず、その重要度がより明確になった、というのが正しいのかもしれません。
また、働く場所の選択肢が増えたことにより、社員一人一人が、より良い成果を生むためにどうしたらいいかを考え行動する「自律」が求められるようになりましたし、タスクフォースでは、社員への意識浸透のために目指す働き方の具体的な定義付けや、管理職層に向けた自由席運用に関するマネジメントセミナー等も行いました。オフィス創りとは単純に「場」を創っているのではなく、その運用も含めて、社員の成長につながる大きな戦略なのだと感じています。
昨今はしばしばオフィス不要論が唱えられることもありますが、私たちは、企業にとってオフィスという共通の場があること、人と人がリアルに集まる場所があることには、まだまだ大きな価値があると考えます。企業の成長のためにいかにオフィスを活かしていくか、今後自らのオフィスで検証していきたいと考えています。また、もしかするとこの先もコロナのような予想もしない大きな変化が訪れるかもしれません。そのような中でも、柔軟に、しなやかに、変化に対応していける、丸紅のオフィスはそんな場でありたいと考えています。